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黄泉の手の視える
黄泉の手の視える
竹間単
BL学園BL
2025年06月16日
公開日
1.6万字
完結済
同じクラスの神霧君は、独特の雰囲気を持つ少年。 そのミステリアスな神霧君に、ある日突然「死相が出ている」と言われて――。

第1話


 神霧君は、独特の雰囲気を持つクラスメイトだ。

 ミステリアスというのだろうか、掴みどころの無い人で、他のクラスメイトとはまったく違う佇まいなのだ。

 そのせいで神霧君はクラスの男子から敬遠されているところがある。

 しかし神霧君がぼっちかと言うとそんなことはなく、少し陰のあるミステリアスな男子というのは魅力的に見えるようで、いつも女子に囲まれていた。

 顔も整っているため、校内には神霧君のファンクラブがあるとか無いとか。

 それが面白くないからだろう、ますます神霧君に近づく男子はいなくなっていた。


「やあ、大石君。ちょっといいかな」


 だから神霧君に話しかけられたときには大層驚いた。


「えっ、僕……ですか?」


「ふふっ。そんなに身構えないでよ。君とは前からじっくり話してみたかったんだ」


「神霧君が、僕と?」


 自慢ではないけど、僕はミステリアスなモテ男と共有できるような話題は持っていない。

 それどころか、僕はクラス内でぼっちの陰キャだ。

 一緒にいたら神霧君の評判が下がる可能性がある。


「僕みたいな人間には関わらないほうがいいですよ」


「火傷するから?」


「火傷……?」


「俺に触れると火傷するぜ、みたいな」


 少し間を置いてから、神霧君が冗談を言っているのだと気付いた。

 慌てて首を横に振る。


「僕なんかに触れたところでそんな効果はありませんよ。僕はそんな刺激的な人間ではありませんから。人畜無害と言いますか、何も無いつまらないやつと言いますか……」


「それなら火傷を気にせずに触れ合えるね。ほら、一緒に帰ろう」


「そりゃあ火傷を気にする必要はありませんけど……あれ? もしかして神霧君は口が上手いタイプですか?」


 いつの間にか神霧君と一緒に帰る流れになっている。

 コミュニケーション能力が高いとは、こういうことなのかもしれない。

 その割には、神霧君は男子とは距離が出来たままだけど。

 もしかして、神霧君は女子と一緒にいるほうが楽しいから、あえて男子とつるまずに女子と一緒にいるのだろうか。

 羨ましい。


 ……いや僕は断じて女好きなわけではないのだけど。

 ただ、望んだ方と一緒にいられるその環境が羨ましいのだ。

 僕はどちらを望もうとも、どちらの仲間にも入れてもらえないから。



   *   *   *



 神霧君と一緒に校門へ向かって歩いていると、どこからか視線を感じる気がする。

 僕一人で歩いているときには感じたことのない視線だ。


「大石君は見られることが苦手?」


 僕がそわそわしていることに気付いた神霧君が、柔らかい口調で質問をした。

 神霧君は向けられた視線に一切動揺をしていないようだ。

 きっと僕がそわそわしてしまうこの視線は、神霧君にとってはいつものことなのだろう。


「注目されることは得意ではないですね。神霧君は平気なんですか?」


「もう慣れたよ。でも俺も、じろじろ見られるのは好きじゃないんだ」


「意外です。神霧君はいつも女子たちの真ん中にいるので、注目されることが好きなのかと思ってました」


 僕の言葉を聞いた神霧君は、困ったように眉を下げた。


「俺がいるのは自分の席だよ。女子には勝手に周りを取り囲まれてるだけ」


「勝手に人が集まってくるのは、すごいことですよ。人望があると言いますか……」


「鬱陶しいだけだよ」


 神霧君はうんざりしたようにそう言ったけど、それでも僕はすごいことだと思う。

 だって僕が一人で席に着いていても、周囲に人は集まらない。

 やはり神霧君は僕とは違う世界の人だ。


「それで、大石君はどうして敬語なの? 俺とはクラスメイトなのに」


「何と言いますか、人気者に対してタメ口を使うのは申し訳がないと言いますか」


「あははっ、大石君って変わってるかも」


 神霧君は楽しそうにケラケラと笑うと、僕の顔を覗き込んできた。


「ねえ、大石君って占いとか信じるタイプ?」


「占い、ですか?」


 神霧君の中では「変わっている人は占いが好き」という方程式が成り立っているのだろうか。

 いや僕は別に変っている人ではないのだけども。


「占いは好きでも嫌いでもないですね。テレビで朝の占いがやってたら見るくらいで……」


「ふーん」


 神霧君が僕の目を見つめながら言葉を紡ぐ。


「もし俺が、占いが出来るって言ったら……大石君は信じる?」


 占いが出来る? 神霧君が?


 ……正直なところ、信じない。

 神霧君がどうこうと言うより、占い自体を信じていないからだ。

 テレビでやっている朝の占いも、エンタメとして見ているだけで、信じているわけではない。


 しかしいくらコミュ障の僕でも、今ここで占いを信じないと言うべきではないことくらいは分かる。

 だから、こう返す。


「神霧君は占いが出来るんですか?」


「ふふっ、どうだと思う?」


「えっ」


 予想外の言葉に戸惑う。

 まさか質問で返されるとは思っていなかったのだ。


「あれ、困らせちゃったかな? ごめんごめん」


 硬直した僕を見た神霧君がふわりと笑った。


「とにかく俺には分かるんだけど、大石君は気を付けて行動をした方がいいよ。死相が出てるから」




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