青白く、月から届く光が、人間のものとは思えない白い肌に落ちる。
冷たくて、清らかで、繊細な月光。
見上げた私の蒼い瞳に月が重なる。月と同化した私の瞳は、そこに無い景色を見せてくれる。
目の前に広がるのは、暖色の光に照らされるホール。そこでは人々が談笑し、美味しい食べ物に舌鼓を打つ。私が昔、憧れた光景。そして今はもう、無くなってしまった光景。
瞬きをすると、塗り替えられていた世界が元に戻る。
あるのは血の臭いが鼻を衝く、どこもかしこも血が飛び散り、生温い空気が漂うホールだ。
視線を下げると、首元を噛み千切られた女と目が合った。
恐れと絶望の目。見ているだけでも身体の内から高揚してしまう。
ふと血の味がして、それが無意識のうちに舌なめずりしたのだと気づく。
口元に触れると、硬い物に指が当たる。滑らかで、先になるほど細い。
指を見ると血がついていた。
血のついた指を月にかざす。
……綺麗。
ガタリと音が聞えた。
誰だろう。まだ、誰かいたの?
このホールの出入り口の大きな扉の前、瓦礫に引っかかって音を立ててしまったのだと、一目見て解った。
小さな女の子、怯えた目で、身体を震えさせて私を見ているその子。
……美味しそう。
舌に血の味を乗せて、落ち着いて、近づく。
秒針を刻むように足音を立て、恐怖を植えつける。
逃げられる心配はない。もうこの子は、自分が逃げられないことを解っているはずだから。