翌朝、部屋から出ると、ちょうどセピアも出るところだったようで、顔を突き合わせることになった。
「おはよう」
「おはようございます!」
お互いが挨拶を交わすと、セピアは少しはにかんだ表情で言った。
釣られて俺も思わず笑顔になってしまう。
「今日はいい天気ですね。良い一日になりそう」
俺は柄にもなく彼女に微笑みかけながら「そうだね」と返した。
そして俺たちはいつもの通り満員電車に揺られて出社して、地獄のような労働をこなした(完)
え? 1日のエピソードを一行で終わらせるなって?
そりゃ仕方のない話だ。
労働に妥協は許されない。
キャッキャウフフなんて世界はないのだ。
まぁそんな訳で、俺とセピアは並んで帰り道を歩いていた。
もうこれが普通になってんな。
突然なことばかりで色々と着いて行けないし、まだまだ理解も追いついていないが、護ってもらえることには感謝せねばなるまい。
「それにしても、毎日一緒に帰るのって変に思われないかな?」
「え、大丈夫ですよ。会社の皆さんには、ちょいちょい細工してますから」
えぇ……マジか。
何か怖いんだが?
平然と言ってのけたセピアに軽い戦慄を抱きつつ、俺と彼女は駅へと到着した。
が!
なんだか様子がおかしい。
隣に目をやるとセピアも気づいたようで、周囲を見回している。
「先輩!
はい。また知らない単語ッスね。
つっても想像はつくけどな。
「しっかし襲撃ってこんなに頻繁に起こるものなん? ちょっと多過ぎない?」
「鬼は宇宙のバグと呼ばれています。それに人間界……特に日本の
何処か
それを聞いて納得してしまう俺。
鬱屈した毎日に、閉塞感。
それは
だから俺は日本は好きだけど日本人は嫌いなんだよ。
「でも、セピアに会う前は襲われた事なんてなかったぞ?」
「その話は後でッ! 来ます!」
隣では、セピアが既に
それを見て俺は思う。
せいぜい足手まといにならないようにしよう。
そしてセピアの背後に回り込んだ。
情けないが仕方がない。戦う
セピアの銃から霊的エネルギーが弾丸となって次々と打ち出される。
要はあれが
それは
銃の連射攻撃にもめげず、
――今回は数が多いッ!
「先輩ッ! 抑えきれないかも知れません! 本当にすみません……本当に……お願いです
セピアの声色が上ずっている。
いつもと違って余裕のなさが見て取れる。
だが――
ここに至って俺の
まずは体が強張り、身動きが取れなくなる。
背中を冷や汗が伝い、胸が締め付けられて思考が鈍化してゆく。
言葉が……でない。
俺が
俺は本当に人間辞めるのか?
こんな時でも俺は俺だった。
子供の頃からちっとも変ってはいない。
助けてくれ!
誰か俺に代わって決めてくれ!
俺の心が他力本願な方向へ傾いていく。
セピアは俺が固まっているのを見ると、切り結んでいた
電線に気をつけながら空中で止まると、俺の体を離すセピア。
「大丈夫。結界内だから……」
俺が彼女の結界内で宙に浮かんで何とか態勢を安定させると、彼女は俺の目をまじまじと見つめてきた。
涙目になっているが、ほんのり
彼女の無念さが痛い程なまでに伝わってくる。
「本当に……ごめんなさいッ……私の力が足りないばかりに……」
「正直どうすればいいのか分からない。でもセピアが俺のために懸命になってくれている事は分かる」
「先輩ッ……先輩……すみません……覚悟を……」
セピアの悲痛な言葉にも俺は反応できずにいた。
そんな俺に彼女は優しい声で囁く。
「大丈夫です。私を信じて全てを委ねてください……」
セピアはそう言うと、天使の翼で俺をふんわりと包み込んだ。
心が温かい“何か”で満たされていく。
「……分かった。是非もない」
俺の意志を確認すると、セピアは俺の頬を両手で包み込み何やら
『我、今天に誓う。
言い終えると、セピアの顔が近づいて来る。
っておい。
俺が声を上げる前に、唇で口をふさがれてしまった。
「……完了です。これで先輩は私の
そっと口を話しながら、セピアは涙が光る目を細めてはにかんだ。
これは照れる。大いに照れる!
先程まで固まって動けずにいたのが嘘のように心が晴れる。
心なしかいつもより力が溢れてくるような気がした。
セピアも吹っ切れたのか、一旦瞑目すると再び目をカッと見開いて言った。
「いいですか? 自分の中にあるイメージを膨らませてください。武器は既に先輩の中に眠っています。それを取り出すのです。
あんなことをされて俺の心臓はバクバクだ。
いい歳こいてみっともないが、不意打ち過ぎんだろ。
それに急にシリアスな口調に戻られても困るっての。
無理やり
つっても今はそんなことを言っていられる状況ではない。
目の前の脅威を取り除かねばなるまい。
セピアは俺を地上に降ろすと鬼たちの戦いを再開する。
セピアが言っていたことは、いまいちよく理解できないが、百聞は一見にしかずである。いや、
まぁとにかく、まずやってみろ!ってヤツだな。
俺は目を閉じて頭の中にある武器を想像した。
もやもやとした感じが段々と形になっていくのが分かる。
集中モードに入ったからか、周囲から聞こえていた爆音がかき消されていく。
そして頭の中でイメージが固まると、俺は満を持してゆっくりと目を開いた。
俺の胸の前辺りには、鈍い輝きを放つ一振りの剣が浮かんでいた。
その剣を手に取ると嬉々としてセピアの方に顔を向けた。
「セピアッ! 武器できた!」
そこには、俺を放置して銃を全方位に向けてぶっ
いや、確かに敵が多いから仕方ないけれども。
俺は気を取り直して剣を構える。
今の俺は一転して躁状態だ。
「おしッ! 全員まとめてぶっ飛ばすッ!」
俺は目についた