「電車、次のには乗らなきゃだよな」
「あぁ」
「今度東京、案内してくれよな」
「いつでも」
駅のホームのベンチに並んで座り、互いではなく前をまっすぐ見据えて言葉を交わす。
これからが始まったばかりだというのに、やはり離れがたいと思ってしまうのは仕方がないことだろう。
(でも、新幹線の時間もあるよな)
このまま名残惜しいからと智彰をここに留めるべきではない。それに、俺たちはこれが〝最後〟じゃなく〝始まり〟だから。
ベンチから立ち上がり、智彰へと手を伸ばす。田舎のお陰でここにいるのは俺たちだけだった。そのことをいいことに、智彰の手を引いて立たせたまま、手を繋ぐ。
まだ肌寒い三月なのに、少し暑いくらいだった。
「休み、帰ってくるから」
「うん。……あ、母さんが帰省したらご飯食べに来いって言ってたぞ」
「ははっ、じゃあその時はお言葉に甘えさせてもらう――けど」
「けど?」
少し歯切れ悪く言葉を切った智彰に首を傾げる。
その時丁度カンカンカンと踏切が警告音を鳴らし、電車が来た。
離れる指先の熱を僅かに追い、それを誤魔化すようにズボンのポケットに手を入れる。
俺も智彰も、もう泣いてはいなかった。
「帰った時はデートしたい」
「うはっ、何それ突然の直球!」
智彰からハッキリと投げられたその言葉に俺の口角があがる。いつからキャラ変したんだか。
「もちろんオッケーだっつの!」
俺の返事を聞いた智彰の口角も上がる。ふたりして照れくささを隠すように笑い、そして電車に乗り込んだ智彰へと手を振った。
「うん。星よりも、全然近いや」
きっとこれからも一緒に笑い、時には喧嘩したりもするのだろう。
でも星の輝きが届くのにずっと時間がかかるように、俺たちの時間もまだまだあるから。
きっと俺はこれからも、大切な恋人へと手を伸ばすんだ。