「鈴さんも悩んだと思うよ、雪哉くん」
父も雪哉くんに優しい言葉をかけた。
「……そうですね」
雪哉くんが真顔で父と母を見つめた。そして言葉を続ける。
「おれの気持ちはわかるのに、星奈の気持ちは無視ですか? 護衛をつけて星奈を縛り付けて……。このまんまでは、星奈は自分の身を自分で守ることもできませんよ」
雪哉くんは冷静な言い方だったが、彼がこんなことを言うなんて意外だった。
あたしが知る限り、基本、誰とも深く関わらないスタンスのはずだ。
「ゆ、雪哉くん、もういいよ。それにうちの親が鈴さんの土地を……なんかごめんね」
あたしは隣に並ぶ、雪哉くんに声をかけた。
「土地は仕方がない。あれはばぁちゃんのものだから。ただ相談はしてほしかったけど、ばぁちゃんがそう決めたならもういい……」
少し寂しそうな雪哉くんの横顔。
あたしの胸も痛くなる。
その時だった。
「雪哉の言う通りだ、父さん、母さん!」
よく通る大きな声がした。
あたしたちが振り返ると、そこにはブルーの可愛いテディベアのパジャマを着た
「お、お兄ちゃん、いつからそこにいたの……?」
こ、こわっ。この家の住人みんな気配を消すのが上手すぎない?
「最初からここにいたじゃないか、星奈。なんだ、おかしなことを言うなぁ、はっはっは」
兄が笑った。あたしは笑えない。
「…………」
雪哉くんも目を大きく開けて、頬を引き攣らせている。
よかった、雪哉くんにも兄が見えてなかったんだ。
「父さん、母さん、雪哉の言う通りだよ。星奈の護衛はもうやめよう。星奈も大人だ。こんなことしていたら、星奈はいつまでもドジでマヌケで、ボケっとしたまんま生きることになる」
兄が雪哉くんを見た。雪哉くんも兄の言葉に頷いている。
……ち、ちょっと、ドジでマヌケで、ボケって……言い過ぎじゃない!?
「星奈はそこが可愛いんじゃないか」
「そうよ、星奈ちゃんがいるから、この家は明るいのよ」
父と母が焦り出したのがわかった。
この家の本当の
『父さん、これはなに? これは経費とは認めない』と父には経費の数字で攻め立て、母には『少し太った母さん? そうだな正確には1.2キロほど体重が増えたんじゃないか? エンゲル係数と関係があるかもな』など、とにかく数字を使う、他人だったらまず友達にはなりたくないナンバーワンだ。
「正直、おれも仕事がある中で、星奈のお守り……じゃない、護衛? 監視? 大変なんだ。今朝なんか二駅も走らされたんだぜ」
兄がふぅ~と大きなため息をついた。
今朝の護衛担当は駒塚ではなく、マッチョ兄だったらしい!! そして兄もあたしの護衛担当メンバーの一人だったんかい!!