……え? そうなの? あたしだけ東大卒じゃないことに劣等感を抱いていたんだけど……。
「星奈にも、学歴をと思って子供の頃に教育をしたんだが、星奈にはそれが合わなかったみたいでね。でも結果、これでよかったって私たちは思っているんだ」
父が母のほうを見て、微笑んだ。母も父に微笑み返した。
「もちろん樹くんも菜奈ちゃんも大切なうちの子供よ。かわいい子たちよ。でもあの子たちにはないものを星奈ちゃんは持っているの。ボーとしていて、すごくそそっかしいんだけど、我が家の緩衝材みたいな役割が星奈ちゃんなの」
母があたしを見つめる。その目は聖母のようだった。
「そう星奈は本当に見ていられないぐらいおっちょこちょいで、マヌケで、不器用で……」
父が雪哉くんに向ける笑顔も、その目も柔らかいものだった。
「ちょっとさっきから二人ともひどくない? そそっかしいだの、おっちょこちょいだの、マヌケだの……」
あたしが反論する前に父が言葉を重ねてきた。
「でもね、できないぶん、一生懸命なのが星奈なんだよ」
父の言葉にあたしは涙が出そうになった。
「そう、それがかわいいのよ、私たちの癒しなの。そんな星奈ちゃんを守りたかったの、それだけだったの」
母がテーブルの下で手を組み、続けて言った。
「でもね、間違っていたわね……」
母は笑っているが、どこか寂しそうだった。
「……そうですね。でも、お二人が星奈をとても大事に思っていることはわかりましたから」
雪哉くんはそう言って、ビールを一口飲んだ。
……あたし、そんなふうに思われていたの? できない子じゃなくて?
やばい、嬉しくて泣きそうだ。
「ごめんね、星奈ちゃん」
「その、すまんかった、星奈」
父と母から謝られたけど、あたしは涙がこぼれそうで、ゆっくりとかぶりを振った。
膝に置いていたあたしの手の上に、温かい手が乗った。隣に座っている雪哉くんの手だった。
あたしはびっくりして顔を上げた。雪哉くんがあたしを見て微笑んでいた。
「どうやらおまえは、この家の宝物だったらしい」
彼の言葉であたしは完全に涙腺が崩壊した。
「……お父さん、お母さん、今まで守ってくれてありがと」
今日はなんて素敵な日だろうと思った。
父と母の目にもうっすらと涙が浮かんでいた。