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第159話  飛竜狩りはモ○ハンの香り


 キャアキャアと、甲高い鳴き声をあげながら、ゆっくりと空を旋回しているワイバーンを見て、俺はホッと胸をなでおろした。

 一体目としてはアタリ……と見ていいだろう。

 ワイバーンそのものは強力なモンスターだろうが、作戦に対してのアタリハズレという観点では悪くない。

 滞空時間が長いやつほど時間が稼げるし、あいつはおそらく地上で縦横無尽に暴れるのは、不可能だろうからな。


「神官さま、他のスポットはどうですか?」

「はい。同じ物が湧いたようです」


 よかった

 違うモンスターが湧いてしまうと対策が練りにくいからな。


「どういう攻撃をしてくるかはわかりませんが、あれなら時間は稼ぎやすいでしょう。余裕があるなら、翼を重点的に攻撃して地面に張り付けてから逃げて時間を稼ぐように通信飛ばしてください。次のモンスターがどんなのかわかりませんから、倒せそうでも倒さないように」


 翼さえなければただの竜だ。

 もちろん普通のドラゴンと違って、地上での戦闘能力は低いだろう。

 なにせ脚が細いからな。


「とにかく墜としましょう!」


 こうして空飛ぶモンスターを下から見上げていても埒が明かない。

 こっちは、スピードクリアしなきゃならないのだから。


 シャマシュさんが、氷の魔術を連続で射出し、シェローさんとレベッカさんとへティーさんが弓に矢をつがい、空に放つ。

 こういう時、俺はやることがない。弓の練習はほとんどしてないし。魔術も使えなくはないが、まだ精密射撃系のは難しいのだ。夢幻さんに鉄砲でも用意してもらえばよかった。ショットガンぐらいなら、あの人ならなんとかできたんじゃなかろうか。


 みんなの攻撃がバッサバッサとゆっくり空を飛んでいたワイバーンに吸い込まれるように命中する。

 ワイバーンは甲高い声を上げて、長い首をこちらへと向けた。

 やおら翼を折りたたみ――


「うおおおお! 散開! 散開!」


 こちら目掛けて一直線に急降下してきた!


 デカい! 

 ハイエースみたいなのが空から降ってくるのとか恐怖しかない。

 首とか脚は細いのに、胴体めっちゃ太いってか、まるまるしてるからね。


 空から降ってきて、どういう攻撃するのかと思ったら、そのまんま地面に胴体着陸するワイバーン。

 まさかの体当たり。

 轢かれたら即死だよ、あんなもん。

 まあ進路変更はできないのか、ちゃんと躱せば当たることなんてない攻撃だが。


 地面がえぐれるほどの衝撃で胴体着陸してきたワイバーンが、あせって翼をバタつかせ、再度、空に浮かび上がろうとする。

 チャンスだ!


「と、飛ばせるなァー! とつげきぃぃいいいい!」


 一斉突撃!

 もはやどうもこうもない。翼がもげるがどうかはわからないが、とにかく翼を重点的に攻撃する。

 レベッカさんのドラゴン殺しの剣がピカピカと輝き、ひときわ大きな光片を飛び散らせる。

 マリナがデカい鎚でワイバーンの頭を滅多打ちにしている。

 フルボッコである。

 なんかこんなゲームやった記憶ある!!


 だがワイバーンもやられっぱなしではなく、首と尻尾を振り回して攻撃してくる。

 俺も首攻撃でフっ飛ばされてしまった。

 ワイバーンがその隙にまた飛び上がる。

 ギャアギャアと叫びまわり、いきなりのフルボッコに怒り心頭といったところか。


「くっそ、翼は取れなかったか。いや取れないのかな?」


 取れないなら取れないなりに戦う必要がある。

 というか、フルボッコチャンスはついついハシャいでしまいがちだが、他のスポットでは体当たりしてきても、こちらからは攻撃せず放置して、体当たりに終始させたほうがいいかも。

 ちなみに、敵の攻撃方法や行動パターンは神官ちゃんの精霊通信を通じて、リアルタイムで共有している。


 空を飛びギャアギャアと騒ぐワイバーンに、魔術と矢が殺到する。

 ワイバーンは、だいたい5階建てビルくらいの高さを飛んでいるので、矢も魔術もよく当たる。さすがに100メートルも上がられてしまったら攻撃のしようがなかったが。


「当たることは当たるが、魔術はどうも効きにくいな! やはりこいつらは直接攻撃のほうが良さそうだよ」


 シャマシュさんが悪態をつく。

 魔術が効きにくいのは、ボス級モンスターの特徴なのかもしれない。

 もともとが運動の苦手なゲーム世界だからか、モンスター自体が魔術が効きにくいのが多いらしい。その代り物理攻撃には弱い。だからこそ、俺たちがこれだけ戦えているわけでもあるのだが。


「シャマシュさんは、ゴーレムを召喚しておいてください。奴が降りてきたら、重石として乗せましょう。二度と飛び上がれないように」

「へ……? ハッハハッ! なんて悪いアイデアなんだ! 君は最高だな!」


 歯を剥いて笑うシャマシュさん。

 ちなみに投網も用意してあるから、それを投げるという手もある。

 どんな手を使ったっていい。

 大事なのは結果だー!


「来るぞっ!」


 バッサバッサと翼を動かしホバリングするワイバーンが口をガバっと開ける。

 喉の奥でチロチロと輝く赤い炎。


「ファイアブレス! 神官さま、お願いします!」


 火球タイプか、火炎放射タイプか。どちらにせよ精霊魔法で防いでもらえばダメージは軽減できる。

 神官ちゃんが、すかさず射線上に防御結界を張る。

 ワイバーンが頭を一度大きく上げ、火炎放射器のように口から炎の息を噴き出した。


『放射タイプです!』


 エトワが叫び、俺はとにかく真っ直ぐ走って逃げた。

 ゴウッという音、吐き出された炎の勢いで風が巻き起こる。


「あちッ! うおおお! 背中が熱いッ!」


 背中を焦がすほどの熱波からなんとか逃れて振り返ると、竜から放射された火炎が、朱く、白く、きらめきながら地面を焦がしていくのが見えた。

 神官ちゃんが張った精霊魔法による結界が空中に浮かんでいるが、精霊石を使わなかったのか、ほとんど抜けてしまっている。


「おいおい……」


 これも直撃食ったら即死級の攻撃だ。

 冗談抜きでガチなファイアブレスだ。鉄だって溶かしてしまいそうな攻撃なんですけど……。


 炎が止む。

 まさか、だれかあれを食らったんじゃ……?

 背中に冷たいものが流れる。


『全員無事です!』


 一瞬嫌な想像をしてしまったが、物見櫓から見ているエトワが、全員の無事を教えてくれる。

 よかった。あれを直撃されたら回復どころじゃないからな。黒コゲだ。


 ワイバーンは空をしばらく飛び回り、また地面へ急降下。体当たり攻撃を仕掛けてきた。


「ここで終わらせます!」


 ファイアブレスはもう打たせたくない。つまり、もう飛び上がらせなければいい。

 ワイバーンの特攻にも似た体当たりを紙一重で躱し、また翼をバタつかせているところを渾身の力で斬りつける。

 シャマシュさんが召喚したゴーレムたちがワイバーンに乗っかる。

 さすがの翼竜もこれには堪らず身を捩じらせた。


 こうなってしまえば、もう一方的だ。

 咬みつき攻撃と尻尾に気を付けていればいい。


 シェローさんの剛剣が唸り、へティーさんの薙刀が目にも止まらぬ速度で繰り出される。

 レベッカさんの聖剣が輝き、マリナの鉄鎚が飛龍の横っ面を殴り飛ばす。

 俺も手当たり次第に魔剣を突き入れてやった。


 ほどなくしてワイバーンは断末魔の叫びと共に消滅した。


「やった……!」


 後に残されたのは、いつもの巨大魔結晶と――


「たまご?」

「たまごね」

「ドラゴンの卵であります!」


 たまごである。

 恐竜の卵みたいな……ブチ柄の……。

 サイズは魔結晶と似たようなバスケットボールサイズだ。


「とりあえず、たまごは回収して、態勢整えましょう!」


 のんきにしてたら、次のモンスターが湧いてしまう。

 情報によると、多少のインターバルはあるらしいのだが。


 一度集まって神官ちゃんの魔法で怪我の治療をした。

 たまごはベースキャンプまで運んだ。


「あ、せっかくだから鑑定しとこ。『真実の鑑!』」


  ――――――――――――――――――――――

 【種別】

 たまご


 【名称】

 ワイバーンのたまご


 【解説】

 ワイバーンが極稀に落とすたまご

 上手に温めると子ワイバーンが生まれる

 食べてもおいしい


 【魔術特性】

 なし


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 ジロー・アヤセ 

 ――――――――――――――――――――――


「食材……!」


 いや、食べないけどさ。

 ワイバーン生まれちゃうんだ。あんな強力なブレス吐くやつが身内にいたら世界征服できるんじゃないか?

 さすがに味方になるやつだと、弱体化されてるだろうけども。

 レベッカさんがいれば、移動手段にもなるのかもしれない。

 ヘリコプター代わりだ。

 すごいことになってくるが、まだまだヒトツヅキの途中だ。

 とりあえず、それもこれも終わってからだな。



 ◇◆◆◆◇



 次に湧いたのは、身長3メートルほどの剣士だった。

 赤黒い体に、ザンバラの長い赤髪。

 エスニックな仮面をかぶり、両手には鈍く輝く曲刀が握られている。


 焦らず奢らず、慎重に歩いてくる。

 当然、鉄球攻撃やバリスタ攻撃を食らうようなタイプじゃない。


「私は羅刹天ラクシャーサ。尋常に勝負しろ」


 油断なく立ち、厳かにそう言った。

 武人である。

 すごい強キャラ臭である。

 どんなモンスターだ。


「1対1でってこと?」


 つい訊いてみたりして。


「構わぬ。一度に来い、人の子らよ」


 ちらりとみんなのほうを窺う。

 シェローさんなんかは、明らかに1対1でやりたそうな顔してるが、スピードクリア目指しているんで、遊んでる時間はない。


 羅刹天は向こうから攻撃してくるつもりはないらしく、ただ突っ立っている。

 不用意に近づくと、あの双剣が煌めいて、首とか飛ばされるに違いない。


「シャマシュさん、ゴーレムを4体召喚して捨て身で抑え込んでみましょう。神官さまは、ゴーレムに精霊石を使った防御結界を張って下さい。動きを抑えるのに成功したら、みんなでボコボコにする感じで」


 強キャラっぽいから、少しだけ慎重に戦う。

 時間は惜しいが、いきなり突っかかるのは無謀だ。

 他のスポットでは、ワイバーン相手にうまく対処できているらしいんで、少しだけ余裕がある。ワイバーンの攻撃は、体当たり、火炎、尻尾だけで、気を付けていれば火炎攻撃も躱せなくはない……ということだ。まあ、当然不幸が起こる可能性はあるだろうが、さすがにそこまで面倒見切れない。


「ヌォー」「ヌンヌォー」「ヌヌヌォー」「ヌォーヌ」


 召喚されたゴーレムが気の抜けた声を出しながら、4体別々の方向から襲い掛かる。

 羅刹天は舞うように2本の曲刀でゴーレムたちを攻撃。

 余裕シャクシャクの攻撃だったが、結界に阻められ一撃で倒せず――

 ギュムッっと、そのままゴーレムたちに抑え込まれた。


「ツぁーー! なんだこれは! 卑怯だぞ!」

「卑怯もくそもあるか! いっけー!」


 同じような身長のゴーレムたちに腕をつかまれ、抑え込まれ、わちゃくちゃになったところを、みんなで攻撃した。

 モンスターは強いが、こういう人型のは人間の道理がある程度通用する。

 足を取られれば転ぶし、抑え込まれれば動けなくなるのだ。


「……こんな戦い方でいいのかしら?」

「いいじゃない? ベッキーは真面目ねぇ」


 確かに真っ当な戦い方ではないかもしれないが、今日だけは勝てばいい日ということで、許していただきたい。

 羅刹天はゴーレムたちに抑え込まれたまま、特にいいところなく死んだ。

 ドロップアイテムは、手に持っていた双剣が残った。

 念願の武器ドロップだ。


  ――――――――――――――――――――――

 【種別】

 近接武器


 【名称】

 羅刹天の双刀


 【解説】

 羅刹天が稀に落とす二本で一組となる双刀


 近接戦闘職が装備可能な剣

 魂を切り裂く力で、アンデッドに対してクリティカル率上昇

 一本づつは装備不可。


 【魔術特性】

 対アンデッド B


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 ジロー・アヤセ 

 ――――――――――――――――――――――


「おおっ! マジックウェポンじゃん!」


 アンデッド向けの武器はかなり有用だ。

 なんたって、モンスターの大半はアンデッドだからな。

 いや、アンデッド……ばかりでもないか。お化けってより、魔法生物みたいののほうが多いような気もするし。スタチューとか。

 まあ、なんにせよいい。攻撃力も高そうだし。

 問題は誰に装備させるかだけど、それはまた今度でいいか。


 とにかくこれで、ようやく2体。

 残り、4体だ!



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