世界樹は
雪人は世界樹と共に
世界樹が滅びし
雪人が滅びし刻、世界樹が新天地へと導かん――
今から、遠い過去を語りますぢゃ。
其れは遠い、遠い
此の世界には、
砂の上で陽光に身を焦がす
森の中で常時自然と共に在る
雪の下で吹雪の酷寒冷風も愛す雪人。
山の上で天高くへ遠吠えを続ける獣人。
水の中で弄ばるるが
雲の下で風を
互いに交わる事無く、争う事無く、棲み分けして居りましたのぢゃ。
中でも闇人、森人、雪人。
此の三種族は、大別すれば同じ種族ですぢゃ。
御婆と同じ、『エルフ』とも呼ばれる種族なのですぢゃ。
森人。
体は
女性
樹々の上、
近現代で謂う「草食系」「べじたりあん」「ヴぃーがん」なのですぢゃ。
荒れぬ様に森を管理し、
森の守り人、と謂う意味を込めて、森人、又は
闇人。
是は近現代では、『ダークエルフ』と呼ばれて居る者の姿ですぢゃ。
肌は褐色、若しくは其れより尚一層太陽に焼かれた焦茶色、漆黒の髪、深い黒色の瞳。
森人とは正反対で、体格は優れて居り、闇人の最も小さき者でも日本に居る誰よりも
身の丈のみに留まらず、肉体の質も極めて優れて居りますぢゃ。
力は強く、足は速く、視力は良く、近現代で謂う「ふぃじかるもんすたー」なのですぢゃ。
光と炎と熱に強く、灼熱の太陽光の下で苦も無く暮らして居りましてなあ。
是も森人とは正反対で、砂漠に棲息する鳥や獣や虫、何でも喰らう「肉食系」なのですぢゃ。
其の
人の死を扱う事も多う御座いましてなあ。
死を司る者とも伝わって居りますぢゃ。
全身黒の姿、其の見た目から、闇人、又は
雪人。
是は御婆と同じ、北の大地、雪山の中で暮らす希少種の姿ですぢゃ。
一部では、『ハイエルフ』と呼ぶ者も居りますぢゃ。
肌は雪の如く透き通った白色、肌と同じ白金色の髪、薄い白黄緑色の瞳。
森人も闇人も、長命種で数百年の刻を生き永らえますがなあ。
雪人は其れより更に長く、中には千年を超える刻を生きる者も居りますぢゃ。
最早
未だ命の炎が燃え尽きては居りませぬのぢゃ。
特に命短き闇人なら、
森人も闇人も元々個体数が少なく、繁殖力の面では人間を含めた他種族に遠く及びませぬ。
雪人は、其れより更に個体数が少のう御座いましてなあ。
繁殖力も極めて低い種族ですぢゃ。
其の雪人には、生まれ持った使命が有りますぢゃ。
雪人が誕生すると、御祝いに一本の世界樹の苗が贈られますぢゃ。
此の世界樹も極めて希少でしてなあ。
種子は有れど発芽する事は殆ど無く、枝葉を分けて増やす事も出来ませぬ。
其れなのに雪人が誕生する年には、不思議と一粒の種が、必ず芽吹きますぢゃ。
一三二七年、御婆の誕生した年も同じでなあ。
其れより昔、御婆が生まれる前、雪人の間で語り継がれた古代の
近現代迄伝わって居る北欧神話。
是に関して、今、御婆から説明する必要は御座いますまい。
実際の雪人とは懸け離れた姿の伝承ですがなあ。
御婆自身の話は後でします故、其の前に説明するのは野暮ですぢゃ。
然し乍ら、古代埃及で伝わる話には少々口を挟みますぢゃ。
アヌビス。
此の名前を聞いた事は御座いますかなあ。
埃及神話に登場する、狼、若しくは山犬の頭、黒き肉体を持つ、冥府の神とされて居りますぢゃ。
死者の心臓の重さを量る、審判の間迄案内する役目を担って居ると伝わって居りますぢゃ。
此のアヌビスの伝承の基に成ったのが、闇人ですぢゃ。
エルフの最大の特徴が、長い耳ですぢゃ。
御婆の耳も、ほれ此の通り。
長く、鋭く、尖って居りますぢゃ。
長い耳を持ち、全身漆黒の姿をした闇人。
其れが人から人へ伝聞し、悠久の刻を重ねる間に、次第に変化して狼や山犬の姿に成ったと謂う訳ですぢゃ。
人間よりも遥か長い刻を生き、人の死と生の
ぢゃから死を司る
死者の肉体を木乃伊と化す
数千、数万。
数多の人間達を先導し協力し乍ら、巨躯と怪力を活かして
此の刻
力は無く鞆知恵有る者として、各所で指揮監督し、大層役立ったと聞き及んで居りますぢゃ。
左うした功績が認められ、闇人森人が揃って壁画に描かれ、伝説として遺されたのですぢゃ。
闇人がアヌビス。
其の対と成るバステトが森人ですぢゃ。
犬猿の仲等と申しますなあ。
犬と猫も普段は大層仲が悪く、自然の中で出会わば常に喧嘩と縄張り争いを繰り広げますぢゃ。
闇人と森人の対比。
闇人が耳の長い犬なら、森人は耳の長い猫。
左う謂う風に壁画に描かれ、人の世には犬の頭のアヌビス、猫の頭のバステトとして伝え広まったのでしょうなあ。
御婆は直接、其の様子を見ては居りませぬ。
然し乍ら、実際の話と、近現代に遺る伝承、其処から逆算して考えるに。
当時、闇人と森人が
実に興味深いと、御婆は左う思う処ですぢゃ。
御婆と雪人の話に戻りますぢゃ。
雪人は森人と同じく、自然を愛し、殺生を嫌いますぢゃ。
動物の命を頂く事無く、生まれた刻に贈られる世界樹の実と雫が主な栄養源ですぢゃ。
日本には、霞を食べると謂う言葉が有りますなあ。
仙人が殆ど飲まず食わずで生きて居る様を表す言葉ですぢゃ。
御婆と共に暮らして居た雪人は、其の言葉通り、僅かな食で永く健康に暮らして居ったのですぢゃ。
左う左う、日本の有名な「あにめーしょん」にも、其の様な仙人が居りましたなあ。
確か「どらごんぼーる」と謂う「あにめーしょん」で、「かりんさま」と謂う名前でしたかなあ。
其の生き様は、雪人の生活に極めて近しいですぢゃ。
世界樹の下で、世界樹の恵みで生きる雪人。
高い塔の上で、仙豆を栽培し生きる「かりんさま」。
其れは丸で、御婆
話が脱線しましたなあ。
雪人は生涯を通して、世界樹一本分の恵み
其れ故、周囲の動物とは、棲む場所も食べる物も、争い奪い合う必要が無いのですぢゃ。
逆に雪人以外には、世界樹の恵みを享受出来ませぬ。
世界樹の実も、世界樹の雫も、常人や動物が口にすれば命が有りませぬ。
雪人に取っては此の上無き御馳走でも、其の他の動物の胃袋には過ぎたる負担と為り、悶え苦しんで絶命に至りますぢゃ。
左う謂う悲劇が大昔に幾度となく起きましてなあ。
二度と悲劇が繰り返されぬ様、太古の雪人は防止の為の秘術を編み出したのですぢゃ。
近現代で社、知る人が増えましたなあ。
光の屈折を利用し、瞳に映らぬ様に為す秘術ですぢゃ。