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大好きな義妹が他人になった
大好きな義妹が他人になった
宵月しらせ
恋愛現代恋愛
2025年06月24日
公開日
5.4万字
連載中
 親の再婚で幼少期に兄妹になった兄の星宮涙衣るいと妹の飾。  同い年ということもあり、兄妹でありながら親友のように育ってきたが、ある日親の離婚によって他人になってしまう。家族として好きだったはずだが、一緒に暮らせなくなったことで互いを想う気持ちに少しずつ変化が現れるようになる。  飾は新しい環境に馴染めず、親の離婚から一年後、高校入学のタイミングで再び涙衣のところに戻って来る。その頃には、涙衣は飾のことを異性として好きだと認識していて――。  義理の兄妹から他人になったふたりは、これからどのような形で“家族”になっていくのか?  甘くとろけるラブコメです。

第10話 子どもみたいな追いかけっこ

 入学から二週間が経過した。

 飾からはまだ告白の返事をもらえていない。

 まさかこのままうやむやにするつもりではないよな――という疑念がそろそろ出てくる頃だが、なかなか催促もしづらい。

 まぁ長年の関係を変えるかどうかの決断を迫っているわけで、場合によっては一生を左右する判断になるのだから、時間もかかるだろう。

 焦らせず、しばらく様子をみよう。




「みんなは部活はどこにするか決めた?」


 ある日の昼休み、食事をしている時に飾がそう聞いてきた。

 みんなというのは、俺と尊、それに三島さんだ。この四人で昼食を食べるのが、すでに当たり前になっていた。


「オレはバスケ部だ」


 尊は中学と同じ競技を続けるようだ。

 中学時代は県大会でベスト8に入るなどそこそこ華々しい活躍をしていたので、きっと高校でもまぁまぁの注目を浴びるのだろう。


「私は男子バスケ部のマネージャー。たーくんと一緒に全国目指すんだ」


 ほう、カップルで同じ部に入るのか。

 これ以上ないほどわかりやすい青春の図だな……他の部員たちからしたら、結構ウザったいかもしれないけど。


「飾ちゃんは?」

「あたしはお料理部」


 ビシッ! と謎のポーズを決めて宣言する飾。


「飾ちゃんって料理好きなの?」

「嫌いではないかな。うちのお弁当はあたしが作ってるしね」

「おお、女子力高いね!」

「うちの掃除もあたしがしてるんだよ」

「すごいっ!」

「男どもが役に立たないので。あたしがいないとなんにもできなくてさ」


 三島さんに褒められて、鼻高々に語るのはいいが……せめて俺がいない場所で言ってくれ。

 あと、弁当作るのは俺も結構手伝ってるぞ。

 掃除は……まぁ、うん。


「でも、普段から家で料理してるなら、わざわざ学校でしなくてもいいんじゃない?」

「日常の料理って、どうしてもバリエーションが偏るからね。作り慣れたものばっかりしちゃうから、新しい風を入れないと」

「カッコいいじゃない」

「そう? るぅも期待しててね。おいしい料理作ってあげるから」


 そう言ってくれるのはありがたいのだが、三島さんの手のひらで踊らされているのになぜ気付かない?

 ほら、飾が俺の方を見ている間に、三島さんが後ろでにやにや笑っているぞ。俺たちの様子を観察して楽しんでいるっぽいぞ、この人。


「涙衣はどこの部に入るんだ?」

「サッカー部」

「あれ、涙衣くんってサッカー部に入るようなキャラだったの? てっきり文化部に入るタイプだとばかり……あ、悪い意味じゃなくてね」


 本音を漏らし、そこから慌ててフォローを入れてくるが……三島さんの言いたいこともわかる。

 客観的に見れば、俺は陰キャに分類されるだろう。

 とてもではないが、サッカー部みたいな陽キャ部には似合わないように見えるはずだ。


「中学もサッカーやってたの?」

「前は野球部だったよ。これでも一年からスタメン張ってた」

「え、すごい! じゃあなんで高校では野球やらないの? うちの野球部って結構強いらしいから、そこで活躍して甲子園目指したら?」

「強いからやらないんだよ」

「……えっと?」

「うちの中学の野球部さ、廃部寸前だったんだよ。俺を含めて九人ちょうど。つまり、部員は全員スタメンなんだ」

「あ、そういうタイプの部活か」

「別に野球が得意なわけでも、好きなわけでもない。競争がない部活で、レギュラーを保証された状態で、遊び感覚でスポーツをしたかっただけなんだ。弱小はいいよ。試合ができないほど人数不足のところは特に」

「なるほど……まぁ一理あるか。じゃあ、サッカー部に入るのって?」

「うちのサッカー部、二年生と三年生で六人しかいないんだ。一年生も今のところ、俺を含めて三人しか入らないらしい」

「え、サッカーって十一人じゃないっけ? それだと試合ができないんじゃないの?」

「足りなくても試合はできるんだよ。勝てるかどうかは別として、試合をするだけならね。ここまで少ない部だと、俺みたいなド素人でも大歓迎してもらえるんだ」

「試合で勝つ楽しさは味わえなさそうだけど……まぁ涙衣くんがそれでいいならいいんだろうね」


 そういう理由で、俺はまったく興味を持ったことがないサッカーを始めることにした。

 ちなみに、俺のサッカー知識は、ゲームと日本代表の試合で得たものしかない。

 オフサイドがなんなのか、未だにわからない。




 サッカー部は、俺以外は一応経験者ばかりだった。

 と言っても、中学ではバリバリレギュラー張ってました! なんて人はいない。

 うちで一番うまい先輩でさえ、その辺の学校のサッカー部から見れば、ようやく数合わせとして扱ってもらえるかどうかのレベル……。

 なにせ練習は週に二日。毎回一時間半だけ――という短さだ。うまくなるはずがない。

 まぁそれでも、やはり俺とはレベル差がある。その人たちと一緒に練習をすれば、そもそも短い時間を浪費させてしまう懸念はあった。

 みんなはそんなこと気にしない、という感じで歓迎してくれていたが、さすがにドリブルさえまともにできないのでは心苦しい。

 まず個人練習をして、せめて基本的な動きくらいはできるようになってから全体練習に参加しよう――そう思っていると、それに協力してくれる先輩が現れた。


 湖川藍那さん。

 二年生で、我がサッカー部唯一の女子部員だ。

 マネージャーではない。選手だ。

 公式戦には出られないが、フットサルで紅白戦をする人数にさえ届かない我が部では貴重な人材である。

 というか、中学までも男子に混ざってサッカーをしていたらしいので、俺より普通にうまい。身体能力は俺の方がずっと高いはずなのに、彼女の動きにまったくついて行けない。

 その湖川さんがコーチとして、俺の練習をマンツーマンで見てくれることになった。


「そうそう、涙衣くんいい感じだよ、うまくなってるじゃん! センスあるよ!」


 という感じで、湖川さんはよく褒めてくれる。

 ちなみに今の誉め言葉は、リフティングが五回続けてできた時のものだ。

 高校のサッカー部で、一桁のリフティングで絶賛してくれるところはなかなかあるまい。

 他の学校がこの様子を見れば、お遊び以下――と言うかもしれない。

 まぁ実際、うちの部は全員がエンジョイ勢なので、遊びと言われても否定はできない。

 それに、遊びだからこその楽しさだってある。勝利を目指すことだけがスポーツではない。




 オタサーの姫という言葉があるように、男子ばかりの中にひとりだけ女子が混ざるというケースは、世間ではそれなりにあることだと思う。

 だが、エンジョイ勢とはいえ運動部に混ざる女子は、ちょっと珍しいだろう。

 俺はそういうタイプの女子は湖川さんしか知らない。しかし、この手のタイプにはきっとある傾向がある。

 コミュ力がとても高い、あるいは、性別の垣根なく接してくるタイプだ。


「やっほー、涙衣くん! 次って移動教室?」


 ある日、廊下ですれ違った時に、湖川さんに声をかけられた。

 声をかけられたというか、尻を叩かれた。

 湖川さんは持っていた教科書を丸め、それで俺の尻をパァン! と叩いてきたのだ。

 男子小学生みたいなことをする女子高生だな。


「美術室です」

「芸術科目は美術を選択したんだ。わたしは音楽だよ。音楽はいいよ~、適当に歌ってるだけで授業終わるんだから。楽器の時は……他の科目選択しておけばよかったと思うけど」

「湖川さんって楽器苦手そうですよね」

「指を細かく動かすのが苦手でねぇ足は得意なんだけど」


 その場で膝を上げ、エアボールでリフティングを始める……スカートの中見えそう。

 指摘するとセクハラかなぁ……話題を変えて、リフティングをやめるように誘導するか。

 それでも続けて見えてしまったら、湖川さんの自己責任ってことで。


「歌は得意なんですか?」

「めっちゃ得意だよ」


 くそっ、話題を変えた途端にリフティングをやめてしまった。

 いや、それでいいんだけど。

 いつ見えてもおかしくない角度だったから、せめて見えてから話題を変えるべきだったかな。


「あ、そうだ。サッカー部の新入部員歓迎会でカラオケ行こうか? っていうか行こう。今度の練習の後でいい? 他の部員にも声かけておくね」


 湖川さんの行動は早い。その場でサッカー部のグルチャにカラオケの話を出した。

 すぐに何人かからオッケーという返事がきたため、そのままカラオケ屋の予約を入れてしまった。


「じゃあね~、また部活の時に!」


 そして嵐のように去っていった。


「今のがサッカー部の女子の先輩?」


 湖川さんの後ろ姿を見ながら、飾が言った。

 湖川さんと話している間、実は俺の隣にはずっと飾がいたのだ。


「そう、湖川藍那さん」

「……なかなか美人さんだね」

「たしかにそうだな」


 湖川さんはかわいい系というよりは美人系の顔立ちだ。


「ずいぶんと簡単に褒めるのね」

「えっと……?」


 心なしか、飾の語気に棘がある。

 何か気に障ることがあったのだろうか?


「あたしに告白しておいて、他の女子を美人って、あっさり褒めるのがちょっと気になったの。それだけ」

「えっと……それはもしかして、やきもちというやつ?」

「別に、そんなことないと思うけど」

「いやいや、それって典型的なやきもちだよ。飾が俺のことを好きだってことじゃない?」

「そういうのちょっとウザいよ、るぅ。ほら、そんなこと浮かれたこと言ってないで、早く美術室行くよ。あんまりのんびりしていると遅れちゃう」


 そう言って飾は一瞬だけ俺の手を掴んだ。

 ぎゅっ。と力強く――。

 でも、すぐに離して、ひとりで歩き出してしまった。

 なにがしたかったのだろう? 手を握ろうとしたけど、近くに人がいたから離した、とかそんな感じだろうか?

 だとしたら顔が赤くなっているはずだ。

 確認すべく早足で追いかけると、飾は歩く速度を上げた。

 走って追いかけると、飾も走る。


「走ると危ないぞ」

「先に走り出したのはるぅでしょ!」


 そうして俺たちは、まるで小さい頃のように、笑いながら追いかけっこをした。




 結局そのまま美術室まで走ってしまった。

 最終的に顔の確認はできた。

 赤くなってはいたが……やきもちを指摘されて赤面したのか、走って血の巡りが良くなったせいなのかはわからなかった。

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