目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第14話 この人、二重人格?

「そうなのよ」鈴木茉莉がうなずく。

「彼が十代の時に実母が亡くなってから、やっと佐々木家に認知されたんだって。佐々木家の連中はみんな彼を見下していて、数年も経たないうちに海外に追いやり、金を渡してほったらかしにしたの。でもね、今じゃ佐々木家全体が彼に依存しているなんて、誰が想像できたでしょう。この孫を認めなければ、佐々木家は名字を変える羽目になるかもしれないわ。」


美咲はそっと首を振った。

「そういうことだったのね。さすが御曹司、冷酷な手段の持ち主に違いないわ。そうでなければ佐々木家の支配者にはなれないもの」


美咲と茉莉は小さなケーキをいくつか取り、隅のソファーへ向かおうとした。

窓辺に着く前に、どこかで聞き覚えのある爽やかな笑い声が聞こえてきた。


足を止めた美咲が視線を向けると、数人の若い女性が談笑しているのが見えた。

中心にいるのは鈴木ジュエリーワークショップの中村若子だった。

背を向けていた中村若子は佐藤美咲に気づかず、美咲も挨拶する気はなかったので、そのまま窓辺へ歩き続けた。

しかし、すぐに中村若子の得意げな声が耳に入った。

「このネックレス、とっくに完売してるのよ。三倍の値段を出しても買えないわ」


「夏希さんがレッドカーペットで着けてたあれ?すごく綺麗よね」

「さすが女優さんのセンスは違うわね。こんなお手頃なネックレスを見つけるなんて。たったの10万円よ?私も欲しかったのに、どこも売り切れで」

中村若子はわざとらしく顎を上げてネックレスを披露し、称賛の声に浸りきっていた。天に届きそうなほど鼻の穴を膨らませている。

美咲の足が再び止まった。

数日前までこのネックレスを散々けなしていたのに、なぜ今さら見せびらかしているのか?

この人、二重人格なのか。


中村若子は今度は愚痴っぽい口調で言った。

「最近は鈴木ジュエリーで毎日忙しくて大変なの」

すぐに誰かが尋ねた。

「あなた、鈴木ジュエリーで働いてるんでしょ?このネックレスのデザイナーは誰か知ってる?最近新作は出してる?」


中村若子の笑みが一瞬で消え、すぐに無理やり口元を引き上げた。

「私が鈴木ジュエリーのデザイナーよ」


周りの令嬢たちは瞬時に理解した。

「つまり、このネックレスはあなたの作品ってこと?」

「鈴木ジュエリーにはたくさんジュエリーがあるけど、このネックレスが一番高級に見えるわ!すごいわね!」


中村若子は自分がデザイナーだと言っただけで、直接「このネックレスのデザイナー」とは言わなかった。


だが、周囲の追従は彼女を有頂天にさせた。

「ええ、このネックレスは私の手によるものよ」

さらに称賛と追従が増え、近くの人々も連日話題をさらったこのネックレスを一目見ようと集まってきた。

宴に参加するお嬢様たちの装飾品は簡単に百万円を超えるが、誰しも珍しいものには好奇心をそそられるものだ。

このネックレスは大きな注目を集め、その価値はもはや十万円などではない。

中村若子が得意満面で称賛に浸っていると、背後から突然声が響いた。


「このネックレス、明らかに美咲がデザインしたものだろ!あなたに一銭も関係ないわ!」

一同が振り返ると、そこには美咲と茉莉が立っていた。


美咲のドレスの輝きに皆は一瞬目を奪われ、中村若子も数秒呆然とした。

最初は美咲だと気づかず、宴に来た女優の誰かだと思ったほどだ。


美咲が美人なのは知っていたが、ドレス姿を見るのは初めてだった。

ただ黙って立っているだけで、すでに会場の注目の的だった。


中村若子の口元の笑みが徐々に消えていった。

美咲や鈴木ジュエリーの人間がここにいるはずがないと思って大口を叩いたのだ。


振り返って美咲を見た時、彼女はまず呆然とし、驚き、そして恥ずかしさが込み上げてきた。

だが、もう周囲は全員ネックレスが彼女のデザインだと信じている。たとえ本人が現れても、前言は撤回できない。

即座に声を張り上げた。

「佐藤美咲、こんな場所にあなたみたいな人間が入れるわけないでしょ?こっそり入り込んだの?それともまともじゃない手段で招待状を手に入れたの?」


美咲が口を開く前に、茉莉が大きく歩み出て、ショルダーバッグから取り出した二枚の招待状を中村若子の顔に叩きつけた。


「これは佐々木家の方が直々にうちに届けたものよ。私と美咲の名前が書いてある。私たちは特別招待客なの。ここには招待状に名前もなく、何重ものコネで手に入れた人もいるみたいだけどね」


茉莉は以前から、中村若子がお嬢様ぶるのが我慢ならなかった。

数日前、中村若子が必死に招待状を探していると聞いた時、招待状に名前がないと推測していた。

中村若子の慌てた様子を見て、茉莉は言い当てたと確信した。


笑いながら招待状をしまい込む。

「まともじゃない手段で紛れ込んだのはあんたで、嘘をついてるのもあんたよ!」


中村若子は言葉を失った。

周囲から投げかけられる嘲笑の視線を感じ、顔を剥ぎ取られるような屈辱を味わった。

ネックレスが自分デザインではないと認めれば、東京の令嬢たちでやっていけなくなる。


彼女は意を決して言い張った。

「ネックレスは私がデザインしたの!嘘なんてついてないわ!」


「そう?」

美咲は軽く笑い、ゆっくりと近づいてきた。

「このネックレスは私が丸一ヶ月かけて心を注いだものよ。あなたが口先だけで自分のものにできると思う?」


中村若子は歯を食いしばった。

「私にはデザイン原稿があるの!私のものを奪おうなんて思わないで!」


美咲が細目をした。

同じ鈴木ジュエリーのデザイナーとして、中村若子には他のデザイナーの原稿を閲覧する権限は確かにあった。

だが、中村若子がデザイン画をスマホに保存し、自慢する準備までしていたとは思わなかった。


中村若子は今、スマホを掲げて皆の前で振り回していた。

「見て!これがデザイン原稿よ!」

スマホの画像を見た人々の疑念は一瞬で消えた。


美咲に向けられる目は軽蔑に変わった。

中村若子は再び得意になった。先に原稿を見せた方が勝ちだ。

美咲については、もうワークショップでは決裂しているし、デザイン画を一枚盗んだって何が悪い?


中村若子が自己満足に浸る間、美咲は動かなかった。

かすかな笑みを浮かべ、中村若子が周囲全員にデザイン画を見せ終えるのを待ってから、ようやく口を開いた。


「あなたがデザイン画を見せてくれてよかったわ。そうでなければどう反論すればいいか困っていたところだったもの」


中村若子の心臓が跳ねた。

「どういう意味?」

「拡大してネックレスのスモールダイヤをよく見てごらんなさい。何て書いてあるか」


中村若子の表情が変わり、すぐにスマホの画像を拡大した。思わず目を見開いた。

ネックレスの六つ目のスモールダイヤに、極細の文字で「みさき」の文字が刻まれていた。

これはデザイナーの署名だ。

彼女は原稿右下の美咲の名前は切り取っていたが、まさかネックレス自体に文字が刻まれているとは夢にも思わなかった。


中村若子の顔から一気に血の気が引いた。

近くにいて目ざとい人もネックレスの文字に気づいた。


「『みさき』って書いてある!本当に佐藤美咲のデザインじゃないか!」


中村若子の青ざめた顔が今度はみるみる赤らんでいった。

慌ててスマホの画面を消した。

だが、もはや手遅れだった。周囲の嘲笑と罵声は収まる気配がなかった。


美咲は静かに彼女を見つめ、相変わらず優雅で落ち着いた佇まいのままだった。


「盗むだけならともかくね」

二歩前に進み、改めて中村若子の首元のネックレスをじっくりと見つめた。ふと、彼女は軽く眉をひそめた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?