さて、お店はすぐに見つかりました。
「しゃあっしゃっせーっ! 冒険者さん一名サマっすねー」
ギャルっぽいお嬢さんに、ピースサインで迎えられます。
ユニフォームがやたらカラフルで、スカートが異様に短いです。
シティエルフさんというか、ダークエルフさんですね。
色が微妙に、ダークエルフさんっぽくないですが。
ニーソが眩しいですね。
エルフさんって、こんな社交的でしたっけ?
それともエルフさんですから、むしろ世間に馴染めなくてキャラを変えざるを得なかったとか?
とにかく謎の多い店ですね。
「お席こちらでーす」
窓から見られない場所がいいと告げると、すぐに座らされました。
「ご注文はー? 今なら開店記念でー、オムライスが二倍になりまーす」
ブイブイ、と、またしてもピースサインが並びます。
オムライスは、窓際の席の方が食べている料理ですね。
わざわざハート型になっているなんて、シャレているじゃありませんか。
たしかに魅力的ですが、今は。
「ハンバーグをいただけますか?」
「どっち?」
ん? どっちとは?
「ウチね、ゴートブルの他に豆腐ハンバーグもやってんの。ヘルシー志向のお客さんもいるから」
たしかに、メニューにもそう書いてありました。危なかったです。見落とすところでした。
「では、ゴートブルの」
「お目が高いですねーっ! 体に悪いはウマイよねーっ。かしこまりーっ!」
お嬢さんが、カウンターの奥に声をかけます。
「ダーリン、ゴートブルのハンバーグーっ!」
「ほーいハニー!」
どうやら、若い夫婦が営んでいる店のようです。それにしてもテンションが高いですね。
「ごっそさん」
カップル客が、席を立ちました。
「あざーっす!」
奥さんがレジに立ち、精算します。すぐさまわたしの元へ。
「はいはい、付け合せのサラダをどーぞー」
わたしの前に、小鉢が置かれました。
「あの、お茶は頼んでしませんが?」
アイスミルクティーのようなものが、小鉢の横に。
「サービスっす。まあ、遠慮せずに」
ああ、これだけでも
「これ、豆乳ラテですね」
「そうそう。裏庭で豆を栽培してー、たまーに出してんの」
自分たち用のゴハンなのだそうですが、出来が良いときだけ豆乳として客に出すのだとか。
「サラダもいただきます……んっ!」
キャベツを刻んだだけのサラダも、ドレッシングにパンチが効いていて食欲をかきたてます。
「なんですか、これ? めちゃめちゃおいしいんですが」
こんなドレッシング、食べたことがありません。
「それ? オーロラソースのちょっとした応用」
マヨネーズとトマトケチャップに、秘密の調味料を混ぜたものらしいです。
「なんだったらさー、帰りに買って帰る? 瓶で売ってっから、欲しかった言ってね」
カウンターに、ドレッシングの小瓶が置かれていました。
「ありがとうございます!」
これは、いいものを知りました。ぜひとも買って帰らねば。教会の食事に、さらなる潤いが訪れることでしょう。
「ご夫婦で、経営なさっているのですね?」
「あたしらさー、すぐ近くのオタカフェで働いてたのねー。つい最近までー」
あの店は知っています。貴族ばかりで入りづらいのですよね。
「貴族ばっか相手にしてっからー、疲れちゃってー。あいつら払いはいいんだけどー、注文がエロくってさー。キャバクラじゃねえっつのー」
頼んでもいないのに、向かいの席に座って足を組みました。
「女は女でめんどくせーし。マナー談義を始めたりー、店の格付けチェック始めたりさー。食ったらさっさと帰れってのー」
ギャルっぽい口調で、店員さんはお話を進めます。
「でね、金溜まったらー、バックレて結婚して店やろうよーって、二人で決めてたのー」
念願叶い、ようやく店をオープンしたのだとか。