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レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する殴りウィザード】として
レアドロップしない男、魔法付与装備を生成できる女スライム魔王に溺愛されて、【レアアイテムを破壊する殴りウィザード】として
椎名 富比路(しいな とみひろ)
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年06月22日
公開日
4.8万字
連載中
 ハンター仲間から「お前と組んだら魔物がレアアイテムを出さない」と言われたウィザードは、ソロ狩りを決意。  直後、街へ侵攻する魔物を、主人公は初期魔法「エンチャント」で強化した武器によって撃退する。魔物に追われていた少女を助けた。   ヒロインは地位を追われた魔王の娘だった。  また、彼女がいると「装備を強化する宝石」を魔物が落とすようになった。 「レアでなかろうが、火力は出せる!」 「レアが出ないなら作ればいい!」  という結論に達した主人公は、幼馴染であるドワーフと結託。  ノーマル装備にヒロイン製の宝石を埋め込んで、レアに匹敵する武器を開発。販売を開始する。  先代魔王のかたきを討つため、女魔王も更にアイテムの強化を目指す。  が、かつて友人だった女魔族が立ちはだかる。彼女こそ、魔王の仇!  しかし、様子がおかしい。  敵の正体は、意思を持った呪いのアイテムだった!  彼らは、魔族によって無理やりアイテムと同化させられた下級の魔族たちである。  呪いのアイテムはハンターを操り、仲間の呪いアイテムを集めていたのだ。  主人公は戦いの中で、【レアアイテムを破壊できる唯一の男】として、覚醒した!    荒廃した近未来的世界を舞台に、主人公は殴りウィザードとしてオラつく!

殴りウィザードとして生きていきます

レアドロップしない男 ―疫病神のランバート―

 まだわずかに文明の面影が残る地下ダンジョン『セグメント・セブン』に、雷鳴が轟く。

 俺が相手をしているのは、スケルトンやゾンビ、リザードの群れである。俺たちハンターは、広い通路で魔物たちに囲まれていた。


 俺達が踏み入れているダンジョンは、かつて【トンネル】と言われていたそうだが、遠い昔の話だ。


「頼んだぞ、ランバート!」

「OK任せろ」


 リーダーのクリムに促され、俺は杖を天へ掲げる。


「くらえ、【ライトニング】!」


 パーティの突破口を開くため、杖を敵陣に向けて雷撃を放った。


 紫色の電流が槍となって、人間大のリザードどもを炭へと変える。


 放電の衝撃で、天井にある照明がパリンと弾けた。


 闇に乗じて、パーティも魔物の群れを突っ切る。



 ひときわ大きな怪物に、俺は再び雷撃を放った。


 だが、相手の肉体に弾かれてしまう。


「ちい、デーモンかよ」


 デーモンは、魔法抵抗力が高い。俺の魔法が通じるかどうか。


「オレに任せておけ!」


 リーダーのクリムが、愛用の銃をホルスターから抜いた。


「くたばれ!」


 しっかりと構え、銃から【魔弾】を放つ。


 魔法の効果を施した弾丸が、ダンジョンボスの眉間を撃ち抜いた。しかし、まだ頭蓋骨で泊まっている。


「今だ、ランバート!」

「おう! 【メテオ】ッ!」


 俺は、クリムの銃弾に、ダメ押しで隕石状の火球を落とした。


 脳を一撃で破壊され、ダンジョンの主が仰向けに倒れる。


「よし、アイテムを漁って引き上げるぞ!」


 この世界のモンスターは、死ぬとアイテムを出す。なぜなのかは不明だ。アイテムが魔物となっているパターンや、アイテムを守っている魔物もいた。その種類は千差万別である。どれが正解とは言い難い。


「なんか最近、デーモンクラスの魔物が多くないか?」


 パーティの一人がグチをこぼした。


『セグメント・セブン』は、どんな魔物が出てくるかわからない危険地帯である。ハンターのレベルに関係なく、強さもまちまちだ。


「まあまあ、そう嘆くな。強いモンスターを倒したんだ。きっといいアイテムが……」


 メンバーを励ますクリムが、言葉を濁す。


「これだけか?」


 相当数の魔物を排除した。にもかかわらず、ドロップアイテムの価値が低い。どれも、店で売っている品に毛が生えた程度のシロモノばかりだった。あれだけ必死で戦ったのに。


 パーティの誰しも、渋い顔をしている。


「すまん」


 俺のせいだ。ハンターギルドでは、「ランバートがいるとレアが出ない」と陰口を叩かれている。俺は疫病神だと。


「いいって」


 クリムはそう言ってくれた。この日は……。



 数日後、俺はパーティリーダーの戦士クリムから呼ばれた。


 ここはアイレーナの街にある酒場である。ハンターギルドの隣にあり、俺たちのようなハンターたちが酒を酌み交わしていた。


 いつものメンバーはおらず、席にはクリムしかいない。


「悪いんだがな、ランバート。抜けてくれ」


 クリムが、俺様の向かいに座って神妙な面持ちで語った。


「おう、やはり俺様はクビか」


 ハンター仲間からの視線がやけによそよそしいとは、以前から感じていたが。


「ああ。お前には、我がグループから外れてもらいたい」


 クリムは、複雑な表情を見せた後、強めのシードルを煽った。強く苦い炭酸を喉に流し込んで、顔を渋くする。


「やはりこのランバート・ペイジ様は、戦闘では役に立たないか?」

「違う。お前はよくやってくれている。ランバートは、このパーティに入ってくれて一ヶ月だよな?」

「ああ」

「戦闘では後衛で指示を飛ばしてくれるし、魔法のタイミングも的確だ。ドロップした宝箱のトラップを完璧に解除し、仲間とのトラブルもない」


 それはよかった。てっきり、知らないうちに仲間割れを引き起こしていたものだと。


「では、何が問題なんだ?」

「お前がいると……レアが出ない」


 痛いところを突かれる。俺が最も気にしていたところではないか。


「実は、お前に黙って実験をしてみたんだ。別の魔術師を雇って、レアが出るかダンジョンで試したんだ。そしたら、これが出てきた」


 クリムが腰のハンドガンを俺に見せた。


「いつものリボルバーと、形状が違う」

「魔銃だ。実弾ではなく、魔力の弾丸を撃ち出す」


 今まで見たこともない、豪華な装飾が施されている。


「他にも、色んなレアが出てきたんだ」


 アイテムボックスから、クリムが収穫を出す。アーマーや筋力増強アクセ、ガスマスクなんかもある。


「なるほどな。それはよかった」


「すまん」と、クリムは頭を下げた。


「なぜ謝る? お前は悪くない」


 リーダーとして、俺を傷つけたくなかっただろう。俺がクリムだったら、同じことをした。


「で、我々はその女性を採用することにした」


 トラップの解除などは難があるが、それは訓練でどうにかなりそうだと。


「話し合いの結果、お前に抜けてもらうのが一番なんじゃないかと」

「それで控えではなく、解雇だと?」


 クリムはうなずいた。


 ハンターがダンジョンに潜る最大の理由は、アイテム掘りだ。レアなドロップアイテムを手にすること。装備してもいい。自分で使えなくても、売れば金になる。そうやって、俺たちは稼いできた。


 ところが大所帯になりすぎて、稼ぎが少なくなってきている。拾うアイテムは強いが、平凡すぎて金にならない。かといって、いつまで経ってもレアアイテムが見つからなかった。


 俺がいると、高価なアイテムが手に入らない。

 いわゆる「物欲センサーが働いている」と、クリムは結論づけたらしい。


 よく言いづらそうなことを、引き受けたものだ。


「我々は後日、この街から離れる。もっと稼げるダンジョンを見つけたので、そこを拠点とするんだ。お前と話し合う、いいチャンスだと思った」


 周りに味方がいると、口論になるかも知れない。二人きりで話し合うのがベストだと判断したか。


 そこまで気にしているなら、俺が出す答えは一つだ。


「わかった。世話になった。端末から名前を抜いておいてくれ」

「これは違約金だ。受け取ってくれ」


 俺が快諾すると、クリムは俺の席に一〇キロくらいの麻袋を乗せる。


 中身は金貨だった。ハンター証明書によるカード決済が普及したこの時代で、現金を渡してくれるとは。


「必要ない」


 立ち上がって、俺は自分のアイテムボックスをクリムに差し出す。預金残高も装備一式も、全部渡した。俺は、村人の服だけという出で立ちに。


「ランバート、これは?」


 困惑顔で、クリムが俺を見上げる。


「これは、罰金だ。大した金にならないが、使ってくれ。足しになるだろう」


 服は流石に、着古しなんてイヤだと思う。杖くらいならその女でも扱えるはずだ。


「ランバート、お前!」

「このランバート・ペイジ様は、裸一貫でもやり直す自信がある。だが、パーティだとそうはいかない。今まで世話になったな」

「一番迷惑を被ったのは、お前だろっ! やせ我慢するなランバート!」


 クリムは立ち上がって俺に歩み寄った。俺の袖を掴む。


「そこまでせんと、俺の気が収まらんのだ!」


 俺は、クリムの手を振り払う。


「俺は疫病神だ。存在しているだけでパーティに損害が被る。ならば、俺などいても仕方ない。駆け出しだが、俺だって一応魔法使いだ。ソロでもなんとかやっていけるさ」


 回復魔法も覚えている。魔力切れさえ気にしなければ、一人でもアイテム集めは可能だろう。


「今まで迷惑をかけてスマン」


 振り返り、俺は酒場を去る。


「待て!」


 また、クリムが俺に追いつく。


「何度言ってもムダだ。俺はアイテムを受け取る気はない」

「じゃあ、これだけでも」


 初心者用装備を、クリムが俺によこした。


「いくらお前でも、丸腰だと死ぬぞ」

「恩に着る」

「そんな、恩だなんて。ドロップ品の中でも、金にならなかったものを選んだんだぞ」


 クリムがリーダーで本当によかった。他のチームリーダーなら、取っ組み合いになっていただろう。


「元気でな」

「クリム、お前も達者で」


 装備を整え、今度こそクリムと別れる。


 俺は、自分の装備を確認した。樫の木でできた長い杖と、麻の服である。指輪やアクセサリ類はおまけだ。何もないよりはマシか。

 どれも、店売りで一番安いものである。

 これくらいでないと、張り合いがない。自分のスキルを試す、いい機会だ。


「さて、稼いでくるか」


 アイレーナの街を出て、冒険に向かう。

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