目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

第13話

 それにしても、あたしの部屋の右隣が雪哉くんで、左隣が聖哉さん⁉︎

 ちょっとお母さん、これなんか意図を感じるんですけど……。



 あ〜あ、今日見ようと思ってた恋愛ドラマ、もう見る気すらしないや。

 このまんまではあたし、一生恋なんて、彼氏なんてできないんじゃないかな……。

 好きなひとに興味ないって言われたのに、好きなひととひとつ屋根の下って……、神様、少しイジワルすぎない?


 そんなことを考えていたら、布団も掛けずに眠ってしまったらしく、ふと目が覚めた。

 電気も付けっぱなしだった。時計の針は真夜中の二時を指している。


 あ~あ、変な時間に起きちゃった。しかたがないから、ホットミルクでも飲もうかな……。

 あたしはスリッパを履いて廊下に出た。


 左の方が階段で聖哉さんの部屋の前を通って、下に降りるんだけど、あたしは右の雪哉くんの部屋でなにか声を聞いた。

 微かな、女のひとの声……。


 え……? こんな時間に? テレビの音?


 あたしは雪哉くんの部屋の前に立って耳を澄ます。


 あぁ、こういうのをやめろって、さっき言われたよね。でももういいや。彼、あたしにはどうせ興味ないもん。


 ……でもまだ起きてるんだ。そりぁ、そうよね。今日あんなことがあって眠れるわけがないよね……。

 あたしで良かったら、話相手になれないかな……? そうだ! ホットミルク、雪哉くんも飲まないかな?


「あ、あの……」

 あたしはノックもせずにそっと、雪哉くんの部屋を開けた。


 あたしの目に飛び込んできた光景が、理解できなかった。


 たしかに雪哉くんは暗闇の中で起きていたんだ。


 雪哉くんが見ていたものはたしかにテレビだったんだけど、そ、それはたぶん父が、うちの父が隠していたアダルトビデオで……。

 それを見ていた雪哉くんを、あたしは見てしまったんだ……。


「……おまえ、なにしてんの。ノックぐらいしろよ」

 隠そうともせず、慌てることもなく、いつもの冷静な雪哉くんがテレビの前のソファに座っていた。


 し、信じられない、信じられないよ……!! 自分の家が壊れた日にこういうことしてんの?


 やっぱ、雪哉くんも普通の男の子だったんだ。いや、違う、普通じゃない、こんな日にこんなことはしない。

 どちらにしてもショック……。


「あ、ご、ごめんなさい」

 あたしは慌てて、自分の部屋に戻った。年頃の男の子の恐ろしさを知った。

 こんな日にあんなこと、異常な性欲だ。


 二十一歳。キスの経験もないあたしにとって、それは衝撃だった。



 ……ん? でも待って。彼、ビデオを見ていただけで、他はなにもしていなかったんじゃ……。


 普通はアレがああなってて、こうしてるって聞くけど、なんもしてなかった!!!  

 ただ本当に見てただけじゃなかった⁉︎ もしかして今からするとこだった⁉︎

 あたしが邪魔した⁉︎


 その時、小さなノック音とともに、ドアに隙間が開いて雪哉くんの顔だけが部屋に入ってきた。


 ヒィ〜っ!


「おまえに話がある。すぐに来い」


 なにか覚悟を決めたおとこの顔が、そこにはあった。


 あたしもそれに応えなきゃ、女がすたる。ベッドから立ち上がって、あたしは彼の部屋に向かった。 





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?