「ふんふふ~ん」
鼻歌を歌いながら、あたしは階段を登っていた。お風呂上がりで、最高に気持ちがいい。
階段を登りきって、自分の部屋に入ろうとした時、隣の部屋が開いて、シルクのパジャマの雪哉くんが出てきた。
雪哉くんがあたしの姿を凝視する。
「お、おまえ、なんつー格好だよ」
……え? あたしの格好?
あっ!!! し、しまったぁ!! いつものクセでバスタオルだけで出てきちゃった。
「ご、ごめんなさい」
あたしは逃げるように、自分の部屋に入ろうとした。
「安心しろよ。おれ、おまえには興味がないから」
あたしの背後で、雪哉くんのなんの感情もない声がした。
「他の男はおまえに興味あると思うぜ。だから、そんなカッコでウロウロすんなよ。ここにはおれの兄貴も住むんだからな」
それだけ言うと、雪哉くんは階段を降りて、キッチンのほうに向かった。
「…………」
あたしは廊下に立っていた。ショックで動けない……。
——おれ、おまえに興味ないから。
ひどく胸に刺さる言葉だった。さっきの壁ドンはいったいなんだったの?
ただ、
その時、あたしの部屋の左側の扉が開いた。たしか、この部屋は客人用だったはずだ。
あたしは扉が開いたほうに顔を向けた。さっき言われたことのショックで、頭が働かないまんまだ。
「おわぁ!!!!! 星奈ちゃん!! な、なんて姿で。あぁ、ご、ごめん」
聖哉さんだった。顔が赤い。
「あ、ごめんなさい」
あたしは自分がバスタオル一枚だったことを思い出した。
聖哉さんが慌てて、自分の部屋に戻って行った。
「ほら、早く自分の部屋に戻れよ。こんなとこに突っ立って、風邪引くぞ」
雪哉くんがペットボトルを片手に下から上がってきて、あたしにカーディガンをそっとかけた。
……どうして? そんな優しいの?
「上から86、60、84ってとこだな。世の中の男が好きな理想の体型だよ、おまえは。おれが他の男と違うだけだから、気にすんな。じゃな」
バタンと閉められたドア。
あたしも自分の部屋に戻って、パジャマに着替えた。
本当は少し、自分の身体には自信があったんだ。色々トレーニングして、しんどくても腹筋、筋トレ、美脚頑張って……。
だって、東大に行った菜奈ちゃんに勝てるのなんて、この身体しかないって、どこかで劣等感を抱いている自分がいた。
家族全員、東大なんて…しんどい時も多々あるよ。あたしなんて、勉強きらいで専門学校にまでしかいってないんだから。
雪哉くん、冷たかったり、優しかったり、わけわかんないよ……。