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氷の令嬢、笑う──私を追放したあなたに祝福を
氷の令嬢、笑う──私を追放したあなたに祝福を
ゆる
異世界恋愛ロマファン
2025年06月20日
公開日
3.5万字
連載中
婚約破棄、そして王国追放―― 冷酷と罵られた公爵令嬢リリー・カーヴァーは、舞踏会の場で王太子から一方的に婚約を破棄され、愛人候補の平民令嬢と引き換えに追放される。 だが、これはリリーにとって“自由”の始まりだった。 新天地で薬草店を開いたリリーは、持ち前の癒しの魔法で人々に感謝されながら静かに暮らしていた。 そんな彼女の前に現れたのは、かつての王国騎士・エドワード。忠誠を誓う彼とともに、第二の人生が動き出す。 一方その頃、王国では魔力の均衡が崩れ、災厄が蔓延。 やがて人々は気づく――あの令嬢こそが、国を支える存在だったと。 「助けてほしい?ならば――国の形を、私が変えてあげましょう」 冷たい微笑みを浮かべる彼女の逆転劇が、今、幕を開ける。 追放令嬢が自由と真実の愛を手に入れ、 王太子にざまぁを叩きつける、痛快ファンタジー・ロマンス!

第1話 追放の瞬間──氷の令嬢は微笑む

第1章-1 運命の舞踏会


今日の王宮大広間は、煌びやかなシャンデリアの光が無数の輝きを放ち、金色に装飾された壁面や彫刻が歴史と伝統を感じさせる壮麗な舞台となっていた。広間に集う貴族たちは、それぞれの誇り高い衣装をまとい、華やかな舞踏会の音楽に身を委ねながらも、どこか緊張感を漂わせていた。その中に、ひときわ冷静で凛とした佇まいの一人の女性があった。彼女――氷の令嬢、リリー・カーヴァーは、重責を背負いながらも、いつものように静謐な微笑みを浮かべ、まるで凍りついた湖面のようにその場を支配していた。


しかし、その夜の舞踏会は、誰もが予期しなかった運命の一幕を迎えようとしていた。華麗な舞踏の最中、突然、会場の空気が一変する。群衆の囁きが一瞬にして静まり返り、重厚な空気の中に、王太子の厳かな声が響いたのだ。


「リリー・カーヴァー、お前との婚約を破棄する」


その一言は、これまでの華やかな笑顔や楽しい音楽の調べを一瞬にして凍り付かせ、会場全体に衝撃と不穏なざわめきを呼び起こした。リリーは、一瞬だけ瞳に驚きの色を浮かべたものの、すぐに内面の激流を抑えるかのように、冷静な表情を取り戻す。彼女は決して表情に動揺を現さず、むしろその瞳の奥に、深い覚悟と静かな解放感を秘めているように見えた。


広間に集うすべての貴族たちは、この予想外の宣告に固唾を飲んで耳を傾ける。リリーは、ゆっくりとした口調で問いかけるように声を発した。


「理由をお聞かせいただけますか?」


その問いかけは、冷たい風が吹き抜ける冬の夜のように、会場に静かな緊張を漂わせた。対する王太子は、目に激情を宿しながらも、堂々たる態度で次の言葉を続ける。


「お前は氷のように冷たい女だからだ! お前は一度も私に愛を向けたことがない! だが、このクラリッサは違う。彼女は優しく、温かく、心から私を愛してくれているのだ!」


その瞬間、王太子の傍らに抱かれた平民の少女クラリッサが、柔らかな微笑みを浮かべながらも、どこか憐れみすら感じさせる眼差しで広間を見渡した。彼女の存在は、これまでの慣習や秩序に挑むかのような衝撃を与え、観衆の間にざわめきを巻き起こす。誰もが信じがたい現実に直面し、内心では衝撃と困惑を隠せなかった。


リリーの内面では、これまで自らの意思とは裏腹に、王家の魔力を支えるための象徴として選ばれ、重い宿命に縛られてきた日々が思い出される。しかし、その宿命に縛られた生活の中で、彼女はひそかに自由を求める心を育んでいた。王太子の言葉は、彼女にとって、かつて感じたことのなかった奇妙な安堵と解放感を呼び覚えるものであった。内心では、こう呟くような思いがあった。


(そう……やっとこの束縛から解放される)


リリーは、王太子の冷徹な宣告を受け入れると同時に、静かなる覚悟を胸に秘めた。彼女がここまで冷静さを保てたのは、自らの宿命に疑問を抱きながらも、それを乗り越えるための確固たる意志があったからに他ならない。これまで彼女は、無理矢理与えられた役割に従い、愛情を見せることを禁じられたままの日々を送ってきた。しかし、その日々の中で、いつか自由になり、本当の自分を取り戻す瞬間が訪れると、密かに信じていたのだ。


一方、王太子は、愛という名の偽りの情熱に溺れ、形式的な義務感だけでリリーを選んできたことに、どこか冷淡な自己満足を覚えていた。彼にとって、クラリッサの優しさは、自らの欲望と野心を満たすための道具に過ぎなかった。しかし、その行動が後にどのような代償を伴うのか、彼自身もその時は知る由もなかった。舞踏会の華やかな雰囲気の中、王太子の言葉は、氷の令嬢であるリリーへの裏切りと同時に、王国の未来を左右する大きな転換点として、確固たる衝撃を与えたのである。


リリーは、その瞬間、微かに頬を引き締め、深く息を吸い込むと、軽やかな身のこなしで一礼をした。その姿は、まるで自らの運命に決して屈することなく、むしろ新たな道を歩むための準備を整えているかのようであった。華やかな舞踏会の熱狂と裏腹に、彼女の内面では冷静な決意と未来への期待が次第に高まっていくのが感じられた。


こうして、氷の令嬢リリー・カーヴァーは、王太子による冷酷な宣告を受けながらも、その場に漂う虚飾や偽りを断ち切るかのように、ただひたすらに優雅な笑みを浮かべ、その一歩を踏み出すのであった。彼女のその微笑みの裏には、長い間閉ざされていた心の自由と、今後迎える新たな未来への期待が、密かに燃え上がっているのが感じられた。まるで冬の寒さの中にひそむ、いずれ訪れる春の暖かさを先取りするかのように、リリーの心は確かに温かい光を帯び始めていた。


そして、王宮の広間に残された一瞬の凍結した時間は、決して元に戻ることはなく、これから始まる新たな物語の序章として、静かに、しかし力強く刻まれていくのだった。


以下は、第1章「追放の瞬間──氷の令嬢は微笑む」の第1セクションに続く、第1章-2の物語です。以下の文章は約2000文字以上となっています。



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第1章-2 儚き誇りと静寂の余韻


王宮の広間から去ったリリー・カーヴァーは、夜の帳が降りる中、静かなる廊下を一歩一歩踏みしめながら、重い運命とこれまでの生活を振り返っていた。広間での出来事は、まるで夢幻のように彼女の心に焼き付いていたが、その裏には確かな現実と、これから待ち受ける新たな道の予感があった。王太子の冷徹な言葉が鳴り響いたあの瞬間、彼女は自分がただの道具として扱われ、魔力を支えるための存在に過ぎなかったことを再認識せざるを得なかった。しかし、同時にその言葉は、彼女の内に封じ込められていた自由への渇望と、真実の自己解放への扉を開く合図にもなっていた。


廊下を進むごとに、リリーの心は次第に澄み渡っていく。過ぎ去った舞踏会の華やかさ、そしてその裏で囁かれた嘲笑と非難。それらは、今や遠い記憶となり、彼女の歩みを重くはしなかった。むしろ、その一歩一歩が、これから迎える新たな生活への確固たる決意を刻み込むかのようだった。足元の大理石の床は、彼女の決意を映し出すかのように、光を反射し、未来への希望を語っているかのように感じられた。


リリーは、振り返れば何度も、無理矢理押し付けられた宿命の役割に苦しみ、愛情というものを否定された日々を思い出した。幼い頃、彼女は王家の血を引く者としての誇りを学び、同時にそれが与える孤独と重圧を知らされながら成長してきた。王宮の厳格な掟の中で、彼女は自らの感情を抑え、与えられた役割を淡々とこなしていた。しかし、内心では決して満たされることのなかった虚しさと、誰かに真の愛情を注ぎたいという強い願望が、密かに胸の奥で燃え続けていた。


その夜、リリーは一人静かに広間を後にした廊下の隅にある小さな窓際に身を寄せ、外の冷たい夜風を感じた。窓の外には、星が瞬く漆黒の夜空が広がり、その中に無数の希望の光が点在しているように見えた。彼女はその光景を見つめながら、ふと、これまでの自分が抱いていた幻想と現実のギャップに思いを馳せた。王太子が口にした「愛のない冷酷な女」という言葉は、表面的には彼女を否定するものだったが、その背後に隠された王国の弱体化と、真の愛の欠如を示唆するものでもあったのだ。


リリーは、その時ふと、遠く離れた記憶の中に、幼少期に母から囁かれた言葉を思い出した。「真の美しさは、内側に秘めた炎のようなものよ。たとえ周囲が冷たくとも、自分自身を信じ、その光を絶やさないことが大切なの」と。その言葉は、今まさに自分を解放する力となり、彼女の内面に秘めた情熱を呼び覚ます源となった。今の彼女は、これまで押し込められてきた自我を取り戻し、新たな一歩を踏み出すための覚悟を固めた瞬間であった。


また、廊下を歩きながら、リリーはかつて自分に寄せられた数々の期待や、周囲の憧れの視線も思い出していた。王家の魔力の象徴として、無数の人々が彼女の存在に意味を見出していたが、その期待は決して彼女自身の望むものではなかった。彼女はただ一人、自分自身のために生きる権利を持ち、自由に心を開放するべき存在だと気づき始めていたのだ。これまでの役割は、まるで鎖のように自分を縛っていたが、その鎖が今、静かに断ち切られようとしているように感じられた。


夜の廊下の静寂は、彼女の心の内面と見事に調和していた。すべての音が遠ざかり、ただ自分自身の呼吸と、足音だけが確かにそこにあった。彼女はその静けさの中で、自分が歩むべき新たな未来のビジョンを心に描いた。そこには、自由と真実の愛、そして何よりも自分自身を大切にする新たな生き方があった。王太子や王宮の虚飾に縛られた過去は、もはや彼女の未来に影を落とすことはなかった。彼女の内側に宿る炎は、これから新たな道を照らすために燃え上がろうとしていた。


そして、リリーは深い決意と共に、廊下の先にある自室へと足を進める。自室の扉を開けた瞬間、彼女はその中に、これまで自分を抑え込んできた束縛の記憶と、同時に未来への可能性が混在していることを感じた。部屋の隅に飾られた一枚の肖像画――かつての家族や、王宮での輝かしい日々を思い起こさせるその肖像画は、今や彼女にとって過去の象徴であり、同時に新たな未来への出発点を意味していた。


リリーは窓辺に立ち、再び外の夜空を見上げた。星たちは、まるで彼女の新たな旅路を祝福するかのように輝き、冷たい夜風が彼女の頬を撫でた。その瞬間、彼女は確信した。これまでの痛みや悲しみ、そして偽りの愛に支配された過去は、今日をもって終わりを告げ、彼女自身が描く新たな物語が始まるのだと。心の中に眠っていた情熱は、今や完全に目覚め、未来への希望とともに彼女の歩みを後押ししていた。


こうして、リリー・カーヴァーは、自らの内面に潜む真実の愛と自由のために、これまでの鎖を断ち切り、新たな一歩を踏み出す準備を整えたのであった。過去の栄光も、偽りの愛情も、もはや彼女の足取りを止めるものではない。今、冷たい夜風の中で、彼女の瞳は未来への確かな光を捉えていた。そして、その光こそが、これから始まる新たな物語への希望そのものだった。



第1章-3 過去と未来の狭間で


リリー・カーヴァーは、自室の窓辺に立ち、夜空に瞬く星々を見上げながら、心の中で過去の重荷と未来への希望とを静かに天秤にかけていた。追放の宣告が広間で響いた瞬間から、彼女の内面には複雑な感情の渦が巻き起こっていた。王太子の冷酷な言葉は、かつて守るべきとされた運命や、偽りの愛情を全て一掃し、彼女に真実の自由を与える契機となったのだ。だが同時に、かつて培った信念や、家族・王宮での長い年月が、胸の奥深くでかすかに痛みを伴って蘇っていた。


室内に差し込む月明かりは、薄暗い部屋に柔らかい影を落とし、その静寂の中で、リリーはかつて自分が誰であったのかを思い返していた。幼い頃、王家の一員として育てられた彼女は、厳格な掟と重い伝統の中で、常に自分を抑え込むように強いられてきた。家族の期待、貴族としての義務、そして何よりも魔力の源として国を支える宿命――それらは、彼女にとって誇りであると同時に、常に心に影を落とす呪縛でもあった。だが、今日この瞬間、追放という形でその鎖が断たれたとき、リリーはある種の解放感とともに、苦い後悔と切なさをも感じていた。


「これまでの私が築いてきた全てが、今や儚く消え去るのか……」

(でも、これこそが真の自分への第一歩なのだ)


と、彼女は内心で静かに呟く。心の奥底で燻っていた孤独と、誰にも触れさせることのなかった本当の感情――そのすべてが今、再び呼び覚まされるかのような不思議な感覚に包まれていた。追放の瞬間、広間で流れた瞬間的な静寂と、歓声の合間に交じった嘲笑の音は、彼女にとって過去の枷であり、同時に新たな自分を見つけるための出発点であった。


部屋の中にある古い机の上には、幼少期から手に取ってきた日記が静かに置かれていた。何度も涙をこらえながら綴った言葉の数々は、今や彼女の真実の証として、未来へと続く道標となる。リリーはゆっくりと日記に手を伸ばし、ページをめくる。そこには、無邪気な夢や、誰にも言えなかった秘密、そして自分自身に対する小さな希望がぎっしりと記されていた。王宮という重圧に押しつぶされそうになりながらも、彼女はかすかな輝きを求めていた自分の姿が、今の心境と重なり合うように感じられた。


「私の中に、まだ燃えるものがある……」

(本当の愛情、本当の自由……それが私の求めるもの)


リリーはその瞬間、静かに目を閉じ、これから歩むべき道を自らの内面で確かめた。今後、王宮や王太子に裏切られた過去を完全に捨て去ることはできないかもしれない。しかし、彼女は新たな自分として生きる決意を固め、これまで押し殺してきた感情や夢を再び解放する覚悟を持った。自分自身のために、真実の愛に基づく生き方を選び、誰にも媚びることなく、ただ自分の信じる道を突き進む――それが、これからの彼女の使命であった。


窓の外では、風が木々の間をささやくように吹き抜け、遠くからは夜の森に響く虫の音がかすかに聞こえてきた。その一つ一つの音が、まるで新たな物語の始まりを告げるかのように、リリーの心に新鮮な鼓動を刻んでいた。彼女は、これまで感じたことのなかった期待感と、未知なる世界への好奇心に胸を膨らませ、ゆっくりと深い息を吸い込む。


「私がこれから歩む道は、どんな困難が待ち受けていようとも、必ず輝かしい未来へと続いている……」

(新たな自分のために、私はもう迷わない)


そう自らに言い聞かせるように、リリーは再び部屋の中央に立ち返り、静かに振り返った。そこには、これまでの自分が重ねた苦悩と悲哀、そして数々の試練が刻まれている。しかし、彼女の瞳には、もはや恐れや諦めといった影は見られず、未来への強い意志と、自由を求める情熱が燃えていた。


遠い記憶の中で、母親がかつて語った「真の美しさは、心の炎のようなもの」という言葉が、今一層鮮明に蘇る。たとえ周囲が冷たく、厳しい現実に満ちていようとも、内側に宿るその炎こそが、リリー自身を温め、導く光であると。彼女は、その光を頼りに、自分自身の生きる道を見失うことなく、しっかりと前を向いて歩んでいく決意を固めたのであった。


こうして、リリー・カーヴァーは、過去の栄光と苦悩を胸に秘めながらも、未来へと向かう新たな一歩を踏み出す。その足取りは、冷たく硬い王宮の石畳を離れ、今や自らが築く新たな世界への扉を静かに開いていくようであった。彼女の心に芽生えた小さな希望は、これからやがて大きな花を咲かせ、真実の愛と自由という名の未来を、確固たる輝きとともに迎えるに違いなかった。



第1章-4 新たな夜明けの誓い


リリー・カーヴァーは、自室の奥深い闇夜に、今宵の出来事がもたらした衝撃と未来への期待を胸に、静かなる決意を新たにしていた。追放という運命的な宣告により、彼女はこれまで抱えてきた宿命の重荷を背負う一方で、自由という未知なる光に導かれるかのような感覚に包まれていた。かつて王宮という煌びやかな檻の中で、義務と伝統に縛られて生きる日々を送っていた彼女にとって、この瞬間こそが、暗闇に閉ざされた夜明け前の静けさのように感じられた。


窓際に立つリリーは、外の世界に広がる闇夜と、無数の星々の輝きを見つめながら、これまで自分に課せられてきた「役割」という名の重圧が、今や少しずつ溶けていくのを実感していた。王太子の冷徹な言葉が、まるで氷の刃のように彼女の心に突き刺さったその瞬間、同時に心の奥底にあった長い間封じ込められた本当の自分の声が、かすかに、しかし確かに響き始めたのだ。


「私の未来は、私自身の手で切り拓くもの……」


そう自らに誓うかのように、リリーは静かに目を閉じ、過ぎ去りし日々と向き合った。幼き頃から、家族や王宮の掟によって決められた役割の中で、誰かの期待に応えるためだけに生きてきた自分。しかし、その裏側で感じていた孤独と、決して満たされることのなかった愛情への渇望は、いつしか自らを縛る鎖となっていた。王太子によって突き付けられた「冷たい女」というレッテルは、まさにその鎖を断ち切るための鋭い契機であった。リリーは、今までに蓄積された数々の苦悩や悲哀が、決して無駄ではなかったと確信し、むしろそれらが新たな自分を築くための礎となったことを感じ取っていた。


部屋の中に響く静寂は、外界の喧騒とは対照的に、彼女の内面の鼓動を一層際立たせた。机の上に広げられた古びた日記には、かつての涙と熱い情熱、そして誰にも言えなかった夢がぎっしりと刻まれていた。リリーは、その一つ一つの文字に触れながら、今後の自分の歩むべき道を見定めるための大切な指針と感じた。かつての自分は、王宮という厳格な世界の中で、ただ与えられた役割を淡々とこなすだけの日々に甘んじていた。しかし、今日という日は、すべての枷が断ち切られ、新たな希望の光が彼女の中に満ちあふれる瞬間であった。


「私がこれから歩む道は、ただ一つ。自分自身のために、真実の愛と自由を掴み取ること。」


リリーは、静かなる決意とともに、その声を心に刻んだ。王宮での華やかでありながらも冷徹な日々を振り返りながら、彼女は自分の中に秘められた魔力の真価に気づき始めていた。それは、単なる呪縛としての力ではなく、真実の愛を育むための温かな光であり、未来を切り拓くための希望そのものであった。王太子や偽りの栄光に依存していた過去は、今や重荷となり、未来への一歩を踏み出すための糧にすぎなかった。


部屋の隅にあった大きな鏡の前に立ったリリーは、自分自身を見つめ直す。鏡の中に映るのは、これまでの苦しみと共に培った強さ、そして何よりも今、自由を謳歌しようとする新たな輝きであった。かすかに揺れるろうそくの灯りが、その表情に優雅な影を落とし、まるで新たな旅立ちを祝福するかのように部屋全体を包み込んでいた。彼女は深く息を吸い込み、これから始まる新たな物語の幕開けに向けて、確固たる意志を胸に抱いた。


「これまでの痛みや裏切りは、決して私を弱くはしなかった。むしろ、私を強く、そして何よりも真実の自分へと導いてくれたのだ。」


リリーは、そう心の中で呟きながら、そっと鏡に映る自分に微笑みを返した。その微笑みは、かつて王宮で強制された冷たさとは明らかに異なり、今や自身の内面から湧き上がる温かな情熱と希望そのものだった。追放の瞬間、誰もがその美しい瞳に凍りついた恐怖や悲しみを見いだすだろう。しかし、彼女にはもう、その涙を流す理由はなかった。




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