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第7話 憂鬱な挨拶2

 一連の流れでどっと精神的に疲れた。


「おい、何してる早く入れ!」

 と言われてようやく中へ入り進む。


「もしかして…アンナ先輩と付き合っていなかったのですか?」

 そう聞くと怒りでこちらを睨まれてビクっとした。


「はああ?俺が?なんで俺があんなクソ女と付き合わなきゃならない?学園でもベタベタしてくるが、他の生徒の手前適当に相手してやってるだけだ!会話だけのな!あの女何か勘違いしてるみたいだがな。

 …それに他の男と関係を持ってるのも知ってる!俺を舐めるな!あんなふしだらな女などお断りだ!」

 と言う。


「そうですか。てっきり付き合ってるのだと思っておりました。大変申し訳ございません」

 と謝ると


「うるさい!またお前直ぐそうやって!…まぁもいい!さっさと家の者に挨拶してお前も帰れ!!」

 と言い嫌々と案内させる。

 公爵家の庭は広く広大でうちより何倍も綺麗な花が咲き誇っていた。手入れのいい庭師がいるのだろう。


「ふん!どうだ!お前のとこよりいいだろ!」

 と自慢してくる。


「はあ…凄いですね」


「ちっ!もっと感想ないのかよ!お前口数も少ないな!脳味噌何でできてるんだ?」


「脳味噌は脳味噌です。話す必要が無いこと、最小限で済ませられる事を選んでおります」

 と言うと変な顔で止まる。


「何なんだお前は。いきなり饒舌だな!」


「……侯爵家次女のイサベル・マリア・キルシュでございます」


「それはわかってる!!バカが!」

 と言い、とうとう中へと入るとズラリと使用人が整列し


「ようこそ!婚約者様!シャーヴァン公爵家へ!」

 と挨拶される。


「辞めろ!大袈裟にするな!!おい!早く行くぞ!」

 と手首を掴まれさっさと通り過ぎる。私はペコペコと頭を下げつつ通り過ぎる。

 そして応接間みたいな所をノックし


「父上!母上!!」

 と言い中からどうぞと声がした。


「おい、くれぐれも俺に話を合わせておけよ!いいな?まだ二人は俺たちが仲がいいと思ってるんだ!!」

 と言う。つまり演技しろと。

 するといきなり手を組み直された!!

 ビクっとすると


「勘違いすんな!いいな!」

 と怒りをあらわにしてる。嫌だけど繋いでやったみたいな感じで何も言えない。


「父上…イサベルを連れて来ました…」

 とそのまま中へと入るとニルス様を大人の男性にしたような紳士がいて正直カッコいい方だ。お母様の方も美人である。


「初めまして!ようこそ!私はニルスの父のフリードリヒ・オーゲン・シャーヴァンだ」


「初めまして公爵様」


「…大きくなったのね。前に会ったのはまだ赤子だったものね。私は妻のアニカ・ド・シャーヴァンよ」


「初めまして公爵夫人」

 とカーテシーで挨拶して椅子を勧められたが同じ長椅子にニルス様が手を離さずに隣に座る。少し顔は赤い。


「仲がいいのは本当だったのか?ニルスは素直じゃ無いからね」


「はは、父上。私は騙しなどしませんよ!」


「それにしても美しい子ね!ニルスには勿体無いくらいだわ!ねぇ、貴方!」


「そうだな、…まぁ若い頃のアニカと比べたらまだまだだが」


「まぁ!貴方ったら!!」

 と夫人は照れる。


 ゴホンと言い、ニルス様は


「父上も母上も仲がよろしいようで何よりです」


「ああそうだな。もう一人くらい作れそうだな」


「ご冗談を!まだ下に4人もいるのですよ?」

 と言うから驚く。そんなに?


「ふふふ。そうね。私達の愛がそうさせたのよ!」

 と夫人は嬉しそうに下の子達の名前を紹介した。


「ニルスは跡取りだから他の子は奉公に出たり冒険者になりたい、魔法使いの弟子になりたいなどと色々と夢を持っている。ニルスには悪いがね」

 と言うとニルス様は


「公爵家の嫡男として恥ないよう生きて来ましたのでご心配なく!…それよりお祖父様は大丈夫ですか?」


「問題ない。直ぐ来るさ!」

 と公爵様が言ったのと同時にドスドス音がしたと思ったら扉が壊れそうなくらいバンと音がして入ってきた初老の老人は鍛えているのか割と体格が良く筋肉が盛り上がっており老人の癖に元気そのものだ。


「君がイサベルかな?」


「はい…初めまして…。イサベル・マリア・キルシュと言います」


「ワシはアルトゥール・パブロ・シャーヴァンじゃ!孫の婚約者殿!やはり若い頃のバルバラに似て可憐な月華のようじゃな!!」

 とボオっとする。


「祖母をご存知なのですか?」


「勿論知っておるとも!同じ学園で学んだ。バルバラはの…、ワシの隣の席の娘さんでそれは素敵じゃった!ワシの初恋の人じゃ!」

 と言われてギョッとした!


「本来ならワシは彼女と結婚をする気じゃったのじゃが…レオポルトの野郎が横から掻っ攫っていきおった!!」

 レオポルトとは私のお祖父様のことだ。

 ……お祖母様がアルトゥール様と結婚なさってたら…私は公爵家の…?

 と考えてやめた。

 レオポルトお祖父様とバルバラお祖母様はご健在で今も仲睦まじく田舎で暮らしている。とてもおっとりした老夫婦で私は可愛がられた。


「本来ならお互いの子同士で婚約するはずだったのじゃが、フリードリヒの奴はアニカさんにベタ惚れで無理じゃった。それで今度こそはと孫に期待することにしたのじゃ」

 この人のせいで私とニルス様は婚約する羽目になったのか。


 それからもアルトゥール様から好きなものは何かとかたくさん聞かれた。次の休みも会いたいと言われ私はキラキラした目で見られると断れなかった。


 ニルス様は機嫌はあまり良くなくお祖父様との話が終わると手を離し馬車まで演技して送り


「ではまた」

 と簡潔に言い、別れた。

 ほんと無駄に疲れた日だった。

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