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39 お弁当、豪華になる

 フロードルを脱出した私たちは、とにかく門から真っ正面に全力で走った。

 10分ほど走ったところで子供たちを見つけて、お互いに駆け寄って合流することができた。


 私たちの10分の全力疾走はかなりの距離を稼いでるから、もし城から追っ手が来てもまず追いつけないはず。

 ありがとう、レティシアさん!


「背の順に並んで、人数チェックするよ!」


 さやかちゃんを降ろして二列に並ばせて、とりあえず全員いるかをチェック。

 男子18人、女子16人、間違いなくいた。数えながら、ここに来る前に霧の中で同じように人数チェックしたなと思い出す。

 なんだか遥か昔に思えてしまうのは、ここに来てからの日々が怒濤過ぎたせいだろう。


 その日は、ひたすら南へと向かって歩いた。とにかくフロードルから離れるために。

 途中でオークとかが向かってきたけどこっちが走って逃げたら向こうが追いつけないまま付いてきた。

 そして恐ろしいことに、気がついたら100匹くらいの大群になってたので八門遁甲の椅子で足止めしてから横陣おうじんでの複数回の椅子攻撃で撲滅。


 そこでやっと私たちは足を止めた。

 もし追っ手が来ていても、モンスターの群れに阻まれて近づけなかったはずと確信できたから。


「ふえええ……逃げ切れた」


 私は脱力してへなへなと座り込んでしまった。悠人はるとくんがコンテナから出てきた冷え冷えのスポーツドリンクを渡してくれたので、一気にそれを飲み干す。


 全く、システム管理者、私たちの世界のことどれだけ覗き見してるのかなあ。出てくるもののチョイスが絶妙すぎるよ。

 いや、もしかして優安ゆあんちゃんの願望も混じってるのかもしれないけど。そっちの方がしっくりくるかも。


 今日はまだお昼ご飯も食べられていない。子供たちも食べていないはずで、さっきから太一くんとか我慢できないタイプの子はご飯ご飯と騒いでいた。

 そういう子たちがコンテナを覗き込んで歓声を上げている。


「先生、お弁当凄いよ!!」

「えー、どれどれー……うわっ!」


 六三四むさしくんの興奮した声に私は軽い気持ちでそちらに目を向け、そしてガチで驚いた。

 いつもはゾウさんとウサギさんの絵柄がプリントされているお弁当箱なのに、今回は黒塗りのでっかいお重だったのだ。


 二段のお重におののきつつ開けてみると、真っ先に目に飛び込んできたのは伊勢エビのテルミドール!

 他に見てすぐわかるのは、何かの湯葉巻とか、お造り3種盛りとか、2色盛りのシャーベットとか。後は名前がわからないけどとにかく彩りも綺麗で美味しそうなものが詰まっていた。


 下の段には手毬寿司が可愛らしく並んでいて。――これは、結婚式の料理かな? 少なくとも私はこんな和洋折衷で豪華な料理は結婚式以外で見たことない。


 オークとコボルトとゴブリンの混成100匹討伐の結果が、「量では無理」と思ったのか内容の立派さ方面に割り振られている!


 凄い。エビ大好きな雪綺せあらちゃんが目の色を変えている。他の子たちも豪華なお弁当に大興奮だ。


 日直さんの挨拶もそこそこに、私たちは夢中でお弁当を食べた。凄い、ちゃんと伊勢エビのテルミドールが温かい! 上に掛かっているソースはホワイトソースとマヨネーズが混じっているのか、これは絶対子供も好きな味。

 そして、中のエビはプリプリで、食べながら思わずにやけてしまう。


 いやー、人間って凄いね。

 王様に啖呵切って投獄されて脱獄して、あんなにアワアワした後なのに、美味しいものを食べたら笑ってしまうんだから。


「わー、おいしーね!」

「うん、すっごくおいしい!」

「エビ最高ー」


 これ大人の1人前じゃないの? と思ったんだけども、子供たちもお腹を空かせていたせいかびっくりするくらい綺麗に食べている。

 希望のぞみちゃんが泣きながら「湯葉久しぶり」って食べてた。相変わらず食の好みが渋い。


 35個のお重の中身は、食べきれない子の分をちょっと物足りなかったりした子や私が食べて、綺麗になくなった。

 シャーベットは最後に食べたけど、桃のシャーベットとバニラアイスで、こってり系のテルミドールを食べた後だとさっぱりして口の中が幸せ!

 一時期パニックを起こして泣いていたさやかちゃんも、満足したのか幸せそうにしている。


 お弁当で元気を取り戻した私たちは、ちょっと休憩してからまた歩き始め、日が傾き始めてからキャンプを張った。


 追っ手が来たときのことを考えて私たちの使う椅子テントを囲むように椅子結界を置こうかと思ったんだけど、あれは人間は通れてしまう。

 なので、一翔くんに八門遁甲の椅子をたくさん出してもらって、周囲の守りを固めた。


 いつも通りの、5個の椅子テント。そして2セットの椅子風呂と椅子脱衣所。6個の椅子トイレ。

 ……なんだろう、これを見ると無性に安心するわ……。友仁ともひとくんたちじゃないけど、「椅子最強だね!」って私まで言ってしまいそう。


 そしてその日はゆっくりお風呂に入り、牢獄で恋しいと思った防災頭巾の床の上で毛布に包まって眠りに就いた。

 お弁当で回復したと思ったけども、やっぱり精神的にも肉体的にも疲れていたのか、目をつぶったら秒で落ちた。



 翌朝テントから顔を出した私が見たものは――。


「お、おお……やだー」


 思わずそんな声が出てしまう。

 椅子テントの周囲を囲んだ八門遁甲の椅子の中では、回りすぎて酔ったのかぶっ倒れているオーガや、仁王立ちになっているキメラのようなモンスターがいたのだ。


 ライオンの頭にヤギの胴体、そしてヘビの尻尾を持つモンスターと言ったら、私はキメラしか知らない。尻尾のヘビがぐるんぐるん回っているのを見ると、あれも回りすぎて酔った挙げ句に回復待ちしているところなのかもしれない。


 まだ子供たちが起きていなかったので、私はそれを見なかった振りをしてテントに戻った。

 そして、ある程度の時間が経ってから改めて子供たちを起こし、動けないモンスターたちに対して椅子乱舞で一方的な戦闘をして片付けた。


 八門遁甲の椅子、本当にいい……。これなら、いつかのように「テントの布をめくったらコボルトが待ち伏せしてました」なんてことにならない。


 ゲットした朝ご飯は昨日のお重ほどではないけども結構豪華で、やはり幼稚園のお弁当箱じゃなくて小さめの二段のお弁当箱が出てきた。

 脂ののった焼き鮭や温泉卵、味海苔やナスの煮浸しなどが入っていて、炊きたてご飯がほかほかと湯気を上げている。


 出汁に浸された温泉卵をスプーンでそのまま食べる子、ご飯の上に掛けてちょっと変わった卵かけご飯にする子、「黄身の感じが嫌」と言って避ける子……。反応も色々だ。


 やっぱり、モンスターの存在力というやつによって、出てくるものが変わるんだなあ。

 しかもここのところはずっと騎士団の人たちと一緒に行動してて、出てくる食べ物はまず量を優先されたみたいだったから、急に豪華になった食事に困惑してしまう。


 食べますけどね。美味しく食べますけど。豪華なご飯万歳!


 そして、ご飯に気を取られてうっかり忘れてたけど、南下したせいかモンスターが明らかに強くなってる。オーガが5匹以上いたし、キメラなんて本当に初めて見たし。


 このまま南下を続けると、どんどん魔の森に近づく分モンスターは強くなるはずだ。

 ちょっと、怖いかも。こちらの強さと敵の強さの見極めを慎重にしながら進まなければ。



 朝食後に移動を続けていると、遠くに街らしき壁が見えてきた。恐らく、マーズルかヘンリンか、そのどちらかだろう。

 立ち寄るべきかこのまま素通りすべきか悩みながら、様子を窺いつつ近づいていく。

 そして、その都市がまさにモンスターに攻撃されている現場に私たちは遭遇してしまった……。


「先生」

「大丈夫、わかってるよ。助けよう!」


 心配そうにしていた桂太郎けいたろうくんに、今度はためらわずに告げる。

 遥か東には黒い森の影と、その更に遠くに白い山並み。あの森からきっとモンスターは来ている。


 都市は頑丈そうな石壁で囲まれていた。マーズルにしろヘンリンにしろ、何度もフロードルとオルミア両国の間での戦争に巻き込まれてきたなら、守りが強固なのは納得できる。


 モンスターも石壁に体当たりしたりしているけども、大したダメージは与えていないようだ。とはいえ、放っておくと人が出入りできない。


 こっそりとモンスターに近づき、こちらの攻撃が確実に先に届く距離で横一列に展開。


横陣おうじんにひらけ。――椅子召喚!」

「「「「「椅子召喚!」」」」」

「ファイエル!」


 都市の外壁を襲っていた10匹ほどの強めなモンスターは、椅子でボコボコにされて消えた。

 そして、その途端に閉ざされていた門が開いて、人が駆けだしてくる。

 私がその人物に警戒していると、こっちに向かってきた男性が少し距離を開けたまま両膝をついて、胸の前で手を組んで大声で叫び始めた。


「おお! これこそ神の遣わせし救い! 聖女の仰るとおり、我々の祈りは届きましたぞ! この子供たちが、魔物の脅威から我々を救ってくれたのです!!」


 かなり大げさな身振り手振りで、都市の中にまで届くほどの大声を出しながら彼は私たちを拝んだ。

 魔物に門を閉ざしていた都市の中から、盛大な歓声が上がる。それを確認してから、彼は都市に背を向けたままでニヤリと笑った。


「ミカコ様、そして椅子使いの子供たちよ。総大司教猊下と聖女レティシア様より届いた文にて事の次第は存じております。私の名はライリー、このソントンの教会を預かる司教です」


 あ、この人食えない人だ。彼の表情で私はすぐに気付いた。


 モンスターに都市が襲われていたら、きっと私たちが助けに来る。それをわかってて、私たちを都市の救い手として喧伝し、住民の支持を得る。

 ――今のはきっと、そんな茶番だ。


 それでも、歓迎されるのはありがたいことに間違いない。

 レティシアさんも本当に教会の全面的な支持を勝ち取ってくれたんだ……。きっと昨日私たちがフロードルを出てから、すぐに総大司教の元へ行ってくれたんだろう。


 そして、異様に早いこの伝達は伝書鳩か何かか。

 本当に教会のネットワークって凄い!

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