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第37話 配信は、終わらない

 #神カメラ


 その言葉が、またトレンド1位を独占していた。

 SNSのタイムラインは切り抜き動画で埋め尽くされ、リプレイ配信の同時視聴者は200万人を超え、数十言語への自動翻訳がリアルタイムで行われているらしい。

 今日も今日とて、コメント欄は爆速で流れていく。

 正直拾いきれないが、一応目だけは通す。


 :神カメ、今日も仕事が光りすぎ

 :香奈ちゃんとルクシア様の連携、完璧だった

 :カット切り替えがプロ超えて映画

 :マジでカメラ神すぎん?

 :プリズム☆スター最強説

 :零士さんいつの間に復帰してたの


 ああ、そうだったな。

 半年ほど前、カフェで二人に誘われた時は「パスだ」と断ったっけ。

 でも、あの最難関ダンジョンでの実地データが、AIDAの成長を飛躍的に加速させたもんだから。

 気づけば、また戦場に戻ってきていた。


 上級ダンジョン第八層、深部。

 魔力濃度が高すぎて、地表とは空気すら違う。


「――来るよ!」


 香奈の声と同時に、視界を切り裂く光。

 ルクシアの烈火冠インフェルノティアラ霧雨レインが、空中を奔る。

 リサとショウタの遠距離射撃が重なり、ケンタのハンマーが大地を打つ。

 そして俺は、全員の動きを最高の角度で切り取る。


 だが、安定していた戦況が、突如として崩れた。


 ――ギギッ


 嫌な音がした。

 霧の奥から現れたのは、これまで見たどの魔物とも異なる何か。

 膨れ上がった魔力の渦。

 変則的にねじれた四肢。

 浮遊しながら、重力を持つような異様な質量感。


 AIDAが警告を発した。


『未知の構造。既存データとの照合不能。読み上げパターン収集中――』


「くっ!」


 香奈が前へ出たが、相手の挙動がまるで読めない。

 回避も反撃も、ほんの一手遅れる。


「AIDA、攻撃予測できるか?」


『不可能です。未知の変異型と推測』


 その言葉で、俺の中に決意が芽生える。

 カメラを外した。

 ゆっくりと腰のナイフホルダーを手を伸ばす。


「AIDA、自動追尾モードに切り替え。カメラは任せた」


『了解。自律撮影シーケンス起動』


「……え、ちょ、零士くん!? 出るの!? 前に!?」


 香奈が叫ぶ。

 ルクシアはこちらを見て微笑んだ。


「ふふ……待ってましたわ」


 俺はナイフを抜きながら、肩越しに軽く笑って言った。


「映してもらう側になるのも、たまには悪くないだろ」


 魔物の足元へ向けて、地を蹴る。


 世界が、音を飲み込む。


「行くぞ……!」 


 ――配信は、終わらない。

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