『 合格
防衛芸術高校ノースキル科
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折田信長 様
あなたの今回の結果に心よ
り、お祝い申し上げます。
入学をご希望される場合は
下記QRコードを読み取り
手続きに進んでください。
桜咲く学舎で会えることを
職員一同、楽しみにしてお
ります。 』
「―― なに、これ? 詐欺?」
中学3年生の2月も終わりの、ある日。
研究施設の
封書には翼をひろげた鷹と桜、それに 『芸』 の文字を組み合わせたロゴと校名が印刷されている。
「詐欺だとしたら、手が込んでるわねえ」
ご丁寧に同封されていたパンフを眺め、母が首をひねった。
「入学するつもりで行ってみたら、じつは
「あーでもそれ、防衛学校の生徒はあるんだよ。防衛芸術高校?も、同じじゃないかな。そもそも、そんな高校あったっけ、てとこが謎だけど」
「ふーん…… まあ、直接聞いてみるのが一番よね」
母はスマホを手に取り、防衛省のサイトを調べ始めた。
「あら、本当に防衛芸術高校なんてあるのね……
えーと 『近年、人が物事に感動する心のエネルギーの
「あー
ぼくは母のスマホ画面を見た。
防衛芸術高校の紹介ページの目立つところに、
『あなたの
ダンジョン配信を見て
「で、えーと 『ノースキル科』 は、来年度から新設されるのね……
『
母が読み上げた部分の下には、校長の談話が乗っている。
『芸術の可能性は無限。
"
ふーん…… って、なるか?
そもそも、
母が俺を見た。
「あなた、芸術なんてしてたっけ? 音楽とか美術とか、得意だった覚え、ある?」
「いや? フツー」
「よねえ…… ともかく、電話して聞いてみなきゃ ―― あ、もしもし。わたくし、折田と申しますが、その、息子の
母がしゃべりながら、スマホのスピーカーをオンにする。
とたんに、キリッとした女の人の声が聞こえた。
『折田信長さんは、当校のノースキル科への合格が決まっておりますが、入学はご本人と保護者様のご意思が優先され、強制ではありません。
なにぶん、本人の天性を確認するために
「…… ということだそうよ。どうするの、信長?」
『信長さんも、そちらにいらっしゃるのでしょうか?』
「はい、おりますが」
『お母様。少し、信長さんと、お話させていただいても、よろしいでしょうか?』
「はい、大丈夫です」
ぼくは、母にかわって答えた。
スマホの向こうで女の人が 『ありがとうございます。申し遅れましたが、私、ノースキル科の担任の鷹瀬と申します』 と名乗る。
「あ、はい…… よろしくお願いします」
『信長さん。大切なことですから、よく考えて決めてくださいね。
そのうえで、当科への入学を決めていただけるなら、私たち教職員としてもこれほど嬉しいことはありませんし、学生生活も戦闘も、全力でサポートさせていただきます』
女の人 ―― 鷹瀬先生の声はまじめで誠実で、信用できそうに、ぼくには思えた。
「また、母とも相談しますので……」
『そうですね。しっかり相談されたうえで、決めていただければ、と思います。よろしくお願いいたします』
「はい…… では…… えーと、失礼します」
相談するとは言ったけど、ぼくの気持ちはもう、決まっていた。
―― 引きニートも嫌ではないけど、父親がダンジョン発生に巻き込まれて行方不明になって以来、完全ワンオペでぼくを育ててくれた母親に申し訳なさすぎる。
――
―― 残る道は、一択しかないんだ……
「かあさん、僕、防衛芸術高校に入学するよ」
ぼくは母親から目をそらし、宣言した。