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第10話 屋上の戦い

「マフター、ほとになにかいまひたか外に何かいましたか?」


 アドメスが缶詰を開けて、サバの味噌煮を食べている。

 何がどうしてそうなった? 


「アドメス……なんで食ってんだ、それ?」


「あ、えーとですね。人間のエネルギー補給を体験するのも経験だと思いまして」


 確かアドメスには模擬消化器官というのがあって、体内で一時的に貯蔵・処理する機能が備わっていたか。だからといって、サバの味噌煮かよ。


「その心意気は素晴らしいが、あとで口をゆすいでおけよ。ところで銀箱を出してくれ。ワイバーンを仕留めてくる」


「ワイバーンですか。なんか懐かしいですね。ほら、私ワイバーンにくわえられて、放り投げられたじゃないですか。あれは怖かったなぁ」


 異世界ではそんなことがあったか。

 というより、そんなことが多すぎて思い出せない。


「では出しますね。――アトラクト」


 アドメスが唱えると、銀のアタッシュケースが出現。

 その中に手を突っ込み、俺はUziウージーサブマシンガン――愛称マークをつかみ取る。


 レベルはまだ1。

 マガジン一本でBB弾は36発装弾可能。

 36発といっても、フルオートで使えば約2.4~3秒でなくなる。

 消費は早いが、ダメージはほぼゼロ。

 戦いの最中にレベルが上がることを考慮しても1000発、いや1500発ほどは必要だろう。


 BB弾とガスを満タンにしたマガジンを5本。

 プラスBBローダーとBB弾ボトル、500グラムのガス缶と携帯式ガスボトルも持っていく必要がある。

 荷物が多いが、仕方がない。


 マークの代わりにH&CP30Lウィックを銀のアタッシュケースの中に仕舞う。

 RANBO-06 FEランボーはもちろん、携帯だ。

 こいつは俺の真の相棒であり、今後も手放すことはない。


「行ってくる」


「はい、行ってらっしゃい。私はここに隠れていますね」


 漂うサバ臭。

 口、くっさ!



 ◇



 俺は店内から階段を上り、屋上を目指す。

 扉には鍵がかかっていたが、ここでも異世界仕様の蹴りが役に立った。

 壊れた扉を押しのけ、屋上へ。


 けっこうな音を発したはずだが、ワイバーンはそこにいた。

 まだこちらには気づいていないようだ。


 ん? あれは……。

 そういうことか。


 なぜワイバーンがスーパーの屋上にいるのか疑問だったが、謎が氷解した。

 ワイバーンはここに巣を作っていたのだ。


 巣の中には、生まれて間もないワイバーンの子供が三体。

 一瞬、ワイバーン狩りを躊躇する俺。

 だが、ワイバーンの子供が食べているのがであることを知り、その気持ちは瞬く間に霧散した。


 それはダメだろ。


 俺は改めて、ワイバーンを経験値へ変換することを決意する。


 Uziサブマシンガンはコンパクトで取り回しがいいが、しっかり狙うなら銃床ストックを肩に当てて構えたほうがいい。


 たかがBB弾。されどBB弾。

 どうせだったら、正確なコントロールができたほうがいいに決まってる。

 俺は頬をストックに固定し、引き金を引く。


 ズバババババッと短いバースト射撃。


「あれ?」


 当たらない。

 全てのBB弾が、上方向へといってしまった。


 ホップが強くなりすぎているようだ。

 ホップアップ調整をしなければ――


「ギャアアアアアアアアッ!」


 誰だ!? とばかりに俺に対して叫ぶワイバーン。

 さすがに気づかれたようだ。


 両脚で歩いて近づてくるワイバーン。

 俺はその場で素早くホップアップ調整。からの全弾発射。

 完璧な反動リコイルコントロールで、全てのBB弾がワイバーンの顔に当たる。


 ??


 頭上にクエスチョンマークを浮かべるような、ワイバーン。

 痛くもかゆくもないのだろう。

 そんなことは分かっているので、気にせずマガジンを交換。

 お手本になるような射撃体勢で、今度は全弾撃ち尽くす。

 また顔に当ててやった。


「ギィィィィッ」


 首を振り、さすがにいらっとしたようなワイバーン。

 俺は意に介さず、マガジン交換。即座に射撃。

 三度、全弾が顔に当たった瞬間――


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 堪忍袋の緒が切れたように、殺意の咆哮を上げるワイバーン。

 巨大な翼のはばたきが、俺の体勢を崩す。

 ワイバーンが口を開くのが見えた。


 やべ。


 俺はたたらを踏みそうになりながらも、なんとか横っ飛び。

 先まで俺がいた場所を見ると、コンクリートが抉れていた。


 ソニックトルネイド。

 口から鋭利な烈風を吐くワイバーンの技である。


 今の俺なら余裕と高を括っていたが、例え異世界仕様の肉体でもこれを食らったら無傷ではいられない。

 ランボーのレベルがもっと上がっていれば、防げるスキルを取得できていたが、ないものはしょうがない。


 幸い身体能力は非常に高く、反射神経も研ぎ澄まされているので、避ければいいだろう。


 なんてことを考えながら、4本目のマガジンを装着。

 ワイバーンの後ろに走り込むと、背中に向けて掃射。

 何発か外れたが、気にしない。


 俺は巣のある方へ走ると、その巣の後ろへ退避。


 どうだ。これでソニックトルネイドは使えまい。

 子供を盾にするとは我ながら、卑劣な男である。


 俺はマガジンを5本目に交換。

 巣の影から覗き、ワイバーンの動向を確認。


 いない。

 どこへ行った?


「ギャアアアアアアアアアアッ!!」


 頭上から響く雄たけび。

 急降下してくるワイバーンの前脚が、俺を捕獲せしめんと襲いかかる。

 だが――、


 それは悪手だな。


 俺は回避しながら、ランボーでワイバーンの右脚を斬り飛ばした。

 不時着した飛行機のように、激突した屋上を滑っていくワイバーン。

 その無様な後ろ姿に、マークで連射。全弾ヒット。

 ワイバーンはそのまま地面へと落下した。


 ワイバーンの、俺へのヘイトが一時的に途切れた感覚。

 確かな予感を覚えたその時、マークが光った。

 レベルアップの時間だ。



Uziサブマシンガンマークのレベルが1→14に上がりました】

【殺傷力  12→ 212】rankD up!

【親和性   0→ 78】rankE up!

 ■材質/弾丸バレット

 BB弾プラスチック→BB弾スチール

 ■スキル

  バレット増加+5 nuw!



 いい感じに上昇したな。

 倒してはいないが、マガジン5本分のBB弾の8割ほど当てたからだろう。

 おそらくギリギリだろうが、プラスチックからスチールへのグレードアップは嬉しい。


 こんな感じで、マークをウィックと同等レベルまで上げておくか。

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