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しっかりと休んで

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 ──しっかりと休んで



「俺が海軍にいたときは優秀な准尉を加えて、専門性のある下士官たちだけで構築される6名のチームが2セットになって行動していた。普通の歩兵部隊としては異例の構成だ。下士官と将校だけのチームってのは」


 久隆は肉じゃがでご飯を進めながら、語る。


「だが、今回はそれに近い形になる。レヴィアも、フルフルも、マルコシアも、そしてこれから加わる2名の兵士も専門性がある。特殊作戦部隊の下士官のように優秀とまでは言わないが、頼りにはしている。チームは6名。6名でバイコーンを討伐し、拠点を作る」


 日本海軍特別陸戦隊が東南アジアで活動したときには12名のチームを6名の2チームに分けて、作戦を実行していた。臨検でも6名のチームごとに行動することが多い。これに空軍から前線航空管制が各種誘導装置を持って加わることがある。


 だが、基本的には6名。多すぎて隠密行動ができない規模でもないし、少なすぎて戦力が不足することもない規模。偶数なので2名ごとの行動も可能だ。長期のミッションでもローテーションしやすい。


 日本国の東南アジアにおける軍事オプションは空爆と現地兵力の援助──アフガニスタン戦争開戦時のプランと同じだった。だから、この小規模な部隊が各地で活動したのである。ある部隊は現地の兵士たちを育成し、ある部隊は空爆を誘導する。


 それは意外とスムーズに進んだ。もっとも久隆は途中で脱落することになったが。


 だが、彼は6名の部隊で任務をこなしてきた経験がある。それもダンジョンと同じような閉鎖空間である密林の中で、だ。だから、久隆は6名までは責任が持てると判断していた。それ以上になると難しい。


「し、しかし、6名では難しいのでは? バイコーンは非常に獰猛な魔物です。とても危険です。マンティコアよりも危険かもしれません。その突撃はジャイアントオーガをなぎ倒し、足で蹴られれば鎧を打ち砕き、相手を蹴り殺すと言います……」


「だからこそ、6名だ。バイコーンの数は1体なんだろう? 下手に数を増やして、どこに突撃してくるか分からない状況では戦えない。ある程度、敵の狙いを絞っておきたい。魔物には知性がないと俺は考えている。あっても原始的なものだろうと。それならばこちらで誘導して、的確にダメージを負わせたい」


 敵の目標を絞る。


 軍事的には敵の狙いを引き付けて、敵が集まったところに伏兵が集中砲火を浴びせるという手段もあるし、敵の戦車を脆弱な目標などでおびき寄せて、戦車の側面や上部に対戦車ロケットや対戦車ミサイルなどを叩き込むという戦術もある。


 敵の狙いが自分たちの意図した通りになれば、それだけ戦いやすい。守るべきものを守り、敵の狙っている目標から導き出される敵の隙を突ける。敵の歩兵部隊でもそうだし、敵の装甲部隊でもそうだ。


 逆に敵の狙いが分からないという状況は非常に戦い難い。敵の狙いがばらけてしまうのも面倒だ。戦闘の基本は火力の集中にある。狙いが分からなければどう火力を集中していいかの計画が立てにくいし、狙いがばらけていてはそもそも集中できない。


 バイコーン戦も同じことである。


 人数が久隆の把握できる6名以上となれば、バイコーンが何に向けて突撃するかが分からなくなる。それは非常に面倒だ。味方に退避を促すことや、側面から攻撃することを指示することができない。


「確かにバイコーンを相手に大勢で挑むのはあまりいい方法ではないのかもしれません。どんな騎士でもバイコーンの突撃には耐えられませんし、人数が多ければ多いほど、逃げられる面積が狭くなります。戦場で味方同士でぶつかって転ぶ、なんてことになったら、それこそバイコーンのいい獲物です」


「そういうわけだ。だが、6名は結束していなければならない。チームワークを発揮できなければ、6名だろうと100名だろうと、ただの烏合の衆だ。互いを援護し合い、背中を任せ合って、統一された指揮系統の下で戦う必要がある」


 重要な指揮である。


 久隆の指揮に納得できない魔族や命令を無視する魔族は論外だ。軍隊では上官の命令は絶対だ。どのような状況にあろうと上官の命令を受けなければ、兵士は勝手に引き金を引くことも許されない。1発の銃弾で重要な作戦がパーになることもあるのだから。


 もちろん、久隆ひとりで6名全員を指揮統制するというのは、魔族の体力や魔法などのポテンシャルを知らないので不可能だ。そういう面をカバーできる人材。つまりは下士官が必要になってくる。


 それはアガレスに頼んでいるが、要望通りの人材がいるかは不明だ。


「さて、食事は終わったな? 弁当箱は水で洗ってから、ゴミ箱に捨ててくれ。味噌汁のお椀と麦茶のグラスはそのまま流しに。俺が片付けておく。後、風呂は沸かしておいてやるから、9時までに済ませてくれ。以上だ」


 久隆はそう告げて流しでプラスチックの弁当箱を洗い、ゴミ箱に捨てる。プラスチックゴミは確かに問題だが、今はプラスチックを分解するナノマシンの発明もあって以前ほど深刻ではなくなった。ただ、海底に沈んでいるプラスチックゴミの回収と処理が急務なだけである。


「あ、あの、グラスとお椀は私が洗っておきますから……」


「そうか? 助かる、フルフル」


「か、借りを作らないためですからね。その、別にあなたのためじゃないですから!」


「分かった、分かった。だが、助かる」


 フルフルはそう告げると流しに並んだお椀とグラスを洗剤をつけてスポンジで洗い始めた。久隆がやっているのを見ていたらしい。


「へー。フルフル、そういうことになってたんだー」


「な、な、な、何がですか!? 私はその、レヴィア陛下や私たちがあの人間に、か、借りを作らないようにと思っているだけですから……」


「分かった、分かった。そういうことにしておくよ」


「マ、マルコシア!」


 にやにやしながらマルコシアはダイニングから出ていった。


「15分で風呂が沸くから準備しとけよ。ああ、フルフル。ありがとうな」


「で、ですから、これは借りを作らないためなので……」


 フルフルはそう言いながら食器を棚に戻していく。


「それでも助かるものは助かっている。風呂、沸いたら入れよ」


「わ、わかりました」


 フルフルはそう告げてそそくさと自室になっているレヴィアたちと一緒の寝室に向かっていった。あまり久隆には関わりたくないという態度であった。


「何か嫌われたか……?」


 久隆は首を傾げる。


 フルフルは確かに人間に両親を殺されたそうだが、最近はそういう態度は見せていないと思っていたのだがと疑問に感じた。


「久隆、久隆。お金が全然稼げないの」


「仕方ない。攻略サイトを見よう」


 レヴィアはレヴィアでゲームに夢中だ。


 あれからいくつか子供向けのゲームを入れてやったが、レヴィアは都市を開発するゲームに夢中になっていた。子供向けのゲームとしてはそれなり以上に評価が高いものらしいので、異世界の子供にも通じるのだろう。


「畑を作るか、カブを売買するといいそうだが」


「カブ? 畑を作る方がよさそうなの。畑を作るの!」


 レヴィアはそう告げてゲームを続ける。


「ほら、レヴィア。お前も風呂に入ってこい。そして、ゆっくり休め。明日からはついにダンジョンに入るぞ」


「分かったの」


 その日はゆっくりと休み、そして戦いに備えた。


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