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第11話 力ではなく話し合い

 もうすぐコンビニという所で、様子がおかしいことに気が付いた。誰かがいるようなんだよね。


「人の気配がしますね」


 FPSゲーマーの彼氏が声を上げる。気配とかゲームでもわかったら凄いんじゃない? もしかして、この人凄い人なのかもとか思ってしまった。


 ショウくんが先頭きってコンビニへと顔を出す。すると、オレンジ色の髪の青年と取り巻きがコンビニを占拠していた。


「あんたらも、食料を取りに来たのか? ここは俺らの縄張りだ。対価を払え」


 随分理不尽な要求だねぇ。こんな混乱に陥っているご時世に自分だけ甘い蜜を吸おうなんて随分と傲慢だなぁ。自分たちが強いと、そう思っているからするんだろうけど。


「あぁぁ? ふざけてんのかゴラァ?」


 ショウくんが凄んで制圧しようとすると、取り巻き達が寄ってきてショウくんを囲んでいる。この子達も生き残る為にこんなことをしているんだろうからねぇ。


「やんのか? あぁん?」


 ショウくんよりは若そうだけど、力に自信があるんだろう。睨みつけたまま引こうとしない。


「おいおい。若造が図に乗ってんじゃねぇぞ? このご時世、殺しちまっても誰もわかんねぇぞ? やっちまうぞゴラァ!」


「はいはい。そこまで。君たちも生きるのに必死なんだよね?」


 間に入って仲を取り持つ。こんな時に喧嘩してばかりだとダメだ。人間同士が協力しないと、この状況には勝つことはできないよ。


「なんだ⁉ おっさん! 黙って引っ込んでろ! コイツとやりあうからよぉ!」


「やめた方がいいよ。僕たちに協力した方がいい」


「ふんっ! 協力なんてするかよ! 女がいるじゃねぇか! 可愛がってやるから置いてけ! そしたら、好きなの持ってっていいぜ?」


 ショウくんが青筋を浮かべて震えている。このままだとダメだ。本当にこの青年を殺してしまいかねない。それだけは避けなければ。


「君は、この世界で生き残りたくないの?」


「ふんっ! ここを陣取ってれば生きていける!」


「やがて食料が尽きるだろう。そして、どこか別の場所に食料を求めて彷徨う。そうなったときに、君達だけでモンスターを倒せるかい?」


 僕が捲し立てるようにそう矢次早に聞いてみるが、青年たちは鼻で笑って「倒せるに決まってる」という。何を根拠にそういうのだろうか。


「君達、スキルってわかる?」


「あぁ? おっさん、中二病か?」


「そんなこともわからないでここにいるのかい? それは危険だよ。すぐに移動した方がいい」


 目を見開いて意味が分からないといった風に歯を食いしばり、目を吊り上げた。


「ここはゲームじゃねぇんだぞ? 現実だ! 頭狂ったのか⁉」


「スキルに目覚めていないようじゃあ、現状の東京では生きていけないよ?」


「うるせぇな! そんなのなくても俺たちは強いんだよ!」


 話しても分からないらしい。どうしたものか。


「ガイさん。もういいですよ。スキルもわからないゴロツキなんて相手になんないっすよ」


「ショウくん。待って。君達、自分のことを知りたいと念じるんだ。そうすればステータスが表示される。そこにスキルが乗っている人はいないかな?」


 青年たちは素直に言う通りにしている。時折、「うおっ!」と聞こえるところを見るとステータスを見ることができているみたいだね。


 そうなってくると、スキル持ちが一人でもいれば話が早いんだけど。


「俺は、拳闘士ってなってんぜ?」


「そう。それは恐らく汎用スキルだね」


「あぁ? 俺のスキルがショボいってかぁ⁉」


 金髪の青年は凄んでくるけど、僕は動じなかった。だって、モンスターに比べれば人間なんて取るに足らないと思ってしまったから。


「僕達は、三人のユニークスキルを有している」


「ユ、ユニークスキルだと……稀少性の高いスキルってことか?」


「そう。このショウくんと、僕。後は、別の場所に待機してる。勝てると思う?」


 ちょっと嘘ついてみたけど、ショウくんは満更でもない様子で、腕を組んで青年の出方を見ているようだ。何かあったら殴り飛ばす気だろう。


 本当のことと嘘を混ぜると本当っぽく聞こえて、効果的だとなんかのテレビ番組で放送しているのを見たことがある。


「くっ。くっそぉ! なんでおれのスキルはショボいんだよぉ!」


「別にショボくないよ。努力すればきっと強くなれる。ただ、僕とショウくんは次元が違うんだよ」


 わざと大げさに言って降参させる。


「わぁったよ! 好きに持って行けよ! やめだやめだ!」


「ありがとう。助かるよ。ちなみに、日々ちょっとずつ貰っていくからね」


「無くなったら場所を移すから別にいいし!」


 そう簡単にはいかないと思うけどね。他のところは別の人が占拠しているだろうから。こういうときに交渉するカードは多い方がいい。


 でも、ユニークスキルについて何かを聞かれたりはしていないし、どんなスキルなのか、本当にユニークスキルなのかということは確認されていない。


 この子達、そういう細かいところには気が付かないのかもしれない。僕たちだったからよかったものを。悪党に出会っていたら大変だっただろうに。


「協力しよう。ここから数十分歩いたところに小学校があって、そこから補給しに来たいんだ。何日かに分けて取りに来るから取らせてもらうよ? 後は、寝場所を提供しようか? 空いている教室があるよ?」


「安全なのか?」


「うん。ここよりはいいんじゃない? 寝られないでしょ。ここ」


 図星のようで取り巻きが暗い顔をしている。もしかして、下を向いている子が犠牲になって店番でもしていたのかな? それは、まずいんじゃないかなぁ。もたないよ。


「寝られなくても、順番で見張りをしてるから大丈夫だ!」


「それは、今の話でしょ? これからずっと交代で見張りするの? 疲労で倒れるんじゃない?」


 実際、寝ていないと思われる子は眠そうにしている。それを複数人でやるにしても、いつまで持つかわからないだろう。


「俺達は、大丈夫だ!」


 随分頑固だなぁ。じゃあ、契約としようか。


「それならいいよ。そのまま見張ってれば? 勝手に好きなの取って行くから。それと、補給には複数人で来るから辛くなったら言ってね?」


「な──」


 言葉を詰まらせた。見捨てられたと思っただろうか。見張りも、僕達と一緒に来ないならどうなってもしらないよという意味を込めて聞いていたのに。


 戸惑いを見せた青年は諦めたように顔を俯かせて壁へ寄りかかった。良い話だと思ったんだけどなぁ。まぁ、そううまくはいかないか。この青年なりに何かを考えているのかもね。


 人数分の食材と飲み物を袋へと入れていく。


 途中で一緒になった男性も一緒に食料を貰っていく。男性は嬉しそうに物色して、ほしい物を袋へと入れると、お礼を言って去って行った。


 あの人も無事に生きていけるといいなぁ。こうしてあまり争うことなく食料をゲットできたのであった。


 帰りの道中、ショウくんが聞いてきた。


「なんで、ユニークスキルを俺が所持してるって嘘ついたんですか?」


「んー? なんかその方が、話が丸く収まると思ったから。昔ね、先輩に言われたことがあるの。仕事を円滑に進める為に、ついていい嘘もあるんだよってね」


「深いっすね……」


 空を見て何かを考えているようにショウくんはボソリと言った。


「でしょ? それ以来、必要な時は嘘をつくようにしてるんだぁ」


「勉強になります! さすが、ガイさんっす!」


 順調に小学校へ帰ってきた。ここまでの道のりだったら、そう遠くない。あの青年たちと協力すれば、定期的に食料が手に入るね。


 どうやってここにいる人たちが生活するか、考えようか。

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