「…………」
雪哉くんが目を見開いて、驚いた顔をしている。
……え、あたしの気持ち、ホントにぜんぜん気づいてなかったの?
「おまえ、声デッカ……。リビングにまで聞こえたかもな……」
雪哉くんがびっくりしていたのは、あたしの声の大きさだったらしい。
「え、なになに! もぅ、恥ずかしいよ!! 雪哉くんのせいだからね!」
あたしは自分のしたことが恥ずかしくて、彼のせいにする。
顔を赤くしたあたしに、雪哉くんはなぜかどんどん近づいてきた。
彼からはお風呂上がりのいい匂いがする。
雪哉くんとの距離がどんどん近くなる。
……え? え? ええ? えー!!
この意味不明な状況に、あたしは身動きすらできなかった。
雪哉くんの両手があたしの顔のすぐ横を通り過ぎ、壁につく。
「ち、近い……」
蚊の鳴くような声をあたしは出した。人生初の壁ドンとやらを雪哉くんにされている。
雪哉くんの顔がすぐ目の前にある。な、なんで⁉︎ こんなこと……。
あたしたちは至近距離で、なぜか向かい合っていた。彼の瞳に映る自分は明らかに戸惑っている。
「……別に、おまえがおれを好きだって、バレたっていいんじゃない?」
そう言って、雪哉くんはなぜか笑ったが、口角が半分上がっていて、愉しそうな顔だった。
え? 笑った? でもその笑い方、なに?
「ふっ」
あたしの
「……じゃあな。夜這いしに来るなよ」
雪哉くんがあたしから離れて、母に無理矢理あたえられた部屋に戻ろうとする。
「いいい行くわけないでしょ!! 夜這いなんて! おおお、おやすみ」
あたしの顔は赤い。真っ赤っかだ。
「……おやすみ」
雪哉くんはあたしの顔を見て、満足そうな笑みを浮かべ、ドアをパタンと閉めた。
あたしはその場にぺたんと座り込んだ。すごくドキドキしている。
……自分の気持ち、初めて言えた。十五年間も言えなかったのに……。
そ、それに雪哉くん笑ってたよ、なんで? なんでー⁉︎
「へ、変なひと!」
あたしも変だけど、雪哉くんも変だ!
……でもちょっとだけ、いつもと違ったな……。そんな些細なことが嬉しいあたし。
……またお隣かぁ。ふふ、ありがとうお母さん。
梅乃宮さんのお家は潰れてしまったけど、なにかを無くしたら、必ず、またなにかを手に入れられると、あたしは信じてるよ。
お湯に浸かりながら、あたしはそんなことを考えていた。
……このお湯に、ゆ、雪哉くんも浸かったんだよね。それだけでドキドキする。
まさかお風呂を共有する日が来るなんて……。
鈴さん、聖哉さん、それに雪哉くん、ごめんね。この状況を喜んでしまっている自分がいる。ダメだと思っても、好きなひとと一緒に暮らせるなんて、奇跡だよ……。
鈴さんに笑顔が戻るように、あたしも頑張るからね!!