ソントンを出てからモンスターを倒しながらマーズルへ移動。
マーズルの周りをぐるっと回って、その近くにいたモンスターを全て片付ける。
LVは、いつの間にか50に上がっていた。
だよねー。この辺、もうゴブリンとか見ないもん。最低でもオーク。当たり前なのがオーガ。キメラは強い方。
一度だけ、グリフォンっぽいのが出てきて焦った。だって飛ぶんだもん。
但し、グリフォンが翼をはためかせて飛んだ瞬間、
「やだー! 椅子召喚っ!!」
叫びながら
なんだろう、聖那ちゃんって「飛行キラー」とかそういう能力でも持ってるんだろうか。
「せ、聖那ちゃん、今の虫じゃないよ?」
「でも、でっかくてバサバサしてた! いや!」
超理論だ!
今のところ、何故かSTRの数値において最高値を誇る
やっぱり、特定の系統の敵にだけクリティカルを出すとか特効があるとか、そういう隠しステータスがある気がするなあ。
但し前者は本人の性格から色濃く影響を受けたものだけど、八門遁甲の方は「他の子はその概念を理解してないから出せない」って感じみたいだった。
それに対して、椅子テントや椅子風呂とかは、子供たちにとって馴染み深い、もしくは見ればすぐ理解できるものだから誰でも出せる。
まあ、本当のところがどうなのかはわからないけど。ステータスに出てこないし。
双子都市の中間にキャンプを張って、昨日と同じように周囲を八門遁甲の椅子で囲んで就寝。
朝起きると、椅子の中でぶっ倒れているオーガとキメラ……。
これ、凄くいいな。ごきぶりホイホイとかそんな感じがする。モンスターホイホイ。
頭ぐらぐらさせながら前足ピクピクさせて倒れているキメラなんてものを見て、笑う日が来るなんて想像したこともなかったよ……。
モンスターが出られないのをいいことに、のんびりと椅子脱衣所で顔を洗って、私は笑いながら八門遁甲の椅子の中でうだうだしているモンスターを観察してた。
「あはははは……は?」
私の目を釘付けにしたのは、椅子の中でぴるぴるしてる1体のスライムだった。
いつもの水たまりっぽい奴じゃなくて、妙にキラキラしている。
え、これってもしかして、倒すと大量に経験値が入る系のレアなやつでは!?
「みんなー! 起きてー!! はぐれでメタルな感じのスライムがいるー!!」
それが小学1年生にとってはどの程度認知度があるかはわからなかったけど、私の大声に子供たちが続々とテントから出てきた。
「うおおお、メタルだ!」
「面白ーい、ぷるぷるしてる」
いつもはモンスターを観察してる余裕なんかないから、珍しいスライムを見て一部の子供たちも大喜びしてる。
「じゃ、さくっと朝ご飯をもらいましょうか! 椅子召喚!」
「「「「「椅子召喚!」」」」」
「ファイエルー!」
号令を掛ける私の声もウキウキだ。
八門遁甲の椅子の中に囚われているモンスターたちは椅子の3連撃でやっと全滅した。
やっぱり、今の時点でちょっと敵が強いかな。八門遁甲の椅子があるから安全に戦えてるだけで。
テントの周りにいたモンスターを全部倒してからステータスを確認したら、LVが52になってた!
やっぱりあれは、はぐれでメタルなスライムだったんだ!
朝ご飯はもはやお弁当では存在力を消費できなかったのか、ビュッフェだった。
たくさんのフルーツに、ほかほかオムレツ、ローストビーフ、バターが香る焼きたてクロワッサン。やたらめったら美味しい牛乳やオレンジジュース。
他にも美味しそうなものがたくさん!
こっちの世界に来るまでは、子供たちとは給食しか一緒に食べたことがなかったから知らなかったけど、お昼はちゃんと食べられるけど朝がすっごく弱い子っていうのは何人かいて。
でもクロワッサンやパンケーキとかは嬉しそうに食べていた。
しかし、朝から豪華だ……。これ、どんどん南に行ったらどうなってしまうんだろう。
その内、フランス料理のフルコースとか出てきてしまうんではないだろうか。
「おいしー!」
希望ちゃんは「虫かよ」ってくらいお皿にフルーツを山盛りにして、あっという間にお皿を空にしていた。
私は、と言えば。
全種類制覇しました。とても美味しかった。
クロワッサンなんて久しぶりで、焼きたてでパラパラと崩れてくる外側の部分に困りながらも頬が緩む。甘いタイプじゃなくて、ちょっと塩味がする正統派のクロワッサン。
1個はそのまま食べたけど、2個目は無理矢理裂いてローストビーフを挟んで食べたら凄く美味しかった!
ああ、クリスさんとかレティシアさんがいたら、きっと大喜びで食べるんだろうなあ。
クロワッサン、食べさせてあげたかったな。きっとこれも「手を伸ばす憧れの星」になったんだろう。
とはいえ、感傷に浸っていても何も進展しないので、私たちは朝ご飯を食べるとまたソントンとマーズルの間を往復しながらモンスターを片付けていった。
翌日からは、ソントンから東に向かって、森に近づく方向で移動を始めた。
二日間ここで様子を見たけど、やっぱりモンスターは森の方から来てる。だったら、マーズル方面に行くのは時間の無駄。森に近づいた方が、双子都市に近づくモンスターを一気に殲滅できる。
とりあえず今の目標はLVというよりは、LVアップに伴うステータスアップの方。この先に進むと多分キメラが当たり前の出現度になってくるはずだから、それを一撃で倒せるくらいになりたい。
それと……欲を言うなら、はぐれでメタルな感じのあのスライムにもう一度……いや、一度と言わず二度三度遭遇したい!
そんな欲を抱いていたせいかスライムには遭遇できなかったけど、3日も森に近い場所で戦い続けたら、LVは60まで上がっていた。
一度森から引き上げて、私たちはソントンのハーストン伯邸を訪れていた。
目的は、私たちが来てから魔物被害がどうなったかを確認するため。
一定距離の中に私たちがいたら、モンスターは私たちに向かってくる。それはわかってるんだけど「一定距離」というのがアバウトで、いまいち把握できないのだ。
最初に私たちが転移してきた場所はエガリアの森付近で、あそこを基準にして考えると確か森までは50キロから60キロくらい離れていたんじゃないかと思う。
でも、森からさまよい出たモンスターが草原にわらわらいたとしたら、「一定距離」が50キロくらいなんて安直には考えられない。
「やあ、今日も元気そうで何よりだ! どうだ、みんな。困ってることがあったらおじさんに言ってごらん?」
「元気だよー!」
「早くおうちに帰りたい……」
「ううむ、それはおじさんにはどうにもならないなあ……」
今日もハーストン伯は子供好きのゴールデンレトリバーだ。黄色くてふさふさの尻尾がブンブンに揺れている幻が見える。
「お忙しいところをありがとうございます。魔物の状況について伺いたいのですが。どうですか? 私たちがここに来て以来減ったでしょうか」
ちょっと不安だった私の言葉に、ハーストン伯は満面の笑みで両手を広げて見せる。
「いや、全く素晴らしい! 貴女方が来て以来、街の近くで魔物を見ることすらなくなりました! 住民も久々に魔物の脅威から解放されて安心しています。マーズルとの行き来もしやすくなって、商人も喜んでいますよ!」
「それは良かったです! では、このままもう少し森の近くで魔物を集めて退治することを続けますね」
「なるほど、魔物は森から来るから森を押さえればこちらまでは来られないと言うことか」
「はい。以前にもエガリアの森付近の魔物をあらかた片付けたことがあって、私たちがそこから去っても魔物が村を襲うことはなくなったそうです」
「それは頼もしい。つまりは、この辺りにいる魔物を全て倒すつもりでいると」
「そうですね、それができればいいとは思います」
「その時には、この子たちとはお別れか」
「ともあれ、街の民から感謝の言葉がたくさん届けられていてな。同じくらいの子供も君たちを応援しているよ。『魔物退治屋さん、頑張って』だそうだ」
「魔物退治屋さん……。ふふっ、それいいですね。私たちは騎士団でもなんでもないですし」
「お風呂屋さんもやったんだよね!」
「今度は魔物退治屋さん!」
子供たちの間でも、その呼び方は案外好評だったようで。
街から出るために歩いている間、