目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第2話


 死相が出ている!?

 これは新手のいじめだろうか。それとも僕には本当に死相が出ているのか!?


 どちらにしても、喜ばしい状態ではないことは確かだ。

 そう感じた僕が微妙な表情をしていたからだろうか、神霧君が僕の肩を軽く叩いた。


「怖がらなくても大丈夫だよ。俺の近くにいれば、俺が守ってあげられる。消すことは出来ないけど、経験上邪魔をし続ければ諦めてくれるから」


「邪魔? 諦める?」


 僕が首を傾げると、神霧君は悪戯っぽくウインクを飛ばしてきた。


「こっちの話だよ。でも、もう少し仲良くなったら話せるかもね。あっ!」


 急に神霧君に肩をぐいと引かれた。

 え?と思ったときには、僕の真横をスピード違反の車が走っていった。


「うそ……」


 もし神霧君に肩を引かれなければ、今頃僕はあの車によって怪我をさせられていただろう。

 もしかすると怪我どころか死……。

 ぞくりと鳥肌が立った。


「さっそく、か」


 顔をこわばらせる僕の横で、神霧君が呟いた。



   *   *   *



 占いを信じていない僕でも、さすがにあんな目に遭えば気を付けざるを得ない。

 家に帰ってからも、危険なことはしないように注意を払いながら過ごした。

 それにしても。


「僕に死相が浮かんでるっていうのは本当なのかな」


 神霧君には確信があるようだった。

 ぼんやりとした予感で死相が出ていると言っているわけではなく、本気で僕のことを心配していた。


「もしかして神霧君は……凄腕の占い師?」


 「凄腕の占い師」は現役男子高生に似合わない単語だけど、ミステリアスな神霧君にはなんだか似合っているような気がする。

 とにもかくにも。


「近くにいれば守ってくれるって言ってたよね。明日からは常に神霧君の近くにいようかな……」


 女子に囲まれる神霧君に近づくことはしたくないけど、命がかかってしまってはそうも言っていられない。

 神霧君がなんかすごいミステリアスパワーで僕のことを守ってくれるのなら、全力で甘えたい。

 だって僕はまだ死にたくない。


「でもどうして神霧君は僕に親切にしてくれるんだろう。僕、神霧君に何かをしてあげたことがあったっけ?」


 考えてみたけど、思い当たる事柄は無い。

 それどころか神霧君と話した回数は数えるほどだ。

 それを思うと神霧君は僕だから助けたわけではなく、博愛精神から死相の出ている僕を放っておけなかった可能性が高い。


「顔が整ってる上に性格までイケメンだなんて、雲の上の人だなあ」


 ぼーっとしつつ湯船に潜ってから、ハッとして顔を上げた。

 風呂場で亡くなる人は少なくない。

 今の僕にとって風呂場は危険な場所なのだ。


 僕はゆっくりと湯船から上がると、これまたゆっくりとした動作で脱衣所へと移動した。



   *   *   *



 翌日。神霧君に守ってもらおうとは思ったものの、いざ女子に囲まれる神霧君を見てしまうと近づきにくい。

 そう感じた僕がまごまごとしていると、神霧君の方から僕の机の前に来てくれた。

 何事かとクラスメイトの視線が集まる。


「おはよう、大石君」


「お、おはようございます」


「何事もなく登校できたようで良かったよ。あのあと危険なことは無かった?」


 視線慣れしているらしい神霧君は、クラスメイトの視線などものともせず僕に話しかけてきた。


「あ、はい。おかげさまで無事に過ごせました」


「それは良かった。でも気は抜かないようにね。まだ君の周りには手があるから」


「手?」


 神霧君は僕のこの質問には答えず、代わりに別の質問を投げてきた。


「大石君は今日の放課後は暇? 一緒に遊びに行こうよ」


「えっ!? 僕が神霧君と遊ぶんですか!?」


「嫌かな?」


 驚愕する僕の様子を見た神霧君が、寂しそうな表情をしたため、慌ててそういう意味ではないと弁明をする。


「決して神霧君と遊ぶことが嫌なわけではなく、何をして遊べば神霧君を楽しませられるのか分からないので……神霧君が嫌いとかそういうことではありませんからね!?」


「楽しませるって、ふふっ。俺は接待相手じゃないんだから固くならなくていいよ。ただ一緒にカラオケでも行こうってだけ」


 僕を守ってくれる神霧君と放課後にも一緒に行動が出来るのは、僕にとっては願ってもない提案だ。

 僕の死相が消えるまでは、なるべく神霧君には近くにいてもらいたいのだから。

 僕の死相が消えるまでは……。


「あの、僕の死相は一体いつ消えるんでしょうか?」


 小声で神霧君に尋ねてみた。

 そもそも一度浮かんだ死相は消えるものなのだろうか。


「具体的にいつとは言えないけど、しつこく邪魔をしてたら消えたことがあるから、何度も邪魔をするのが消すコツなんだと思う」


 ということは、神霧君に僕が死にそうなところを何度も助けてもらった方がいいのだろう。

 しかしいつまで続くかも分からないのに、そこまで甘えてもいいものだろうか。


「ああ、気にしないで。俺がやりたくてやってることだから」


 神霧君が僕の言葉を先回りしてそう言った。

 やはりイケメンは違うなと実感すると同時に、神霧君と同い年である自分の不甲斐なさにガッカリしてしまう。


「神霧君はすごいですよね」


「何が?」


「何というか、全体的に。羨ましいです」


「俺は君の方が羨ましいよ。君というか、俺以外のみんなが」


 隣の芝生は青いというやつだろうか。

 神霧君が僕に劣っているところなんて一つも無いというのに、不思議な話だ。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?