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第14話

 あたしは心拍数が増えるのを、抑えることができない。


 雪哉くんに呼ばれて部屋に入ったのだから、それは当然のこと。


「な、なに? さっきのこと、怒ってるの? あ、あのその、み、見たこと」

 あたしはしどろもどろになりながら、雪哉くんに尋ねる。


「……いや、別に。とりあえず座れば?」

 雪哉くんがあたしにソファに座るように勧めてきた。


 ……え? と、とと隣?


 戸惑うあたしに、雪哉くんが声をかけてきた。

「なんだよ。なんもしねぇよ」


「……ですよね」

 先ほど、あたしになんか興味ない、と言ったばかりだ。


 あたしは緊張で固まったまんま、雪哉くんの隣に腰掛けた。


「あのさ、さっきのは普通の男ならみんなやってること。そういうの、みんな見てる」

 雪哉くんが話を切り出した。


「……うん。わかってるよ」


「だけど、おれは違うんだ。あれ、治療なんだ」

 雪哉くんが意味のわからないことを言い出した。


「は? ち、治療?」


「そう、おまえに隠したところで、どうせなぜかバレそうだしな。そんな気がしてならないから言う。……おれさ、そういう機能がないんだ」

 恥ずかしそうにするわけでもなく、淡々と話す雪哉くん。


「き、機能がない⁉︎」

 驚いて声が大きくなるあたし。


「バカ! 静かにしろよ。夜中だぞ」


「ご、ごめん。でもそれって……」

 つまり、そういうことができないってこと?


「おまえの想像してる通りだよ。おれはそういうこと、つまり……できないんだ」


「!!!」

 え、え、えー!!!


「病院には行ったよ。だけど、異常がないんだ。精神的なものらしい」

 雪哉くんが小さくため息を吐いた。


「え、精神的なものって……」


「うちの親が事故で亡くなった、それが原因じゃないかって。おれもあの車に乗ってたしな……」

 そう、雪哉くんの親は車の事故で亡くなった。その車に乗っていた、雪哉くんだけが助かった。当時六歳だった。


「そ、そうなんだ……」

 言葉が出ないよ。


「今でもたまに、あの光景が蘇るんだ。もう一生、苦しむのかもな」

 雪哉くんが悲しそうにつぶやく。


「でもなんで。今日そんなことを……」

 なにもこんな日にしなくても……。


「ショック療法みたいなもん。今日も精神的にかなりきつかったから、もしかしたら治るかななんて思って、やってみただけだ」


「ふ、ふ~ん」

 な、なんて答えたらいいの? 頭のいいひとの考えていることがまったく理解できないよ。


「おれも将来は子供もほしいし。このままじゃな……」

 なんでも完璧な雪哉くんに、そんな深刻な悩みがあったなんて……。


 どんよりとした重い空気が流れる。


 ……この空気を変えるんだ、なんとか励ませ、行けっ、星奈!


「あ、でもほら、あたしたち、未経験者仲間だね。仲間仲間! お互い、二十一にもなってさ! ほら、一人じゃないよ、あたしもいる。あはは」

 あたしは胸の前で手を合わせて、思いっきり微笑んだ。


「……おまえに話したおれがバカだったわ。おまえは相手がいないだけでできるだろ、普通に」

 雪哉くんが深く息を吐いた。


「そ、そんなことないよ。相手探しがね、いっちばん大変なんだから。でも雪哉くん、あたしになんか話してくれてありがとう」


「……おれは医学部だし。人体の話には慣れてる。それにこれは病気だからな」


「そ、そうなんだ」


「……話したの、おまえが初めてだからな。でも誰にもいうなよ。言ったらコロ◯!」

 雪哉くんが氷のような温度の言葉を投げつけてきた。


 ひっ!









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