……菜奈ちゃん、聖哉さんには辛口だなぁ……。でも楽しそうに見えるのはあたしだけ?
駅のホームで、あたしたちは電車が来るのを待っていた。
聖哉さんが腕時計を確認したその時、下りエスカレーターから、若い女の子たちの黄色い声がホームに響いた。
その女の子たちは、ドタバタと聖哉さんのところに駆けてきた。
……な、何事!? 怖いんですけど……。
猪の如く猛進する女性らに、あたしは
見た目が清楚系、可愛い系、奇麗系、すべて揃っている五人組だった。みんな今時っぽい。
「梅乃宮くぅん、こんな所でなにしてるの?」
「梅乃宮くん、今日は仕事手伝ってくれてありがとう~」
「ねぇ、明日は私の仕事手伝ってくれない? 私、一人じゃ無理なの~」
「ちょっと私が梅乃宮クンを見つけたんだから、私が先よ!」
「みんな、もう梅乃宮くんが困ってるじゃない! 静かにしなさいよ~」
女子五人が聖哉さんを囲んで一斉に話をし出した。これは聖徳太子でないと聞き分けは無理だ。
……てか、なにこの状態? 聖哉さん、もはやアイドル扱い? え? 『シゴデキ』だったんだ。このルックスでもドジで仕事がトロければ、絶対にモテない。逆に『アイツ、見た目だけで使えない~』と評価をだだ下げにするのが女という生き物である。
「あ、みんなも今帰りなの?」
聖哉さんは慣れているようで、冷静に笑顔で返事をしている。しかも先ほどまでのヘタレ子犬キャラではない。駄犬から、イタリアングレーハウンド(かっこいい犬ランキング1位)になっている。
さわやかで余裕があり、仕事ができる大人の男の『スーパーミラクルシゴデキオーラ』を放っている。
彼の背景に白い薔薇が咲き乱れ、その動作の一つ一つに砂金が溢れ落ちてゆく。
これはギャップがすごい。先ほどまでのスイーツ大好き可愛いワンコ系だった面影は跡形もなく、消え去っている。
「ねぇ、聖哉くぅん、明日ランチみんなで食べようよ~」
「なに言ってるの、私が明日は食べる番でしょ! ねぇ、聖哉くん」
「こら、そこ! どさくさに紛れて、名前で呼ばない!」
またも女子たちが言い合いを始めた。
「こら、喧嘩はダメだよ。明日はみんなで食べればいいんじゃないかな」
聖哉さんが優しい声で、みんなを
この様子に先ほどからピリついた圧を送っているのが、菜奈ちゃんだった。
「聖哉、もう電車きたわよ!」
菜奈ちゃんが棘のある声を出した。
前方に黄色い電車が姿を現した。あたしたちが乗る電車だ。
「あ、え、ほんと? みんなまた明日ね」
聖哉さんが満面の笑みで五人組に手を振った。女子全員が頬を染めて、とろける表情をしている。
「え……? 梅乃宮くん、彼女いたの?」
菜奈ちゃんに気づいた女子の表情が固まっている。
相手が菜奈ちゃんなら、そうそう勝ち目はない。みんなが振り返るほどの美人だ。
「彼女はいないけど、好きな子はいるよ」
聖哉さんはそう言って、突然あたしの肩を抱き寄せた。
えー! ちょっ……。
「電車乗ろ、星奈ちゃん」
電車のドアが開くと同時にあたしの手を引き、電車に乗る聖哉さん。女子五人の突き刺さるような視線が、あたしの背中に集中する。
女の子たちのあたしを
「あれ、あんたの職場の子たち? うっさいわね」
菜奈ちゃんが電車のドアが閉まった途端に、うんざりした口調で話す。
「そう? にぎやかでしょ」
ふふっと笑い、にこやかに話す聖哉さんだったが、あたしの心臓はバクバクしていた。
聖哉さんはあたしの手を握ったまんまで、それは電車を降りるまで続いた。