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第10話

 あたしは一人部屋に戻って、ベッドに寝転んだ。


 ……仲良かったな、あの二人。


 そう思うと、大きなため息が出た。


 雪哉くんと暮らせるのは嬉しいけど、複雑。

 菜奈ちゃんと雪哉くん、やっぱり両思いなんじゃ……。

 二人がいちゃつくの見たくないなぁ……。


 その時、ドアをノックされた。

「あ、はぁい」

 身体を起こして、あたしは返事をした。


「おい、風呂だってよ」

 雪哉くんの声がした。


「!!」

 あたしはベッドから飛び降り、急いでドアを開ける。


 なんと雪哉くんが、あたしの隣の部屋に入ろうとしている。

 長年、物置部屋になっていたところだ。母の仕業に違いない。


 あたしと雪哉くんは部屋が隣。ここでもお隣さん! ヤッタァ!


「なんだよ?」

 あたしの喜ぶ顔を見て、雪哉くんが眉をひそめて不機嫌な顔をした。


「あのさぁ自分の部屋、もしかしてあたしの隣の部屋?」

 あたしはわかってて聞いている。


「……そうみたいだな」

 雪哉くんが濡れた髪をタオルで拭きながら、たいして興味もない答え方をする。パジャマは数字にうるさい兄のものらしく、白のシルクのパジャマを着ている。


 ……お風呂上がりの雪哉くん。超、色っぽい……。そのパジャマもとっても似合ってる。


「あ! そうだ! あたしにもなにか手伝えることがあったら言ってよ!」

 梅乃宮家の一大事は、あたしの一大事でもあるからね。


「おまえに? ……別にないな」


「えーっ! 菜奈ちゃんの時はあんなに嬉しそうだったじゃん」

 あたしは下唇を噛んだ。なんだか、悲しいし、悔しい。


「……おまえは仕事があるだろ」


「え? でも菜奈ちゃんだって、大学があるよ!」

 簡単に引き下がらないよ。あたしだって、役に立つとこ、しっかり雪哉くんや、鈴さん、聖哉さんに認めてもらうんだから。


「……ハァ。じゃあ、おまえはあんまりおれを見るな」

 雪哉くんが大きなため息を吐き、おでこに手を当てながら口にした。


 ……なに、それ?


「あ、あたしに見られるの、イヤってこと?」

 あたしの足が震える。き、拒絶されてる?


「……イヤだな。普通はイヤだろ? おまえの部屋の窓から、何時間も自分の部屋をのぞかれたり、外出の際、視線を感じたら、いつもおまえがみてる、そんな生活はやだね」


「き、気づいてたの」


「……あのなぁ、何時間も見られてたら、イヤでも気づくぞ」

 呆れたように息を吐き出す雪哉くん。


「ご、ごめん。あたし、そんなつもりじゃ……」

 うぅ。そんなに嫌われてたなんて……。な、泣きそう。


「おれのこと、好きじゃない女には見られたくはないね。おまえ、おれのこと好きじゃないって言ってたよな?」

 雪哉くんの言葉の温度が冷たい。


「そ、それは……」

 あんなところで好きなんて言えるわけないじゃん! 女将さんもいたし。


「とにかく、そういう行為、もうやめてくれないか」

 雪哉くんが長いまつ毛を伏せて言う。


「無理! あたし、ずっと雪哉くんのこと好きなんだもん!!」

 ぎゃ~っ! パニックになって、廊下こんなところで言っちゃった。








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