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婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
異世界恋愛ロマファン
2025年06月23日
公開日
1.4万字
完結済
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり、かなり短めです。 ※アルファポリス、ベリーズカフェ、小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

第一話 公爵令嬢、卒業パーティーで倒れる



「クロエ! 前へ出ろ!」


 煌びやかに飾り付けられた学園の大ホールに、公爵令嬢クロエを呼ぶ声が響く。

 呼んでいるのは、婚約者である、第一王子スティーブだ。


 卒業パーティーの会場は、一体何が始まるのかと、静まり返る。

 スティーブの後ろには、彼に寄り添い袖を引く、男爵令嬢アメリアの姿があった。


 当事者であるクロエには、今から何が起こるか分かっている。

 今日この場で、クロエは婚約を破棄されるのだ。


 卒業パーティーには、学園に在学する全ての生徒が参加する。

 昨日の帰り際、クロエはスティーブから、今日のエスコートを拒否されていた。

 その時点ですでに彼女は、こうなることを予期していた。


「……はい」


 クロエは、弱々しい声で返事をする。

 公爵令嬢であるクロエは、長年王子妃教育を受けてきた。感情をあまり露わにしないよう教育されてきた彼女が、こうして弱気な姿を見せるのは、珍しいことだ。


 しかし、スティーブはそれを気に留める様子もない。

 金色に輝く髪とは対照的に、暗く濁った青い瞳で彼女を見下ろし、宣言した。


「もう分かっていると思うが、この場ではっきりさせておこう。理由もあえて言うまい」


 クロエがうつむくと、黒くつややかな髪が、背中から胸元へさらりと流れる。

 クロエは蒼白な顔で、浅い息を繰り返す。ルビーのように美しい瞳は、力なくゆっくりと伏せられていく。


「クロエ。今日をもって、お前との婚約を――」


 スティーブが再び口上を始めた、その時。


 クロエは突然、何の前触れもなく、その場に倒れた。


 血の気を失った白い頬に、もう何年も見せることのなかった涙のあとを、一筋残して。


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