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あの祠を壊したせいで、僕らは恋と配信に溺れた
あの祠を壊したせいで、僕らは恋と配信に溺れた
雨宮徹
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月18日
公開日
1万字
完結済
ある山奥の村に祠があった。 「これを壊すと封印が壊れ、災厄が現れる」 そんな村長の制止を無視して男女が祠を壊してしまう。 祠壊しによって現れたのは、地下ダンジョンだった。学生二人組は、配信をしてスパチャで稼ぐ作戦にでる。 これは、そんな二人の物語。

祠、壊してみた

「この祠を壊してはならん!」


 さっきから、これの繰返しだった。村長は、祠の前に立ちふさがり、修二たちが「祠壊し」をするのを邪魔している。


「そんな、むきになるなって。俺たちが祠を壊した動画をアップすれば、この村もバズって観光客が押し寄せるんだからさ」


 最近、SNSでは「祠壊し文学」が流行っている。


「祠壊したら、呪われた」

「祠壊したら、ゾンビが出てきた」


 祠を壊した後の展開は様々だ。だが、実際に壊そうという人物は一人もいない。みんな、怖いのだ。「祟りがあるんじゃないか」と。


 でも、修二と絵里は違う。祠を壊して臆病者たちに知らしめるのが目的だ。「祟りなんてない」と。


「祠を壊すと災厄が解き放たれる! 何があっても、ここを離れないぞ!」


「災厄? 具体的には?」


 絵里は、村長の背に合わせて体をかがめる。


 こういうところに、誰もが惚れるが、落とせたのは修二のみだ。


「それは……知らん!」


「災厄の正体も知らずに止めようとしてるのか?」


 修二は、眉をひそめて村長の言葉に首をかしげた。


「ダメなもんはダメだ」


 村長は折れそうにない。


「絵里、こんな村、放っておこうぜ。廃れても知らないからな、村長」


「え、修二。いいの?」


 修二は、コソッと耳打ちをする。


「夜は無防備なはずだ。また、あとでくればいい」


 修二と絵里は、諦めた風を装って祠から立ち去った。





 その日の夜。二人は再び祠の前にやって来た。真夜中ということで、村長の姿はない。


「よし、予定通りだな。さっさと祠壊すぞ!」


「スマホで動画撮るから、ちょっと待って」


 絵里は、そう言うとスマホを慣れた手つきで操作する。


「OKよ。ライトもつけてるから、バッチリ映るわ」


「じゃあ、いくぞ!」


 修二は、祠を思い切り蹴飛ばす。しかし、ミシッと音を立てるだけで、そう簡単には壊れない。


「これの出番だな……」


 修二は、カバンからバールを取り出した。こんなこともあろうかと、持参していたのだ。


「絵里、少し下がってろ。木片が飛ぶかもしれない」


 修二が、思い切りバールを振り上げ、祠めがけて振り下ろす。バキッと音を立てて木製の祠が悲鳴を上げる。


 二度三度と繰り返すと、祠の姿は跡形もなかった。


「よし、これで『祠壊し』完了だな」


「さすが、修二。あとは、動画をネットにアップするだけね」


 絵里が言い終わると同時に、辺りに轟音が響き渡る。


「え、まさか地震!?」


「いや、違うな。地震なら、地面全体が揺れるはずだ。これは一部分だけだ。あそこを中心に揺れてるな」


 修二が指した先には、小さな穴が見える。音が大きくなるにつれて穴も大きくなり、次第にあるものが見えてきた。


「え、階段……?」


「なんだこりゃ。パッと見たところ、最近できたものじゃないな。まさか、これが災厄?」


 二人は、戸惑いつつも穴に近づく。ぽっかりと空いた穴は、まるで二人を誘うようだった。


「これ、中に入る? 少しヤバい気がするけど」


 修二は、少し間をあけて「行くしかないだろ」と答えた。


 好奇心が恐怖を上回った。


 階段をゆっくりと下っていくと、蔦が絡みついた壁が二人を出迎える。それは、長期間手入れがされていなかったことを意味していた。


「ねえ。もしかして、ダンジョンってやつじゃない? ほら、この前アメリカで見つかったらしいじゃん」


 世間では、「日本にもダンジョンがあるはずだ」という説が一定の支持を集めていた。


「それはあり得るな」


 修二はライトで辺りを念入りに調べながら先へ進む。


 その時だった。暗闇の奥で何かがうごめいたのは。


「うわっ、なんだ!」


 答えは返ってこなかったが、彼の前に現れたのは奇妙な生物だった。


 人型をしたソレの耳は長細く、髪はブロンド、目は碧眼だ。


「エルフ……?」


 修二の口から、自然と単語が漏れ出る。


 その言葉に反応するように、耳がピクッと動く。それも束の間、謎の生き物はサッと動いて暗闇の中に消えた。


 絵里は、修二の服の袖を掴むと「ここ、気味が悪いわ」とつぶやく。


「そうだな。外に戻るか」


 二人が連れ立って階段を上っていると、月明かりが辺りを照らす。それは、ダンジョン誕生を祝うかのようだった。

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