こと青少年の生活において、ひとが当たり前に持っているものが己にはないと悟ることは。
好きな子の隣でオナラしてしまう (そしてばっちり気づかれる) のに、勝るとも劣らぬ恥辱と苦悩ではないだろうか ――
進路指導の面接官たちの憐れみとも困惑ともつかない表情を前に、ぼくはそんなことを考えていた。
「あーと、その。
「はい」
「検査の結果…… キミは100万人に1人の
「はい」
まあ、だいたいわかっていた。
―― 現代のこの世界では人間は、14歳を過ぎるとなんらかの
なんの
一応は、本人の希望も提出させられるが…… あくまで重視されるのは
ぼくたちは、
いまさら誰も
「よって……」
面接官の先生は、切なげな表情でためいきをつく。
「キミが希望していた、高等防衛学校ダンジョン駆除課への進学は、見送らざるを得ないね……」
「はい」
ぼくは膝の上で、そっと、こぶしをにぎりしめた。
―― 1908年、ツングースカ大爆発。
ロシアの上空で巨大隕石が爆発したこの事故から約120年が経った現在、世界じゅうで見られる現象 ―― それが、
そして、魔界ダンジョン発生とは ――
遊園地、ショッピングセンター、あるいは自宅…… それまで普通に人が暮らしている場所に、突如、ダンジョンが現れる現象だ。
ダンジョン発生の原因は、ツングースカ大爆発の折に魔界とこの現実世界との境界が開いてしまい、魔界が侵食してくるようになったため。
近年の研究で原因がやっとわかったころには、もはや、ダンジョン発生は珍しくなくなっていた。
巻き込まれて行方不明になったり死亡した人の数は日本だけでもすでに千人を超えている。
このままではやがて、日本は魔界にのまれてしまう ――
この、コンビニがいつでも開いていて、携帯で面白いアニメやマンガや動画配信がいつでも見られて、どこに行ってもウォシュ◯ットつきトイレがあって、白米の飯が激烈ウマい天国・日本が……!
守りたい、この、素晴らしい日本を。
ぼくは、自衛隊のダンジョン駆除官を目指して、高等防衛学校を志願していた。
―― が、結果は、いま言われたとおりだ。
「希望が通らないのは可哀想だが……
「はい」
「いちばんのオススメは、
研究所の学生、とは名ばかり。実態は
だけど、すぐにうなずくことは、ぼくにはできなかった。
ためいきとともに、声をしぼり出す。
「考えさせてください」
「まあ、そうだね…… お母さんともよく相談して、決めてください」
「はい…… ありがとうございました」
ぼくは立ち上がり、面接官に向かい、頭をさげる。
一刻もはやく、この場から去りたい ――
回れ右したぼくの背中に、面接官が声をかけてきた。
「ああ、そうそう…… キミ、これをなんだと思うかい?」
この期に及んで、なんだってんだろう。
重い頭を引きずるように振り返ったぼくの目の前に面接官が突きだしたのは、小さな石ころだった。
その辺に転がってそうな、なんの変哲もない、無価値の…… なにこれ嫌味か?
ぼくは、石ころから目をそらし、吐きすてた。
「いまの、ぼく、でしょうね」
―― こうしてぼくの進路は 『引きニート』 か 『
後日、1通の封書が家に届くまでは ――