あたしの脳は停電していた。きっと今、口を開けっぱなしであたしはアホ
雪哉くんとのキスは一瞬だった。あたしの唇にわずかに触れた唇。柔らかかった……。
……あたしの初めてのキス、雪哉くんとキス……信じられない……。
余韻に浸り、呆然とするあたしに彼は言い放った。
「いい気味だな」
そしてニヤリと口角を上げた。余裕がある顔だった。なぜか彼の周りの吹雪も止んでいた。
雪哉くんが自分の部屋に戻って、しばらくしてからようやく、あたしの脳の回線は繋がった。
……し、信じられない、信じられない。
あたしは完全にパニックで階段を駆け降りた。階段を降りたところでスリッパが滑り、片方が飛んでいき、転んで派手に膝と両腕をついた。
「あてっ!」
イタタ……。受け身はとったけど、なかなかに痛い。
視線を感じて見上げると、廊下にいる雪哉くんがあたしを見下ろし、笑っていた。なんとも愉しそうな嫌な笑みを浮かべているではないか、なんだあの男は!
「ちょ……、大丈夫!? 星奈ちゃん」
リビングから聖哉さんが飛び出してきて、あたしの腕を持って起こしてくれた。
あたしは
満足そうなその笑みは、もはや塩どころではない、あれは
「星奈ダメだろ、家の中を走るなよ」
階段から降りてきて、あたしの真横を通りすぎる時に、彼はそう言いながらも、ほくそ笑んでいた。
ひとが転んだのが、そんなにおかしい!?
あたしは雪哉くんのことがまったくもってわからない。なぜにキスをしたのか。好きかどうかわからないんじゃなかったのか。
聖哉さんとその後、他愛ない話をしたけど、あんまり内容が入ってこなかった。
その日の夜はなかなか寝れなかった……。
「おはよう、星奈ちゃん、もう十時よ~」
次の日は母の声で起きた。今日が休みでよかった。
雪哉くんも、聖哉さんもとっくにいなかった。あたしは胸を撫で下ろした。
あたしが遅い朝ご飯を食べているところに母がやってきた。今日もエレガントな紺のワンピースを着ている。
菜奈ちゃんは見た目は母にそっくりだと思う。
「星奈ちゃん、美味しい?」
母は隣に座って、あたしがロールパンを食べているのを見ている。母の様子がおかしい。
目がらんらんと輝いている。
「……美味しいよ、なに?」
あたしはロールパンにバターを塗った。こういう時の母の会話は覚悟をもって聞かなければならない。
「あのね、お隣の土地買い取ったじゃない?」
「うん」
「それでうちを増築しようと思うの! ほら、いずれ誰か結婚すれば手狭になるでしょう?」
母の目は強い光を放っていた。そのいずれはあたしだと言いたげだった。
「お母さんねぇ、孫の世話を身近でするのが今の夢なの」
母は胸の前で手を組んだ。いつものお嬢様らしいポーズだ。