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ダンジョン飯屋、配信はじめました
ダンジョン飯屋、配信はじめました
雨宮徹
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月21日
公開日
1万字
完結済
202X年。日本の各地にダンジョンが出現した。 冒険者は、宝物を求めてダンジョンの最奥を目指す。 そんな中、腕のいい職人がダンジョン内に食堂を開く。 売れ行きが良くないため、宣伝を兼ねて配信を始めたところ、意外な展開に……。

飯テロ配信、はじめます

「くそ、客来ないぞ!」


 俺は、ダンジョンの一層目で嘆いていた。そもそも、ダンジョンの中で飯屋を開いたのが間違いだったのか?


「お父さん、いくら冒険者がいるからって、食堂に寄るとは限らないでしょ」


 娘の茜からチクリと一言。


 俺は、ダンジョンの中で飯屋を経営している。日本各地に出現したダンジョンの最奥には、宝が眠っていると噂されている。ならば、需要があるはずと店を構えたわけだが。残念ながら、赤字を垂れ流し続けている。


「これ、地上に戻った方がいいのかなぁ」


「当たり前でしょ! まったく、天国のお母さんも呆れているに違いないわ……」


 そうは言っても、ダンジョン内に店を出すにあたって、色々な手続きをした。撤退するにしても、また面倒な書類と睨めっこだ。それは避けたい。


「うちの店、なんで客が来ないのか、不思議なんだが」


「そりゃ、冒険者もまだ少ないからね。ねえ、お父さん。提案なんだけど」


 茜が、まかないを食べながら片手を挙げる。


「おい、行儀悪いぞ。で、提案って?」


「配信」


「はあ?」


「うちの宣伝のために配信サイトを使うの。広告でもいいけど、それだとアピールできる数に限りがある。配信サービスを使えば、日本中にうちの名前が広がるってこと」


「なるほど……」


 理にかなっている。問題は、どうすればウケるかだ。単なる配信じゃ、宣伝にならない。


「よし、今夜考えてみるよ。茜は、ゆっくり休めよ」


「はーい。って、周りが暗いから、本当に夜なのか疑わしいけどね」


 それだけ言うと、店の隣にある家に向かって行った。


 バズるにはどうすればいいか。最近、食堂巡りのドラマやアニメがウケていると聞いたことがある。その路線はどうだ? いや、そもそも、うちにくる冒険者がいない。はい、没。


 あの類は、おいしそうな料理屋を巡って、飯テロするのも一つの面白さで……。


「待てよ、うちも飯テロ配信すればいいんだ!」


 時計を見ると、夜の十時。多くの人が、夜食を食べたくなる時間だ。今だ。今しかない。


 自前のスマホに配信アプリをダウンロード。使い方は、よく分からん。配信名は……「ダンジョン食堂の飯テロ配信」とでもしとくか。


「よし、あとは料理を作り始めればOKだな」




「ん? なんだ、この配信」

「ダンジョン食堂ってなんだよ」

「ってか、野郎の顔がデカデカと映ってるだけなんだが……」




 うわ、視聴者来たけど、コメントは好意的とは言えないな。って、しまった。スタートボタン押して満足してたわ。


 慌ててスマホを天井にセッティングすると、いつも通り料理に取りかかる。


「えー、みなさん。今から飯テロをします。今日の料理はこちら」


 手元にあるのは、鶏のささ身、きゅうり、そして青じそ。




「飯テロ配信なのに、貧弱すぎないかw」

「これ、和えて終わりじゃね?」

「あー、見る価値ないな」




 確かに、今から作るのは和え物だ。だが、使うのは酢ではない。


「まあ、落ち着けって。何で和えるかというと……これだ!」


 カウンターに瓶をドンと乗せる。


「こいつは、マンドラゴラから採った特殊エキスだ」




「は?」

「声聞くとヤバい奴のエキスとかワロタ」

「正気かよ」




「そういう反応が普通だわな。だが、これがうまいのよ、本当に」


 コメント欄を見ながら、手際よく仕上げていく。十分ちょっとで、鶏ときゅうりの和え物の出来上がり。ただし、味付けは特別だ。


「じゃ、まかないをいただきますか」


 「いただきます」と言うと、和え物に箸を伸ばす。


「お前ら、これうまいぞ。マンドラゴラのエキスによって、さっぱり感の中に少しの甘みが出ている。これを食えないとか、残念だなぁ」




「和え物で甘み?」

「少し気になるのが悔しい」

「っていうか、どうやって採取したんだ」




「ダンジョンで暮らしてるとな、モンスターの習性がよく分かるんだよ。マンドラゴラは、声さえ聞かなければいいんだ。引き抜かなきゃ問題ない」




「モンスターに詳しいなら冒険者になれ」

「え、殺さないのか?」

「まあ、確かにそうだな」




「おいおい、俺はモンスターを殺す気はないぞ。そんなことしたら、恨みを買って襲われるからな」


 そんなふうにコメントに反応している時だった。


 ガラッと音を立てて、引き戸が開く。


「お、客が来たぞ。いらっしゃい!」


 声をかけたものの、客の姿が見えない。


 少しして見えてきたのは、緑色の体。手には棍棒。


 最初の客はゴブリンか。


「って、ゴブリン!?」




「ゴブリン来店w」

「まさかの展開」

「これ、店主死ぬんじゃね?」




 今まで、モンスターと接触しないように行動してきた。だから、ゴブリンなんて初めて見た。


「オイ、飯ヨコセ」


 ゴブリンは、カタコトの日本語で要求してくる。が、ゴブリンが何を食べるか分からない。


「少々お待ちを」


 やべぇ、何食わせればいいんだ。今作れるのは……カレーくらいか。でも、こいつは刺激物だ。もし、口に合わなければ、間違いなく殴り殺される。カレーのルーと睨めっこする。




「おい、カレーだすのか?」

「ガンバ」

「腕の見せ所だな」




 くそ、コメント欄は俺が飯食ってた時より盛り上がってやがる。こうなれば、一か八か、カレーで勝負!





 数十分後。カレーが出来上がった。作ってる間、殺されなかったのは奇跡だな、マジで。


「お、お、お客さん、お待たせしました」


 ゴブリンは、カレーを一瞥すると一気にかき込む。食べるのにかかった時間、わずか十秒。


「アマくてうまい」


 は? 甘い? 人間とは味覚が違うのか?


「またクル」


 ゴブリンは、一銭も払わず店を後にする。


「……まあ、殺されなかっただけましか」




「いやー、おもろかったわ」

「無銭飲食とか草」

「代わりに払ってやるわ」




 チャリーン、という音と共に投げ銭が来る。投げ銭は止まらない。




「じゃ、明日もモンスターの相手よろ」

「これで、宣伝にはなったな」

「冒険者と時間分けて営業すれば?」




 最後のコメントを見て決めた。冒険者はまだ少ない。ならば、モンスター相手にも商売してやるよ。代わりに投げ銭で稼ぐからな!

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