家に戻ると、婚約を破棄したいと、どうやって両親に切り出すかと悩んだが、どうもお兄様があの一件を見ていたようで、わたくしの部屋へ来て
「ミーーラーー、今日はお疲れ様だったね」
「え?」
「今日、留学のことでお城へ行ってたんだよ」と言うと、驚いて声も出ないわたくしに笑いかけると、
「ミラと婚約したいと王妃殿下も国王陛下も父上に頭を下げたんだがね」
「え?本当ですか?」
「あぁ、王子殿下の希望もあったようだがね、王子との婚約なんて我が家には大した益にならないのにね。ただ、ミラは王子殿下のことはどう思っているのかな?」
「ずっとお慕いしていたと思います。王子殿下にふさわしくありたいと努力しましたし、努力も好きでした。ですが・・・なんだか・・・」
「ちょっと待って、お二人にも聞いて貰おう」とお兄様が言うとドアが開いて両親が入って来た。
お母様は黙ってわたくしを抱きしめた。そして
「これからはもっとミラと一緒に過ごせるわ」と言った。するとお父様が
「それは気が早い。ミラが決める事だよ。ミラが迷うような発言は」と言った時に
「お父様、早くありません。遅すぎです。わたし・・・婚約者を辞めたい」とお母様を抱きしめながら言った。
「あっミラ! お父様も」とお父様は言うなり、お母様ごとわたしを抱きしめた。
わたしたち三人はしばらく抱き合っていた。二人から伝わる体温と愛情はまたわたしを泣かせた。
っといきなり、腕のなかが、からっぽになった。
「ひどいなぁ、可愛い息子の存在を忘れるなんて」とお兄様がわたしを抱きしめて言うと、お父様が
「いや、忘れてないぞ」と言いながら、お兄様を抱きしめて、すぐに離れた。
「かわいいなぁ。むすこよ」とわざと棒読みで言うお父様。うちの家族ってこんなだったの?
夕食の後、食堂に残ったわたしを見てお兄様は驚いたようだけど、
「ミラ、これから言うことを負担に思うことはないからな」と前置きしてから
「ミラが王子の婚約者候補に選ばれたのは名誉なことだと思っている。ミラが努力したこともわたしたち家族の誇りだ」と微笑んで言葉を切ってお兄様は
「だけど、わたしたちはミラを失ってしまった。ミラは食事がすむと勉強だった。ほんとに頭が下がった。だけどもう少し遊んでもいいのになって思っていた。教師たちも素直で努力家なミラは理想の生徒として、きびしく教えていたと思う。でもそこまでやらなくてもと俺なんか思っていた・・・」
「うん、お兄様、お母様、お父様。わたし、ほんとに周りが見えてなかったと思います。実は今日の課題さぼろうと思ってますの。王妃の範囲ですのよ。内緒ですけど・・・」
「そうか・・・そこまで進んでいたのか・・・すまなかったな」とお父様が言うと、お兄様がお父様のお皿のケーキのいちごをひょいと取ってわたしのお皿に乗せた。
「お行儀悪いわね」とお母様が笑うので、
「いちごが貰えるなんて最高」とわたしも笑った。
翌日、お父様がお城へ呼び出された。そこで国王陛下からお話があった。
それは・・・