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夢盛りハンバーグは、罪の味

ザンゲ室ふたたび

 おはようございます。シスター・クリスです。


 朝食の時間が、やってきました。朝はなるべくしっかり摂りましょう。「朝は食べなくてOK」という説もあるそうですが、わたしは食べないと死ぬので。精神的に。


 後輩のシスターが、配膳してくれました。

 パンとミルクとフルーツの他に、メインディッシュが並びます。

 今日は、ハムエッグですか。やたらハムが薄い気がしますが、まあいいでしょう。何も出ないところより、マシですからね。


「神の恵みに感謝いたします。いただきます」


 なるべくお腹が膨れるように、ゆっくりと咀嚼します。

 それでも、付け焼き刃ですね。より、ぜいたくの渇望が芽生えてきました。


 味付けが塩だけなのがいけないんです。「育ち盛りなんですから、もっとなんかあるでしょ」と訴えかけたくなりました。


 ガッツリ、お肉が食べたいですね。


 そう思いながら、わたしはデザートのカットオレンジを噛み締めました。


「シスター、食欲旺盛ですね」

「ん? そう見えますか?」

「はい。シスターからは、活力が垣間見えます。粗食を体現してらしてエライわ」


 他のシスターからも、称賛を受けました。


「わたしは、そんな褒められるほどの貞淑な女ではありません」



 さっきまで、肉のことばかり考えていたのですから。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「私は、またダイエットに失敗しました」


 またしても、ザンゲ室にお客様が来ました。例のジョギング女性です。


「前回のジョギングコースは誘惑が多いと思って、別のルートを探したんです。けど、そこに洋食屋がオープンしまして」

「ふむふむ、その情報くわしく」


 そのお店は最近できたばかりだそうです。街中の食堂というより、デートコースのカフェとして繁盛しているとか。


 最初入りづらかったという女性も、ランチの匂いにつられて入ってしまったそうです。ダイエットはどうなったのでしょう?


「中でも、モンスターの肉を使用した特性ハンバーグが絶品だと。デミグラスソースとお肉の絡み具合が最高でして。しかも、ライス食べ放題!」


 思わずノドが鳴ります。


「なるほど。わかります」



「ですよね? 酒に合うんですよ!」


 な、なるほど……。



「さぞおいしいのでしょうね?」

「ええ。ワインをボトルキープしました」



 この人は食事より、お酒を控えられたほうがいいかも知れませんね。


「いえいえ。ダイエットしないとですね。わたしは、やせることができるのでしょうか?」


 無理でしょう。彼女は、煩悩の塊ですからね。


 かくいう私も、辛抱たまりませんよ。


「わかりました。道を浄化しておくので、詳細な地図を」

「こちらです」


 私は紙片をザンゲ室から受け取って、いざ出陣です。



 今日も、労働者風で決めてみま……待ってください。


「モンスターを食べる、と言っていましたね?」


 もしかすると、普通に食べられるかも?



 思い至ったわたしは、冒険者の服に着替えました。


 冒険者ギルドに向かい、ミュラーさんとヘルトさんを当たります。


「ああ、ゴートブルなら、しょっちゅう狩っているな」


 ゴートブルとは、文字通りヒツジさんのような毛を持つ猛牛さんです。


「今から狩りに行くか?」

「行っていいんですか?」

「この時期のヤツらは、畑を荒らすんだ」


 果物が好物で、収穫のときを狙って襲ってくるといいます。

 農家の方が対抗して、ケガをされました。

 策として、広葉樹を巣の付近に植えたそうですが、シカが若木をほとんど食べてしまったとか。


「だから、できるだけ間引いておきたいんだとよ」

「素人よりは、あたしたち冒険者の方がいいって話よ」


 命を狩るのに、理由がありました。農家の方も、生活があるのです。


 キノコ女王討伐だって、元々はポーション作りのためでした。ダンジョンの生態系も壊しますし。


「お手伝いします」

「頼む」

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