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01 高名瀬さんの秘密その2

 人気のない夕方の教室で、クラスメイトの女子と二人きり。


 それだけでも、純朴な男子高校生である僕にとってはどきどきするようなシチュエーションであるのだが、クラスで目立たない女子が実はとてつもない巨乳で、しかもその大きな胸元の谷間をたった今マンガのような奇跡でうっかり目撃してしまい、現在彼女はその際の羞恥に耐えるように身を丸めて小さくなっているような状況で、赤い夕日に照らされた逆光の中でも彼女の顔が真っ赤に染まっているのが分かるくらいに照れている彼女がなんかもう物凄く可愛く見えて、本当にもうつい十数秒前まで、この教室のドアを開く直前まではありふれた日常の中にいて「今日もこのまま何もなく終わっていく退屈な一日なんだろうな」なんてことを思っていたわけだけれども、突然マンガの世界にでも引き摺り込まれたんじゃないかってほどの非日常を目の当たりにして、軽くなんてものじゃないほどパニックに陥った僕の脳内は「とにかく何か言わなきゃ」という謎の使命感に突き動かされ、数多ある候補の中から一つの言葉を選択し、それを声に乗せて発した。



「フロントホック派なんですね」

「他に言うことはないんですか!?」


 物凄く睨まれた。

 でもごめん。

 涙目で睨んでくるその顔、たまらなく可愛いです。


「……とりあえず、向こうを向いてもらえませんか? 整えますので」


 あらわになった胸元を隠しながら、彼女が涙目で訴えてくる。

 おぉっと、失敬。

 もっと早く気付いて、気を利かせるべきだった。


 僕は慌てて回れ右をして、彼女に背を向ける。


 がさごそと、こちらを窺うようにゆっくりとした動作で動いているのであろう衣擦れの音が聞こえてくる。


 高名瀬さんは「整える」と言ったが、シャツのボタンは盛大に弾け飛んでしまっているのに、どうするつもりなのだろうか……?


 普通に考えれば、弾け飛んだボタンを縫い付けて修繕するのだろうが、シャツを着たまま出来るものなのだろうか?


 えっ!?

 もしかして、シャツを脱いでボタンを縫い付けている!?

 今僕の背後で、そんな凄まじい光景が繰り広げられて……あぁっ、ちょっと待って! 高名瀬さん、たしかブラのホックも弾け飛んでいたはず!

 そんな状態でシャツを脱いだらブラが……まさかっ、ブラのホックを直すところから!?


 じゃあもしかして僕の背後では今、高名瀬さんは上半身すっぽんぽ――


「高名瀬さん、破廉恥です!」

「何を想像しているんですか!?」

「そんな破廉恥なこと、言えません!」

「そんな破廉恥な想像をしないでください!」


 むきぃー! と、叫んだ後、数秒ほどごそごそしてから、高名瀬さんは「もうこっちを見てもいいですよ」と呟いた。


 恐る恐る振り返ってみると、高名瀬さんの胸元には大きな安全ピンが留まっていた。


 あぁ、安全ピン。


「用意がいいんですね」

「別に…………よくあることですから」


 よくあることなんだ……




【高名瀬さんの秘密その2】


 高名瀬さんの胸元クラッシュは、よくあることらしい。







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