「え、口笛? ……ですか?」
「そう、さっき吹いてたでしょ?」
「……吹いて、ましたか?」
無自覚!?
いよいよ誤魔化しが下手だな、この人!?
「後ろめたい時、自然と口笛が出るっぽいからから、気を付けた方がいいよ」
「そんなことは……ないですけども」
いや、出てたから。
「で、高名瀬さんさ……あ、ごめん。タメ口でいい? 嫌なら、敬語に戻すけど」
「いえ、わたしはタメ口で、全然」
「じゃあ、高名瀬さんもタメ口でいいよ」
「いえ、わたしは敬語で、全然」
わぁ、分厚い壁。
物凄い壁を作られてる。
まぁ、あんなもんを見られた後だからなぁ、しょうがないか。
「それで、高名瀬さんはどうしてこの教室に?」
この教室には、普段からカギをかけてはいない。
とはいえ、そもそもこの旧校舎自体がめったに人の寄り付かない場所なのだ。
新入生で旧校舎へ踏み入ってくる人間など、おそらく僕以外にはいないだろう。
――と、思っていた。
今日までは。
でも、高名瀬さんがここにいた。
それはなぜか?
「…………」
沈黙。
答えにくい理由のようだ。
「……ゲームの、充電をさせてもらおうかと」
返事をじっと待っていると、観念したように高名瀬さんが声を絞り出す。
確かに、教室のコンセントでゲーム機の充電をしているところを見つかりでもしたら一大事だ。
そもそも、ウチの高校はゲーム機の持ち込みは禁止だし。
「とはいえ、旧校舎に忍び込むって、結構勇気が必要だったんじゃない?」
実を言うと、旧校舎は教員がたまに出入りする程度の場所で、生徒目線から見れば非常に入りづらい場所なのだ。
あと、場所もそこそこ遠い。
現在使用されている校舎は、ここから体育館を挟んで反対側だ。
旧校舎は新校舎から徒歩で七分くらいかかる微妙に面倒くさい立地にある。
にもかかわらず、高名瀬さんはここにやって来た。
ここならば、誰にも見つからずに充電ができると確信を持って。
「もしかして、いつだか、僕のことをつけてきた?」
考えられるとすれば、人目を避けて旧校舎へやって来た僕を見かけて、後をつけてきて、「あ、ここ入れるんじゃん」と気付き、しかも「人全然来ないじゃん」と知ったから、だろうか。
そんな疑念を込めて高名瀬さんをじっと見つめていると、そわそわしていた高名瀬さんは――
「ふしゅ~♪ ふひゅ~♪」
――と、口笛を吹き始めた。
【高名瀬さんの秘密その4】
高名瀬さんは、誤魔化しが下手。