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第13話 隠し子


三日後、佐々木グループ主催のパーティー。

佐々木家の本邸は山頂にそびえる別荘。山全体が佐々木家の敷地で、麓から頂上まで曲がりくねった道路が延びていた。

美咲はもともとこのパーティーに興味などなかった。

だがここ数日、佐々木健太という名をあちこちで耳にした。

まるで東京中が騒いでいるようだ。

一体どんな人物か、一目見てみたいと思った。


この日は来賓の車列が山道を埋め尽くすほどの盛況。

本邸まであと少しという場所で、茉莉が運転手に停車を命じた。


ドアが開くと、先に降りた茉莉に続いて美咲が姿を現す。

二人は腕を組んで佐々木邸へ向かう。


茉莉が美咲に選んだのはシルバーのストラップドレス。無数のフリンジダイヤモンドが縫い込まれ、歩くたびに全身がきらめく。

薄暮の中でも、美咲の輝きは隠せなかった。


ボディコンシャスなシルエットがスタイルを強調し、右側の高いスリットからは、歩くたびに細長い脚の線がのぞく。

シルバーのピンヒールがさらに脚を引き締めて見せた。

もともと華やかな美貌が、さらにレベルアップ。


今日はロングヘアをアップにまとめ、後頭部に真珠のヘアピンを留めている。

そのおかげで冷たさが和らぎ、上品な雰囲気を添えていた。


佐々木邸の威風堂々たる門前に、二人は思わず息をのんだ。

鈴木家も東京有数の名家。ここ数年で茉莉の兄が事業を継ぎ、さらに躍進していた。

だが裕福な令嬢である茉莉でさえ、佐々木本邸の豪奢さに驚きを隠せない。


宴会場に足を踏み入れると、たちまち来場者の視線が集まった。

二人の並ぶ姿は実に絵になる。

美咲の存在感もさることながら、茉莉の美貌とスタイルも非常に目を引いていた。

この日は真紅のストラップレスロングドレスをまとい、普段はストレートの黒髪を大きなウェーブに。揺れる宝石のイヤリングが気品を放つ。


美咲の可憐さとは対照的に、茉莉は近づきがたい妖艶さをまとっている。

二人が並んで現れた瞬間、場の空気が吸い込まれた。


「あの姉妹はどこのお嬢様?左の方はシャンデリアより輝いてるわ」

誰かが呟いた。

美咲の長い首筋にはダイヤのティアラネックレス。光の加減で、どの角度からもきらめきを放っていた。

まばゆいばかりの輝きに、誰もが目を離せない。

女性たちの眼差しは羨望に、男性たちは陶酔と欲望に曇っていた。


「鈴木家の令嬢と佐藤美咲さんだよ。美咲さんは間もなく田中俊彦氏とご婚約なさるから、ご機嫌なんだろうね」

「佐藤さんって、無理に田中氏に取り入ってるって噂じゃない?彼には本命の恋人がいるらしいよ」

「そうそう。美咲さんには後ろ盾がないから、田中氏にすがるしかないんだろうねぇ……」


集まった婦人たちの囁きは小さかったが、美咲と茉莉の耳にはしっかり届いた。

彼女たちは常に時流に乗る者たち。佐藤家が繁栄していた頃は、幼い美咲をまるでお姫様のように扱っていたのに。

今、佐藤家が没落し、美咲が孤立すると、手のひを返したように見下すようになった。

口にする言葉も、悪辣さを増していた。


茉莉は我慢ならず、その長舌の女たちに詰め寄ろうとした。

怒りで手が出そうな勢いに、美咲は慌てて制止する。

「今日は佐々木家のパーティよ。ここで騒いじゃだめ」

「あの人たちが先に余計なこと言ったんだもの! こんなドレスじゃなければ、口を裂いてやるのに!」


美咲の瞳が暗く沈む。

彼女は元々、耐え忍ぶ性格ではない。かつては俊彦のために多くの侮りや罵声を耐えてきたが、もう我慢はしない。


脇に置かれたフルーツジュースを手に取ると、軽やかな足取りで婦人たちの前に立った。

最も多く喋っていた婦人に、グラスを差し出す。

噂の本人が来ると、婦人たちは慌てて口を閉ざし、きょとんとした表情で美咲を見つめた。

美咲は優雅に微笑んだ。華やかな美貌に上品な笑みを浮かべて。

だが口にした言葉には、鋭い棘が隠れていた。


「お口からろくな言葉が出ないなら、ジュースでお口を塞げるかと」

下品な言葉だが、美咲の表情は礼儀正しいまま。

婦人たちは、皮肉ではなく本気でジュースを差し出しているのかとすら錯覚した。

婦人は受け取ろうとしない。美咲はじっと手を差し伸べたまま。

場の空気が張り詰める。

周囲の視線が集まる中、


美咲の強い眼差しは「今日はとことん付き合う」と告げていた。

婦人は長くは耐えられず、しぶしぶグラスを受け取った。

「……佐藤さん、ご丁寧に」

「どういたしまして」美咲の笑みが深まり、茉莉の腕を引いてその場を離れた。

背後から嫌味な声は、二度と聞こえなかった。


茉莉が小声で言った。

「さすが美咲。あの人の顔、真っ黒になって、今にも崩れ落ちそうだったわ」


美咲は軽く笑った。

「社会的地位のある人たちよ。陰では悪口を言えても、表立っては言えないの。」


宴会場には20メートルはあろうかという長テーブルが二つ。様々なケーキやドリンクが並んでいる。

パーティ開始まで時間があったので、二人は小さなケーキを選んでいた。


先ほどの婦人たちは美咲の悪口をやめ、今度は佐々木家の御曹司の噂話に興じていた。


「数年前まで、佐々木家はあの孫を認めていなかったらしいわ。企業の株式も一切与えずに。でも彼は海外で自分の会社を立ち上げて、佐々木グループより大きな事業にしたのよ」


「聞くところによると、数年前に佐々木のご隠居が大病を患って、グループの業績も落ちる一方で、後継者もいなかった。そこでようやく海外にいた孫の存在を思い出したんだって」


「ええ、当時、健太さんには腕があると期待して、佐々木グループの再建を任せようとしたらしいわよ。」


「でもね、健太さんは密かにグループの実権を握って、ご隠居が気づいた時にはもう手遅れだったの。わずか五年で、実質的な支配者になったんだから」


「海外の事業は佐々木グループより遥かに大きいのよ。彼が引き受けなければ、グループは今のような繁栄はなかったでしょうね」


「以前は佐々木家もこの孫を認めようとしなかったけど、今じゃグループ全体が健太さんという“部外者”の手に渡りそうなんだから」


「今回のパーティも、実は世間に『健太は佐々木家の一員である』と宣言するためらしいわ……」


美咲は耳を澄ませて一部始終を聞くと、茉莉に小声で尋ねた。

「佐々木健太って……佐々木家の隠し子なの?」



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