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お隣の梅乃宮くんは片想いの真っ最中です。
お隣の梅乃宮くんは片想いの真っ最中です。
神雅小夢
恋愛現代恋愛
2025年06月19日
公開日
1.8万字
連載中
和菓子屋で働く二十一歳の立花星奈(たちばなせな)は隣の家に住む、同級生の梅乃宮雪哉(うめのみやゆきや)に十五年片想いをしている。 何度も告白しようと思ったが、彼は日本で一番の国立医大に入ってしまい、告白の機会のないまま手の届かない存在に……。 ところがある日、老朽化で雪哉の家が崩れ、建て替えることに……。 親同士が仲が良かったため、いきなり星奈は雪哉と同居することに……。 緊張する星奈に雪哉は『おまえには興味がない、安心しろ』と初日から冷たい言葉を飛ばすのだった。 そんな雪哉はいつも彼女をとっかえ、ひっかえ。 けっして長くは続かない交際の秘密を星奈は知ってしまう……。 理由は二つあり、一つは星奈の双子の姉の菜奈(なな)が好きだということ。そして、もう一つは誰にも口外できないものだった。 その秘密をネタに雪哉に付きまとうようになった星奈だったが、いつも冷たい反応ばかりされる……。 果たして、星奈の十五年越しの片想いは実るのか……。 *星奈視点のかなり乙女チック目線で書いております。ストー◯ーに近い女の子です……。

第1話

あたし、立花たちばな星奈せな、二十一歳になったばかり。駅前にある和菓子屋で働いている。専門学校でパティシェの資格を取得したが、洋菓子より和菓子が好きで、この和菓子屋『月縁堂げつえんどう』で働いている。


 月縁堂は大旦那と、女将さんと、大旦那の御子息の若旦那、パートの稲村さん、アルバイトの園田さん、そして社員のあたしを入れて六名で店を回している。

 給料はけっして高くはないが、あたしは大好きな和菓子に囲まれて毎日が幸せだった。


 可愛くて、甘くて、ひとを笑顔にする和菓子……。


 接客と和菓子作りのどちらの仕事も、あたしはする。


 ……和菓子は絶対にひとを幸せにする! 今日も幸せぇ~!! イェーイ!

 あたしは自分で言うのもなんだけど、すこぶる明るい性格だと思う。


 肩下まである長い髪を一つに束ねて、ほんのり少しだけ塗ったお化粧。お饅頭のような肌の白さが唯一の自慢。


 最後のお客様が帰ったテーブル席の片付けをする。テーブルに備え付けられた、赤と紫の単色ではない和風のガーデンパラソルが華やかだった。あたしのお気に入り。


 そう、このお店は小さいながらも、店内で飲食できるカフェも兼ね備えており、テーブル席が四つもある。


 陽気な日差しを感じさせながら、和の風情を感じる、枯山水様式の坪庭を眺めながら、和菓子を堪能できる。

 限られた庭で楽しむ、川の流れ。小さな灯籠——

 今のこの時期は、カラフルな紫陽花の花がとくに奇麗だ。


 そしてひとを惹きつけて止まない、古民家風のレトロモダンな建物がこの店の外観。


……やっぱり働くところはおしゃれじゃないと! この二部式の桜色の着物の制服もすごく気に入っている。日曜日が休みってのもいいよね~!


 あたしは時計を見た。あと五分で、閉店時間の午後六時だ。

 この店は朝の十時から夕方の六時まで営業している。


 こそこそと誰にも気づかれないように着々と閉店準備をする。


 ……一分でも早く帰りたい。帰って録画しているドラマの残りを、今日こそは絶対に見るんだから。一番いいとこなんだから。


 ちなみに恋愛ドラマだ。


 ……よし、閉店まであと三分だ。


 あたししか店頭に出ていない。大旦那と女将と若旦那は厨房で明日の仕込みをしている。パートの稲村さんは二時間前に帰った。 


 閉店までのカウントダウン開始! 


 その時だった。店の自動扉が開いた。


 ……え?


「よう! 売れ残りを買いにきてやったぞ」

 愛想のかけらもない男、梅乃宮うめのみや雪哉ゆきやくんが店に入ってきた。大学の帰りらしい。彼は黒のパーカーに細身のジーンズを合わせている。

 さらさらの奇麗な髪、ほんのり茶色いカラーのマッシュヘアでセンター分けをしている。


「げっ!」

 思わず声に出してしまった。び、びっくりした! あんまり、いや、ぜんぜん来ないのに……。


……身長百七十五センチ、体重六十二キロ、誕生日は二月十四日。まさかのバレンタイン生まれの水瓶座で、同級生。そして東大医学部……。スポーツ万能、頭脳明晰、得意科目は数学。好きなスポーツは水泳。なにをやらせても完璧にこなす、この男は梅乃宮雪哉くん。整形でも作れないような奇麗な二重に、うっとりして失神するほどのハスキーボイス。極めつけは宝石のような輝きを放つ、茶色い瞳。完璧な黄金比、国宝級のイケメン。出身地はえーと、えーと……。


 あたしの心臓が騒ぎだすと共に、雪哉くんの記録帳が脳内に映し出される。


「おい、げっ! ってなんだよ。客に向かって……。おまえ、相変わらずだな……」

 雪哉くんが眉間にシワを寄せた。


「え、気のせいだよ。えー、お客様、本日のおすすめは黒蜜のわらびもちで〜す!!」

 ドキドキしながら、あたしは元気いっぱいに答えた。


…くぅ~、今日も最っ高にかっこいいなぁ。雪哉くぅん。

 そう、あたしは雪哉くんに恋をしていた。


「そう、じゃあ、それ四つもらおうかな。ああ、あとおまえに言っておくことがあったんだ。おれ、しばらくおまえの家で世話になると思うから、よろしく」

 淡々と雪哉くんは言った。


「は? はぁ~!!!!?」

 あたしの素っ頓狂で大きな声が店内に響き渡った。



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