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天狗の花嫁
天狗の花嫁
雫石しま
異世界恋愛人外ラブ
2025年06月20日
公開日
1.1万字
連載中
楠木百合子、24歳、平凡なOLとして生きていた彼女は、ある日不慮の事故で命を落とす。しかし、目を開けるとそこは見知らぬ和風の異世界――山と森に囲まれた神秘的な里。百合子は、村の名家の娘 木蓮 として転生していた。だが、喜びも束の間、彼女を待ち受けていたのは冷酷な現実だった。転生先の双子の妹 睡蓮 に、嫉妬と憎しみを込めて虐められる日々。睡蓮は木蓮の婚約者である村長の息子、大野孝信との婚約を破棄させた。 絶望の中、木蓮は里の奥深く、禁じられた森で謎めいた天狗の青年・天祥と出会う。彼は、圧倒的な力と美貌を備えた存在でありながら、孤独と過去の傷を抱えていた。天祥は木蓮に「私の花嫁になれ」と告げ、彼女を森の奥へと誘う。最初は戸惑う木蓮だが、天祥の不器用な優しさと、彼が守る里の秘密を知るうちに、心が揺れ始める。 しかし、睡蓮の策略と村の伝統が二人の関係を脅かす。木蓮は、虐げられた過去を乗り越え、天祥と共に里の因習と対峙する。妹の嫉妬、村の陰謀、そして天狗と人間の禁断の愛――木蓮は自分を信じ、運命を切り開けるのか? 

プロローグ

 身を投げ出した瞬間、木蓮の背中に激しい痛みが走った。まるで鋭い刃が突き刺さったかのように。


 木蓮の名前を呼ぶ声がする。とても悲しく、森や空を切り裂くような叫び声だ。小鳥たちがクスノキの古い枝を揺らし、一斉に飛び立った。


 (天祥てんしょうは無事だったんだ)


 木蓮が手を伸ばすと、天祥の烏の濡れ羽色の指先が震えながらもそれをしっかりと握った。そして、まるで雨粒のような涙が彼女の頬にポタポタと落ちる。その瞳は涙に濡れ、黒曜石のように輝いていた。


 (涙なんか流さないで、泣かないで)


 木蓮は遠のく意識の中で、電車の発車のベルを聞いたような気がした。

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