「そういうことでいいよな? 父さんも母さんも。おれも雪哉も忙しいんだ。星奈のお
兄がそういうと、ぐうの音も出ないようで父も母も「それならしかたない」と納得せざるを得ないようだった。
「雪哉が切り出してくれてよかったよ。あっはっは」
兄が笑いながら、シアタールームのほうに歩いていった。牛乳を飲みながら、これから映画でも観るのだろうか……。
「……星奈ちゃん、お父さんも、お母さんも悪気があったわけじゃないの。でもごめんなさい。嫌だったわよね……」
母が黙って立っているあたしの手を握って、謝ってきた。
「……星奈、この家にはおまえが必要なんだ。雪哉くんの前で話すようなことではないんだが……」
父が気まずそうに雪哉くんを見た。
「おれ、もう部屋に戻りますよ」
「い、いや、星奈だけじゃなく雪哉くんにも聞いてほしい。しばらくはこの家に暮らすんだから隠しても仕方がない。少しだけ座って話さないか?」
父が部屋に戻ろうとする雪哉くんを引き止めて、ソファに座るように促した。
雪哉くんがソファに座ったので、その隣にあたしも座る。駒塚もいつの間にか退室していなくなっていた。
「で、なんですか? 話って……」
雪哉くんが父と母を見た。
「うちの家族がこんなに
……え?
父の言葉にあたしは唖然となった。
「高学歴ばかり集まると、うまくいかないことも多々あるんだ。特にうちの子供たちは難なく東大に入ったからね。ああ、星奈は別」
父の言葉にムッとなるあたし。
「そう、それが時々、息が詰まる時があるのよ。樹くんなんてあんな調子でしょ。なんでもかんでも数字にこだわるし、でも会社の仕事もスポーツでもなんでもそつなくこなすわ。菜奈ちゃんもそう、言い出したら聞かないし、お料理も勉強もなんでも完璧にこなす、できないことがない」
母が少し疲れたように息を吐いた。
「雪哉くん、君ならわかるよね? 完璧ってすごく疲れるんだよ。なんでもできるって、ある種、こちらは気を抜けないんだよ、親として」
父が立ち上がり、冷蔵庫を開けて雪哉くんにビールを持ってきた。
「少し飲まないか、雪哉くん」
父がグラスを雪哉くんに差し出した。
「少しなら」
雪哉くんが父からグラスを受け取った。
不思議な光景だった。父と雪哉くんがお酒を酌み交わしている。
「星奈がいるとね、息が抜けるんだよ。いい意味でね」
父があたしを見た。その瞳は慈愛に満ちていた。