アイスをもらった時には、あたしはその子と楽しい時間を共有し、カブトムシをもらって育てた時には、成長をもらった気がする。
その相手がどっちも聖哉さんなんだ……。
「着替え忘れた。おまえら、話しすんならリビングかどこかで話しろよ。ジャマ」
雪哉くんが階段を上がってきた。これからお風呂に入るらしい。
「なんだよ。別にいいじゃないか。邪魔になんかなってないだろう」
聖哉さんが雪哉くんを見て微笑んだ。なにか意味深な笑みだった。
「……邪魔だね。こんなところでイチャつくなよ」
雪哉くんがなぜかあたしに文句を言った。なにを考えてるのか全く読み取れない、そんな能面みたいな顔だった。
「雪哉がうるさいから、じゃあ、リビングに行こうか、星奈ちゃん」
聖哉さんが大人の笑みを見せてきた。その美しく澄んだ瞳は雪哉くんとは真逆だ。まぶしい。
「え……」
あたしは戸惑った。なぜか雪哉くんがまだあたしを見ていたからだ。
「下でなにか飲もうよ。僕、新発売のビールが飲みたくて買ってきたんだ」
声を弾ませ、楽しそうに話しながら、聖哉さんが階段を足早に降りていく。
「あ、待って」
あたしは聖哉さんに声をかけた。途端に雪哉くんの周辺の温度が下がった気がした。相変わらず、能面フェイスのまんまだ。
「あ、あの、あたし、別に、そんなんじゃないから」
雪哉くんに対して、わけのわからない言い訳の言葉が口から飛び出した。
「……だっせぇパジャマ。色気ゼロ」
雪哉くんがあたしのピンクのテディベアの寝巻きに視線を落とした。これは
「な、なによ。別に可愛いからいいじゃない」
雪哉くんは急に変なことを言って、あたしを攻撃することがある。今がまさにそう! 理解不能、謎すぎ! さっきまであんなに優しかったのに?
あたしが言い返すと、雪哉くんがずんずんとあたしに近づいてきた。また壁際に追い込まれるあたし。
「あ、そういえばおまえ、おれに『成り行きで告白した』んだったなぁ」
雪哉くんの顔は半分だけ口元が笑っていて、目には温かみがなく、とんでもなくイジワルな顔だ。
なんだ、この顔。なんで、そんな顔?
それは例えるなら、氷の国の魔王みたいだ。
「ち、違うよ、成り行きじゃない」
やはりスタビでの会話はバッチリ聞かれていた。騒いだことを根に持っているのだろうか……。
「ふ~ん……。どうだか」
雪哉くんとの距離がドンドン近くなって、顔が目の前にあった。ただその周りの空気は吹雪いている気がする。
「星奈ちゃ~ん、なにしてるの、早く~」
下から聖哉さんがあたしを呼ぶ声がした。
「はぁ~い。聖哉さん、今行く……」
言葉を終える前にあたしの時間が止まった。
あたしの頬になにかが触れたからだった。
そのなにかは雪哉くんの手だった。そのまま雪哉くんがあたしにそっとキスをした。