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第13話

 夜空が赤く染まる。美しい時も、おぞましさも、罪も全てを浄化していく。

 それらを安全な場所から見つめる二人は、ふっと息を吐いた。


「終わりましたね」


 その言葉は言葉以上に重いものがある。

 ノアは泣きそうな顔で笑っていた。


「母の無念を晴らしました。数日後にはリーフェル王がこの国を併呑し、この国は第二王子の元に少しずつ再興されていくでしょう。二人とも民を大切にし、有能な者を好みます。それに、慈悲深い人達です」


 これを事前に聞いていたからこそ、アーノルドは母をこの国に残す事を決めた。

 夫は火災により死亡。息子は失踪。更にこの事件は検証される前に隣国に攻め込まれ混乱の中あやふやになる。残される母はさぞ悲しむだろうが、彼女の身の安全は既に保証されているという。

 また、ここまで協力してくれたロイヤーも取りたててもらえるだろうとのことだ。


 事がここに至るまでの間、秘密裏に手紙をやりとりしていた。そこで、ノアがリーフェル王国の公爵家令息であることも知った。

 祖母の生家にミゼリーは引き取られ、落ち着いた辺境で暮らしたというが籍は公爵家に。そしてその息子であるノアは色々とあるが公爵の養子となっている。

 上に兄も姉もいて家督を継ぐことはないが、これでも立場ある人間なのだ。


 ただ、この後はもうそこからも降りるつもりではあるが。


「生きる意味を、失いましたね」


 そう、柔らかく言う彼の表情はとても遠い。魂が抜け落ちたようにすら見える。その頼りない体を、アーノルドは強く抱きしめた。心も引き留めるように。


「俺がいるだろ」

「アーノルド」

「これからは二人で、穏やかに暮らそう。争いも忘れて、二人で愛を育てて過ごそう」


 この心に溢れる温かなものを分けていきたい。抜け殻だというなら、その空いた所に沢山の想いを届けたい。

 そう願い伝えると、背に手が触れた。


「私は愛など分からないのですよ?」

「知っている。でも分かる事もあるのだろ? 二人で食べる食事が好きだとか、一緒に眠る夜の安らぎとか」

「寝ぼけた貴方のマヌケ面を見るとか?」

「それでもいいさ。貴方がそれを、愛しいと思っているならば」


 確かめ合うように抱きしめ、唇に触れる。近く互いを瞳に映し、その奥まで覗こうとする。柔らかく頬に触れ、これからを願って。


「愛している、ノアール」

「愛していますよ、アーノルド」


 誰が何を責めようと、例え遠い未来二人の関係を誰かが断罪しようとも、二人はこの想いを誇りに思う。


 未来永劫、たとえ肉体が滅び魂だけとなろうとも、紡いだ想いは永遠に……。


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