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第12話

「ふんふふ~ん」

 鼻歌を歌いながら、あたしは階段を登っていた。お風呂上がりで、最高に気持ちがいい。


 階段を登りきって、自分の部屋に入ろうとした時、隣の部屋が開いて、シルクのパジャマの雪哉くんが出てきた。


 雪哉くんがあたしの姿を凝視する。

「お、おまえ、なんつー格好だよ」


 ……え? あたしの格好?


 あっ!!! し、しまったぁ!! いつものクセでバスタオルだけで出てきちゃった。


「ご、ごめんなさい」

 あたしは逃げるように、自分の部屋に入ろうとした。


「安心しろよ。おれ、おまえには興味がないから」

 あたしの背後で、雪哉くんのなんの感情もない声がした。


「他の男はおまえに興味あると思うぜ。だから、そんなカッコでウロウロすんなよ。ここにはおれの兄貴も住むんだからな」

 それだけ言うと、雪哉くんは階段を降りて、キッチンのほうに向かった。


「…………」

 あたしは廊下に立っていた。ショックで動けない……。


 ——おれ、おまえに興味ないから。


 ひどく胸に刺さる言葉だった。さっきの壁ドンはいったいなんだったの?

 ただ、揶揄からかっただけ?


 その時、あたしの部屋の左側の扉が開いた。たしか、この部屋は客人用だったはずだ。

 あたしは扉が開いたほうに顔を向けた。さっき言われたことのショックで、頭が働かないまんまだ。


「おわぁ!!!!! 星奈ちゃん!! な、なんて姿で。あぁ、ご、ごめん」

 聖哉さんだった。顔が赤い。


「あ、ごめんなさい」

 あたしは自分がバスタオル一枚だったことを思い出した。


 聖哉さんが慌てて、自分の部屋に戻って行った。


「ほら、早く自分の部屋に戻れよ。こんなとこに突っ立って、風邪引くぞ」

 雪哉くんがペットボトルを片手に下から上がってきて、あたしにカーディガンをそっとかけた。


 ……どうして? そんな優しいの?


「上から86、60、84ってとこだな。世の中の男が好きな理想の体型だよ、おまえは。おれが他の男と違うだけだから、気にすんな。じゃな」

 バタンと閉められたドア。


 あたしも自分の部屋に戻って、パジャマに着替えた。

 本当は少し、自分の身体には自信があったんだ。色々トレーニングして、しんどくても腹筋、筋トレ、美脚頑張って……。


 だって、東大に行った菜奈ちゃんに勝てるのなんて、この身体しかないって、どこかで劣等感を抱いている自分がいた。


 家族全員、東大なんて…しんどい時も多々あるよ。あたしなんて、勉強きらいで専門学校にまでしかいってないんだから。 


 雪哉くん、冷たかったり、優しかったり、わけわかんないよ……。



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