あたし、
月縁堂は大旦那と、女将さんと、大旦那の御子息の若旦那、パートの稲村さん、アルバイトの園田さん、そして社員のあたしを入れて六名で店を回している。
給料はけっして高くはないが、あたしは大好きな和菓子に囲まれて毎日が幸せだった。
可愛くて、甘くて、ひとを笑顔にする和菓子……。
接客と和菓子作りのどちらの仕事も、あたしはする。
……和菓子は絶対にひとを幸せにする! 今日も幸せぇ~!! イェーイ!
あたしは自分で言うのもなんだけど、すこぶる明るい性格だと思う。
肩下まである長い髪を一つに束ねて、ほんのり少しだけ塗ったお化粧。お饅頭のような肌の白さが唯一の自慢。
最後のお客様が帰ったテーブル席の片付けをする。テーブルに備え付けられた、赤と紫の単色ではない和風のガーデンパラソルが華やかだった。あたしのお気に入り。
そう、このお店は小さいながらも、店内で飲食できるカフェも兼ね備えており、テーブル席が四つもある。
陽気な日差しを感じさせながら、和の風情を感じる、枯山水様式の坪庭を眺めながら、和菓子を堪能できる。
限られた庭で楽しむ、川の流れ。小さな灯籠——
今のこの時期は、カラフルな紫陽花の花がとくに奇麗だ。
そしてひとを惹きつけて止まない、古民家風のレトロモダンな建物がこの店の外観。
……やっぱり働くところはおしゃれじゃないと! この二部式の桜色の着物の制服もすごく気に入っている。日曜日が休みってのもいいよね~!
あたしは時計を見た。あと五分で、閉店時間の午後六時だ。
この店は朝の十時から夕方の六時まで営業している。
こそこそと誰にも気づかれないように着々と閉店準備をする。
……一分でも早く帰りたい。帰って録画しているドラマの残りを、今日こそは絶対に見るんだから。一番いいとこなんだから。
ちなみに恋愛ドラマだ。
……よし、閉店まであと三分だ。
あたししか店頭に出ていない。大旦那と女将と若旦那は厨房で明日の仕込みをしている。パートの稲村さんは二時間前に帰った。
閉店までのカウントダウン開始!
その時だった。店の自動扉が開いた。
……え?
「よう! 売れ残りを買いにきてやったぞ」
愛想のかけらもない男、
さらさらの奇麗な髪、ほんのり茶色いカラーのマッシュヘアでセンター分けをしている。
「げっ!」
思わず声に出してしまった。び、びっくりした! あんまり、いや、ぜんぜん来ないのに……。
……身長百七十五センチ、体重六十二キロ、誕生日は二月十四日。まさかのバレンタイン生まれの水瓶座で、同級生。そして東大医学部……。スポーツ万能、頭脳明晰、得意科目は数学。好きなスポーツは水泳。なにをやらせても完璧にこなす、この男は梅乃宮雪哉くん。整形でも作れないような奇麗な二重に、うっとりして失神するほどのハスキーボイス。極めつけは宝石のような輝きを放つ、茶色い瞳。完璧な黄金比、国宝級のイケメン。出身地はえーと、えーと……。
あたしの心臓が騒ぎだすと共に、雪哉くんの記録帳が脳内に映し出される。
「おい、げっ! ってなんだよ。客に向かって……。おまえ、相変わらずだな……」
雪哉くんが眉間にシワを寄せた。
「え、気のせいだよ。えー、お客様、本日のおすすめは黒蜜のわらびもちで〜す!!」
ドキドキしながら、あたしは元気いっぱいに答えた。
…くぅ~、今日も最っ高にかっこいいなぁ。雪哉くぅん。
そう、あたしは雪哉くんに恋をしていた。
「そう、じゃあ、それ四つもらおうかな。ああ、あとおまえに言っておくことがあったんだ。おれ、しばらくおまえの家で世話になると思うから、よろしく」
淡々と雪哉くんは言った。
「は? はぁ~!!!!?」
あたしの素っ頓狂で大きな声が店内に響き渡った。