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第13話 嫌な感じの人

 小学校を出た後、所々破損の見られる街並みを西へ陣形を組んで歩を進める。


 周りを見て慎重に。ゴブリンなんかにやられていては、先が思いやられるからね。問題なく倒せるようにしないとダメだ。


 その為には、僕も戦い方を学ぶ必要があると思う。だから、ショウくんに教わろうというわけ。刃物の使い方はカズトさんがいいかなぁと思うけど、教えてくれるかなぁ。


 スーパーなどには人が多少屯しているけど、もう皆が持って行ったあとのようで。「飲み物がないよ」「ご飯もない!」と口々に聞こえてくる。


 そんな状態で今後大丈夫なんだろうか。国は何をしているんだろう? こんなに混乱している状態で自衛隊も何も派遣していないのだろうか。


 崩壊している街を瓦礫に気を付けながら歩を進めて行く。駅の裏通りに出ると少し北上する。おっきい通りを歩こうと思ったけど、目立つからやめた。


 この状況で目立つのは良くないとショウくんから助言を受けたからだった。敵に攻撃を受ける可能性が高くなるとのこと。


 なんだか人が群がっている所がある。


「あれは……」


「区役所っすねぇ」


 僕の言葉を引き継いでショウくんが正解を口にした。近づいていくと人のいる理由が分かった。


「食べ物がないんだよ! どうにかしてくれ!」

「国は何をやっているんだ!」

「住むところがなくなったのよ! 泊めさせて!」


 苦情を言いながら職員へと詰め寄っている人達。こんなに騒いでいたらモンスターに襲われるんじゃないかな?


 そんな心配をしながら歩いていると案の定。ゴブリン三体が区役所の北側から来ているのが見えた。


 それをみて悲鳴を上げる人々。区役所の人はどうするのかなぁと思ってみていたら、数人が建物の中から出てきて人々を守るように盾になる位置へついた。


「ファイヤーボール!」

「ウインドカッター!」

「アースニードル!」


 火の玉が、風の刃が、土の針がゴブリンを戦闘不能にした。遠距離のスキルなんて初めて見たなぁと感心していると急にこちらへ視線を巡らせた。


「君たちはスキルホルダーかな?」


「スキルホルダー……って?」


 僕は聞いたことのない単語に思わず聞き返してしまった。


「スキルを保有している人のことだよ。落ち着いて見ていたということは、あれと戦えるのかと思ってね」


「えっと……そうですねぇ。戦えます」


「ウチの職員でレアスキルに覚醒した人がいてね。魔法系のスキルを分け与えてもらえるんだよ。覚醒してない人にはできるんだけど、どうかな?」


 魔法のスキルは確かに魅力的だ。でも、分け与えてもらえるというのが胡散臭い。本当にそんな便利なスキルがあるんだろうか?


「実は覚醒している人にもできますよ? ……おぉ。これは素晴らしいスキルホルダーの予感がしますね」


 区役所から出てきたのは眼鏡をかけてオールバックのまた胡散臭そうな男。いつからしているのかわからないけど、ネックレスとゴツイ指輪をしている。


 こんな人、区役所にいて大丈夫なんだろうか?

 しかもこっちのスキルが見えている?

 油断できないな。


「僕達は自分のスキルがあるので、遠慮しておきます」


「おっと……ここを手伝ってもらえませんか? 見ての通り、人手が足りていませんでねぇ。使えない上司と同僚ばっかりなもので……」


 その胡散臭い男は、僕たちの歩く先に立ちはだかった。


 自分の仲間のことを悪く言うようでは信用できないな。いままでも一緒に仕事をしてきた人達だろう。使えないとはひどい言い草だ。


「遠慮します。同じ仲間を悪く言う人のお手伝いはできません」


「……はぁ。そうですか。あなたもそっちの部類の人間ですか。残念です」


「では、失礼します。行こうか」


 僕が先頭を切って街を歩く。後ろからついてくるHRTの皆。他の皆も睨みつけながら通り過ぎる。ボクと同じようにいい感じがしなかったのかもしれない。カズトさんなんか顔を近づけて睨みつけている。


「あの……こんな世界になって、一体どこへ行くんですか?」


 その男は笑顔ではあるけど、引きつっていて。僕たちの背中にはすごく視線を感じていた。


「僕達は、この世界を救うために国会議事堂を拠点とするために行きます」


「……そうですか」


 人を助けたい気持ちはある。あるんだけど、この人の元ではごめんだ。たぶん、何か良く無いスキルを持っているような気がする。


 しばらく歩いてから、後ろを歩いていたヤエさんが声を掛けてきた。


「さっきの人、なんか嫌な感じでしたね?」


 その問いに頷き、やっぱりそう思っていたんだなぁと少し安心する。自分だけじゃなかったのだと。


「やっぱりそうだよね。あれさ、なんかスキルを悪いことに使おうとしていると思うんだよね」


「おそらく、姑息なことにつかっているのでしょう。でなければ、スキルを与えるなどできるわけがない!」


 それは、僕も同意見だ。あの人は、詐欺師の様な物だろう。誤魔化すのがうまいと思う。大方、スキルを付与して数日したら使えなくなるとかだろう。


 僕の場合は、このスキルで世界を救えと言われている気がする。


『情けは人の為ならず』


 このことわざがスキルになっているということは、俺にしかできない何かがあるということだ。この先、なにかあっても守ってみせる。

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