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第51話

「え、見せびらかしたんだ」

 あのお弁当を? あたしの顔が赤くなる。

 好きな女の子……、あれ、またその話題? 


「うん。どのみち、あの大きさだからね。隠しようがないし、それなら僕はみんなに見せてやれ~って」

 明るい口調で聖哉さんは言ってきた。


 先日、あたしは聖哉さんから告白されてた。

 あの時は雪哉くんが隣から出てきて、会話が中断したんだった。あたしも本気じゃないと思って、そのままにしていた。


 聖哉さんはこんなにオシャレだし、イケメンだし、彼女はいるんじゃないかな……。

 いないほうがおかしい……。


「あ、ねぇ星奈ちゃん、冷たいもの欲しくない? 懐かしいもの見つけたんだ」

 突然、聖哉さんが声を弾ませた。


「冷たい物? うん、欲しい!」

 考え事していて、馬鹿みたいに長風呂しちゃったんだった。身体が熱い。


「ちょっと待ってて」

 そう言うと、聖哉さんは階段を急いで降りていった。聖哉さんはどうやらキッチンに向かったらしい。


「はい! 星奈ちゃん、お待たせ!」

 弾むような声を出して、聖哉さんが階段を駆け上がってきた。


 あたしは階段を上がってくる聖哉さんを見た。


 聖哉さんの手にはアイスが握られていた。


「懐かしいでしょ!? このアイス、何年ぶりだろうね。廃盤になったと思ってたけど、最近復活したみたいだね。スーパーで見つけた時は嬉しかったなぁ」

 水色のパッケージのアイスを聖哉さんは握っていた。


 それもたったひとつ……。


「え? 懐かしい? え……?」

 あたしの頭が混乱しだした。


「昔はさ、よくこのアイスを半分こにして食べたよね」

 聖哉さんは袋からアイスを取り出し、半分に割って、片方をあたしに差し出した。


「え……」

 理解できない。聖哉さんはなにを言っているのだろう……。 


 追いつかない頭で、あたしは恐る恐る聖哉さんからアイスを受け取る。


「昔はよく庭で星奈ちゃん、泣いてたよね。でもこのアイスが好きでさ、これを食べている時は幸せそうだったね……」

 懐かしいね、と話す聖哉さんにあたしは呆然とした。


 口に含んだアイスの味がよくわからない……。ウソだよね……?


 あたしが一目惚れして、初恋だと思っていて、ずっと大切に思ってきた相手は雪哉くんではなかったってこと……?


 初めての恋、ソーダアイスの相手は、雪哉くんではなく、聖哉さんだったんだ……。









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