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第11話

「…………」

 雪哉くんが目を見開いて、驚いた顔をしている。


 ……え、あたしの気持ち、ホントにぜんぜん気づいてなかったの?


「おまえ、声デッカ……。リビングにまで聞こえたかもな……」

 雪哉くんがびっくりしていたのは、あたしの声の大きさだったらしい。


「え、なになに! もぅ、恥ずかしいよ!! 雪哉くんのせいだからね!」

 あたしは自分のしたことが恥ずかしくて、彼のせいにする。


 顔を赤くしたあたしに、雪哉くんはなぜかどんどん近づいてきた。

 彼からはお風呂上がりのいい匂いがする。


 雪哉くんとの距離がどんどん近くなる。


 ……え? え? ええ? えー!!


 この意味不明な状況に、あたしは身動きすらできなかった。


 雪哉くんの両手があたしの顔のすぐ横を通り過ぎ、壁につく。


「ち、近い……」

 蚊の鳴くような声をあたしは出した。人生初の壁ドンとやらを雪哉くんにされている。


 雪哉くんの顔がすぐ目の前にある。な、なんで⁉︎ こんなこと……。


 あたしたちは至近距離で、なぜか向かい合っていた。彼の瞳に映る自分は明らかに戸惑っている。


「……別に、おまえがおれを好きだって、バレたっていいんじゃない?」

 そう言って、雪哉くんはなぜか笑ったが、口角が半分上がっていて、愉しそうな顔だった。


 え? 笑った? でもその笑い方、なに?


「ふっ」

 あたしの茹蛸ゆでたこみたいな顔を見て、雪哉くんは鼻で笑った。



「……じゃあな。夜這いしに来るなよ」

 雪哉くんがあたしから離れて、母に無理矢理あたえられた部屋に戻ろうとする。


「いいい行くわけないでしょ!! 夜這いなんて! おおお、おやすみ」

 あたしの顔は赤い。真っ赤っかだ。


「……おやすみ」

 雪哉くんはあたしの顔を見て、満足そうな笑みを浮かべ、ドアをパタンと閉めた。


 あたしはその場にぺたんと座り込んだ。すごくドキドキしている。


 ……自分の気持ち、初めて言えた。十五年間も言えなかったのに……。


 そ、それに雪哉くん笑ってたよ、なんで? なんでー⁉︎


「へ、変なひと!」

 あたしも変だけど、雪哉くんも変だ!


 ……でもちょっとだけ、いつもと違ったな……。そんな些細なことが嬉しいあたし。


 ……またお隣かぁ。ふふ、ありがとうお母さん。



 梅乃宮さんのお家は潰れてしまったけど、なにかを無くしたら、必ず、またなにかを手に入れられると、あたしは信じてるよ。

 お湯に浸かりながら、あたしはそんなことを考えていた。


 ……このお湯に、ゆ、雪哉くんも浸かったんだよね。それだけでドキドキする。

 まさかお風呂を共有する日が来るなんて……。


 鈴さん、聖哉さん、それに雪哉くん、ごめんね。この状況を喜んでしまっている自分がいる。ダメだと思っても、好きなひとと一緒に暮らせるなんて、奇跡だよ……。


 鈴さんに笑顔が戻るように、あたしも頑張るからね!!








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