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第6話 後藤の推理

「主任、増援はまだっすか?」

「その件か。前回の報告書と一緒に郵送したが、往復に時間が必要か」

「メールじゃ駄目なんすか」

「重要書類は郵送とソウバが決まっとる。決まりも守れんのか」

「パワハラ上司には言われたくないっす」

 血走った眼でギロリと後藤をひと睨みする。それからわざとらしく右手を挙げてみせると、「ほら、それっす」と声を上げつつ、逃げるでも防御するでもなく、後藤は頭の方を差し出す。これがお笑い芸人なら「ツッコミ待ちか」とでも言われるところだ。

「今日は捜査に行かないんすか」

「通常業務だ」

「え~、退屈っす。刑事ドラマみたいな展開を希望っす。レインボーブリッジ封鎖で……」

 不満顔の後藤の頭を、今度は本気で引っ叩く。

「バカモン、事件を願ってどうするか!」

「っす。あっ、主任。小官の推理を聞いて下さいっす」

「フム。意見のすり合わせも必要か」

 ゴホン、と一つ咳払いをして、後藤は話し始める。

「ずばり、犯人は萬城目す」

「ナゼそう思うのか?」

「櫛一郎に盗まれたんすよ」

「ナニを?」

「あのキラッキラに光る金歯っす」

 五十嵐の目の前に人差し指を立てて、グッと身を乗り出す。

「萬城目の遺体から金歯を盗み、古物商に売ったんすよ。その後、夜の店で豪遊した際、口を滑らせて萬城目にも知られたと」

「ソープには萬城目の耳もあるか」

「だから襲われたんす。犯行は22日の夜、ソープに向かう途中っすね」

「ヤツらはメンツを重んじる。可能性はあるか」

「金歯を盗んだ報復でタコ殴りされ、歯も全部抜かれたんす。だから探しても現場に無かったと」

「ヨシ。そのセンで捜査を進めるか」

 腰を浮かせかける五十嵐に、「そうだ、五十嵐主任。何か届いてたっす」と言って机の隅に置いてあった封書を手渡す。封を切り、内容を確認する。

「……出頭命令か。明朝の船便で本署へ向かう。翌日には戻るが、留守の間はオマエに任せる」

「やっと増援すかね。これで事件解決はもう目前っす」

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