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現代ダンジョンで人気配信者の姪っ子を助けたら、そのまま配信の名物おじさんになった話~最古のS級冒険者~
現代ダンジョンで人気配信者の姪っ子を助けたら、そのまま配信の名物おじさんになった話~最古のS級冒険者~
あげあげぱん
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年06月24日
公開日
2.1万字
連載中
大切な姪っ子がダンジョン配信を始めた!? その知らせにアキヤは愕然とした。十六年前からダンジョンに潜ることをやめていたアキヤは、活動の再開を決意する。全身を漆黒の鎧に包み、姪っ子の活躍を遠くから見守っていたアキヤ。だが突然の、高レベルの魔物の出現に彼の体がとっさに動く。颯爽と現れ、人気配信者を守るアキヤの姿は、頼もしい騎士のようであった。これは最古のS級冒険者である黒騎士と、彼に守られながらも成長していく少女たちの交流の物語。「それはそれとして、最近の冒険者のレベル昔より落ちてない?」 カクヨム様 小説家になろう様 にも同タイトルの小説を投稿しています

第1話 最古のS級冒険者、ダンジョンに戻る

 十六年前の春、姪っ子が生まれた。世界一可愛らしい女の子だった。


 俺の姉さんは、彼女をサナと名付けた。姉さんは病院のベッドでサナを愛おしそうに抱き抱えながらこう言った。


「この子には、元気にすくすく育ってほしいな」


 姉さんが、自分の娘を大切に思う気持ちは俺にも伝わった。サナには、元気にすくすく育ってほしい。


 だから、俺は高校生活のかたわらで日本中のダンジョンに潜る活動をしていたけど、やめた。サナが大きくなった時、危ないものに憧れたらいけないから。


 サナが生まれたあの日から、俺はもっと模範的に生きようと誓った。サナにとってお手本のような叔父さんになろうと思ったんだ。


 それは俺がまだ十六歳だった頃の出来事だ。あの時の決断に後悔はしていない。


 だからこそ、三十二歳の春。俺は衝撃を受けた。サナが冒険者として活動し始めたと姉さんから聞かされたからだ。


 日曜日の朝、ナツキ姉さんの部屋。きちんと整理整頓の行き届いた部屋の中で俺は動揺し、うろたえていた。


「サナが冒険者!? な、な、なんでええええええええ!?」

「いきなり冒険者活動を始めちゃうなんて、本当に困ったものよねえ。冒険者に憧れる気持ちは分かるけどね」


 姉さん!? 呑気すぎませんか!? あなたの娘がダンジョンに潜ろうってんですよ!?


「ナツキ姉さん。サナを止められなかったの!?」

「止めたわよ。それでもね。憧れは人を止められないんだなって、あの子の目を見て思ったのよ。ならせめて、あの子を信頼のおける人物に預けたいと思うの。つまり、あんたにね」

「いや、そこで俺ぇ……?」

「だからこそじゃん。私からアキヤに頼んでるのよ。S級冒険者のアキヤに!」

「確かにS級ではあるけどさぁ……」


 俺はもう十六年間ダンジョンで活動していない。肩書きだけは当時からS級のままだけど、あまりにもブランクが長過ぎる。


「俺のS級は、さびついたS級だよ」

「あら、当時一年もかからず日本全国のダンジョンを踏破した天才なのに、やけに謙虚じゃない?」

「当時の俺は若くてエネルギーがあった。頼もしい仲間たちも居た。でも今の俺は一人の、さびついたおっさんだ」


 そう、おっさんなのだ。しかも、姪っ子のお手本になれるような立派な大人でもない。つい先日、勤めていた会社が倒産し、今は無職のおっさんなのだ。うう……サナに合わせる顔がない。


「貯金はあるけど……今は仕事を探さないとね。サナのことは心配だけど、俺に任せるよりは別の人物に任せた方が良いと思うよ」


 サナも、俺なんかより現役の冒険者と組んだ方が安心だと思う。そう言おうとして、姉さんに遮られた。むぅ。


「あんた、私はさっき信頼のおける人物に預けたいって言ったのよ。適任なのはアキヤだと、私は思うな」

「俺が適任かねぇ?」

「あんたは自分を過小評価しすぎ。それに仕事を探してるなら、冒険者に戻れば、ちょうど良いんじゃない?」


 簡単に言ってくれる。姉さんは逆に俺を過大評価しすぎだ。


「姉さん、俺はS級って言っても、基本的には、守ることしか能が無い。一人でもある程度は戦えるが、ある程度だ。昔の俺が輝けたのは若かったからでもあるけど、当時の仲間たちに恵まれていたからでもある」


 そんな仲間たちは、皆それぞれの理由で冒険者を引退してしまった。当時はほんとに頼りになるやつらだった。


「アキヤ、あんた守ることしか能が無いって言ったわね」

「……言ったよ」

「逆に、アキヤは守る力は持ってるのよ。それってサナが安心して冒険者の活動をするためには、最も必要なものじゃない?」

「それはまぁ……」


 そう言われると、そうかもしれない。でも、どうしようか。


「あんたは十六年前、まだ各地に発生したばかりのダンジョンに果敢に挑み、あっという間に日本の全てのダンジョンを踏破した。他にも、日本各地で起こった魔物災害から人々を守った。それは、アキヤの仲間たちの力もあったから、かもしれないけど」


 姉さんは俺をしっかりと見ていた。彼女の真剣な気持ちからは逃れることはできない。


「当時の冒険者協会は、あんたをS級冒険者として認めたのよ。私は冒険者じゃないけど分かる。アキヤは誰かを守る天才なのよ。それと、あんた今でも体を鍛えてはいるんでしょ? 知ってるんだからね」

「まあ、昔からの習慣だから……」

「それに、先週も暴漢から女の子を守った。って聞いたわよ。大男の腕を軽く捻ったって」

「いや、それは相手が素人だったから……」

「ともかく、サナは都内の低ランクのダンジョンに行ってるの。近くに様子を見に行くだけで良いから頼まれてくれない? あんたが、あの子の近くに居てくれると、私も安心なのよ」

「……むぅ」


 流石に……そこまで言われちゃね。これで何も動かなかったら、かっこ悪いか。分かったよ。姉さんの説得に応じるさ。


「とりあえず、サナちゃんの様子を見てみようと思う。えっと、今日はダンジョンに行ってるんだよね?」

「うん、ダンジョンで配信してるわよ」

「は、はははは配信んんんん!? ダンジョンでぇ!?」


 いやいや、いくらなんでも呑気すぎない!? あ、でもサナちゃんって人気配信者だったか。それなら……いや、しかしなぁ。


「最近は魔導ドローンってやつで、ダンジョンの中で活動しながら、安定して撮影ができるらしいのよ。サナが言ってた」

「そうなんだ……」


 時代は変わったなあ。十六年もあれば、そりゃ変わるか。うぅ……俺も歳をとったことを感じるなあ。


 それじゃ……とりあえず準備をしてから、サナの居るダンジョンまで向かってみよう。なんだかんだ、心配だしな。


 それにしても、なぜサナは冒険者になったんだ?

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