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第10話 HRTの実力

 部隊を編成して残る班と、食料調達の班へと別れた。HRTは男性が8人、女性が2人だ。ショウくんが分けた編成は男性4人、女性1人ずつ。食料調達の危険な方にも女性を入れていることに僕は驚いた。


「この編成でいいの?」


「いいんすよ。女性が一人いるのは心配っすか?」


 一人の女性を指しながらそう聞いてくる。ショウくんのことは信用してるからこれで問題ないと思う。でも、危険なところに連れて行くのはちょっと抵抗がある。


「アイは、戦闘はあまり得意じゃないんで残ってもらうんっすけど、ヤエは戦いが得意なんで。スキルナシならガイさんよりは強いと思うっすよ?」


 そりゃそうでしょうよ。僕、全然戦えないもの。


「僕、弱いからねぇ」


 頬が引きつっているのがわかる。変な顔してるんだろうなぁ。


「戦いはお任せください!」


 直立に立ち、敬礼するヤエさん。切れ長の目に筋の通った鼻、柔らかそうな張りのある唇。スラリとした体型はどこに戦う力があるのだろうと思ってしまうほど華奢だ。


「あっ、有難う御座います。別に、僕は女性だから連れて行くのに反対とかではないですから、ただ心配してしまっただけで……」


「心配ご無用ですっ!」


「そうみたいですねぇ。頼りにしてます」


「有難きお言葉っ!」


 なんか、僕が上官になったような気分になるなぁ。他の食料調達班はガッシリとした人が二人と細マッチョとガリガリの人がいる。ガリガリの人は本当に余分な物がないって感じ。後は、FPSゲーマーの彼氏。


 僕が視線を巡らせて班の人を確認していると、直立に立ってピシッとしている。そんなに畏まらなくてもいいんだけどねぇ。


 ガリガリの人だけはダラーンとして締まりのない立ち方をしている。別に僕は大丈夫だけど、他の人たちからなんだか睨まれている。大丈夫かなぁと思って様子を窺っているとガタイのいいスキンヘッドの人が口を開いた。


「カズト、ちゃんと立って挨拶しろ!」


「はぁ。なんで? 別に俺っち元自衛官じゃないしぃ。っていうかさぁ、みんなも元でしょ? そういうのいつまでやってんの?」


 カズトと呼ばれているガリガリの男性は、口角を上げて挑発的な笑みを浮かべる。スキンヘッドの男性は歯を食いしばって耐えているように見受けられた。


「なぁにぃぃぃぃ?」


「ダン。いいから。カズトもあんまり挑発すんなよ。元自衛官ってのはなかなかこういうのが抜けないもんなんだ。そんじゃ、行きますか」


 ショウくんが二人を宥めて小学校の入り口のバリケードを乗り越えて外へと歩を進める。それに僕達も続いていく。気を使ってくれているダンさんと、ヤエさんの手を借りながらなんとかバリケードを乗り越えた。


 身体能力は上がっているはずなんだけど、元々運動が得意じゃないのはどうにもならないらしい。


 ちなみにゲーマーの彼氏は軽々とバリケードを乗り越えていった。ただのゲーマーではないみたいだね。運動もできるってなると凄いなぁ。


「周りの確認を怠るなよ!」


「「「おすっ!」」」


 ショウくんの指示が飛び、陣形を組みながら歩を進めて行く。慎重に、曲がり角や路地のあるところはモンスターがいないかの確認しながらの進行だ。


 たしか、今歩いている通りから大きい通りにぶつかったところの角にコンビニがあったはずだ。今は丁度夜が明けたところで朝日が差し込んでいる。


 モンスターが朝日に弱いとかならいいんだけどなぁ。


「自分ら以外の足音が複数近づいてきます!」


 ゲーマー彼氏が声を上げた。僕も耳を澄ましてみるけど、わからない。何かの音がする気はするけど、それが足音なのか風の音なのか。


「周りを警戒!」


 ガリガリのカズトさんは脇から取り出した包丁を抜き放った。家庭科室から包丁を調達してきたみたいだ。スキルがナイフ使いなんだろう。


 他の人は拳を構えている。僕は構えても何もできないけど、スキルを発動できるようにみんなを視野に入れて見ておかないと。


 ゲーマー彼氏は目を瞑って耳に両手を添えて音を聞くことに集中している。


「二時の方向から一、二、三人!」


 人数まで把握できることに驚いてしまった。そんなことまでわかるもの?


「んっ? 追われてるのか? ……来ます!」


 眼鏡をかけた同い年くらいの男性が走っているのが見えた。こちらに向かっている。後ろからは、バットとナイフを持っているゴブリンが二体。


「ガイさんは温存! 俺らで行くぞ!」


「「「おすっ!」」」


 僕は、いつでも助けに入れるように注視する。


 ショウくんが先に眼鏡男性とすれ違う。「そのまま走れ!」と男性へと指示を出す。僕は手を上げてこちらにくるように誘導する。


 近くにいてくれれば助けることができるから。


 ショウくんはバットのゴブリンに殴りかかる。その次に躍り出たのは、カズトさんだった。ナイフを持っているゴブリンの懐に入り込むと一瞬で首を掻っ切った。


 後れを取ったと思われたショウくんだったけど、次の瞬間には顔面が陥没するくらいのパンチでゴブリンを沈めていた。


「大丈夫ですか?」


「あっ、有難う御座います! 助かった。食料を探しに外へ出たら変なのに襲われてしまって……」


 僕たちが通ったところにいたなんてラッキーだったね。


「僕達もコンビニへ行くところなんですよ。一緒に行きますか?」


「はい! お願いします!」


 そんな会話を聞いていたショウくんは何も言わずに笑顔だったけど、カズトさんはそうではなかったみたいで。


「えぇぇ? 守る人が増えるとやりにくいんだけど……」


「僕の独断で決めてすみません。コンビニまで一緒に連れて行きたいんです」


 カズトさんの目は、明らかに面倒臭そうな重たい目をしていた。僕への信頼と言うのもあまりないからだろう。不満気だった。


「連れて行きましょう。カズト、別に守りながらも戦えるだろ?」


「はいはい。やりますよ」


 ため息を付きながらも了承してくれたカズトさん。面倒だとはいいながらも了承してくれるところを見るといい人なんだろうね。


 ショウくんを慕っているんだもん。悪い人なはずがないもんね。こちらを睨んできたから笑顔で頭を下げた。すると、罰の悪そうに視線を外して前を見て歩き出した。


「ガイさんが守ってよねぇ」


「はいっ!」


 カズトさんが言うことはもっともだ。僕が守ればいいだけの話。守りは任せてほしい。生きて帰れるようにしっかりと見ているから。


 ショウくんが頭を下げて来るが、別に気にしてない。もう少しでコンビニだ。そこまで慎重に進もう。

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