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第50話

「そうと決まれば、護衛団のみんなに連絡しなきゃね。明日から護衛はいいですって。えーと、護衛団のグループライムは……」

 母がスマホを手に取った。 


「ご、護衛団!? え、あたしの護衛ってそんなにいるの?」

 あたしは驚いて母に聞き返した。 


「いっぱいいるわよ。ここに来るクリーニングの新井さんに、お米屋の米田さん、酒屋の四田さんに、新聞配達員の久原さん、それにここの従業員全員に、お父さん、私、お兄ちゃん、星奈の勤務先の女将さんに、志郎さんに……、それから……」

 母が指を折って数え出した。


 ……え? 女将さんや、志郎さんまでいるのぉ!? はぁ?


「あー、もういい! せっかくのいい雰囲気台無しだよ、もう!」


 あたしが唇を尖らせると、隣の雪哉くんが笑っていた。


「やっぱり、おまえの家、普通じゃないな」

 そう話す雪哉くんは、とても楽しそうだった。


 その笑顔を見たら、そんな些細なこと、どうでもよくなった。



 ***


「今日は朝から色々あったなぁ……」


 あたしはお風呂に浸かりながら、今日の出来事を思い出していた。


 父と母が自分のことをそんなふうに思っていたことは、本当に喜ばしいことだった。あたしはこの家に必要とされていたんだ。


 それにしても……今日の雪哉くんはいろんな顔を見せてくれた。


「雪哉くん、優しかったな……」

 冷静になると、自分の本音が出てきた。公園では強気なふりをしていた。


 付き合えないと言われて、平気なわけがない……。


 さっきの雪哉くんの眩しい笑顔を思い出すと、やはり自分の中にある雪哉くんへの想いが溢れ出す。


「付き合えない……かぁ」

 あたしの胸がちくりと痛む。 


 ……彼女になれたら、いつも隣にいて、あの笑顔を見れるんだよね。


 お風呂場を出て自分の部屋に戻ろうと、階段を登りきると、廊下に聖哉さんが立っていた。


「星奈ちゃん、今日はお弁当ありがとう。おかげで今の時間までひとつもお腹空かなかったよ」


 聖哉さんはお風呂に入った後で、白いTシャツにジャージという姿だったけど、雪哉くんとは違う、大人の色気があった。


「あ、ううん。ごめんなさい。少し多かったんじゃない?」

 雪哉くんに言われて、あたしはお弁当の量が多すぎたと反省した。


「あはは。そうだね。でも星奈ちゃんらしいなぁって。そんなお弁当だったよ。キャラ弁、作るの大変だったでしょ?」

 聖哉さんが優しく微笑む。


「あ、ううん。練り切りを作るよりは全然簡単だったよ」

 あたしは聖哉さんのお弁当はキャラ弁にした。おにぎりで聖哉さんのいろんな顔を作った。笑った顔、困った顔、変顔……。


 あたしはやはり物を作るのが好きらしい……。


 いつも大混雑している市役所の一階で頑張って働いている聖哉さんに、休憩時間ぐらい、ゆるキャラでリラックスしてほしいという思いから作ったのだけど、大人があれを食べるのは、かなり恥ずかしかったかもしれない。


 お重いっぱいのカラフルでかわいいキャラ弁。星型の人参に、ハムで作ったリボンに、薄焼き卵のお花など……。


「でも聖哉さん、大人だし、あんなお弁当恥ずかしかったんじゃ……」

 あたしは聖哉さんを見る。聖哉さんは穏やかな顔をして、あたしをじっと見つめている。


「どうして? 確かに量はものすごく多かったけど、僕にとっては自慢のお弁当だったよ? 好きな女の子が作ってくれたお弁当だよ。僕はみんなに見せびらかしたけどね」

 聖哉さんがふふっと笑った。その笑顔は雪哉くんにとても似ていた。 





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