やあみんな、俺は
高校生になってから彼女が出来たんだ!向こうから告白されてねムフフ…
セミロングの綺麗な茶髪が似合う女の子だ、ちなみにお胸は平均かそれより少し大きいくらいだと思う。まぁ他の子の胸は見た目からの判断なので多分だが。
俺は部活があって、彼女は帰宅部。
つまり彼女の方が早く帰るので家で待っててもらっている。
今日も今日とてお楽しみですよ、
そんな気持ちは粉々にぶっ壊されるんですけどね。
え、なんで俺の部屋で父さんと彼女がヤってるわけ?意味分かんねぇんだけど?
絶句っすよ絶句、言葉出んわ。
夏休みが終わった後のまだまだ残暑の厳しいこの季節に、どうしてこんなしんどい光景を見なけりゃならんのだ。とはいえ、見てるだけと言うわけにはいかない。
あまりの衝撃に却って冷静になった俺は、スマホでその光景をしっかり記録する。
暫くして俺は扉を強く開け怒鳴った。
「何してんだよ!」
あまりのショックに声が裏返ってしまったが、それは
二人とも驚いているが普通に考えてバレるだろ。
何せここ俺の部屋だぜ?帰ってきたら本人ここに来るんですよ?
そもそもよく考えると、息子の彼女が来てるってのに、昼間っから宜しくやってる父って時点でおかしい…
しかもよりによって息子の恋人に手を出すかね。
「えっ、ハル君!?」
「おっお前いつ帰ってきたんだ!部活はどうした!」
「はぁ?とっくに終わってんだよ時間見てみろ!」
俺のベッドの上にいる二人は裸のまま何やら言っている。
言うに事欠いてこのジジイ、俺を責めようとしてきやがった、どんだけセックスに没頭してたんだ。
俺の言葉にコイツらは、部屋に置いてある時計を見てあっと間抜けな声を出した。
まずはこんな小汚い格好なのは見るに堪えないので服を着てもらい、改めて話をすることにした。
「んで、どういうこと?」
ここは家のリビング、俺はテーブルを挟んで椅子に座り、仲良く隣合って座る父と彼女と向かい合う。先程の光景に加えてコレなので、苛立ちのあまりテーブルを人差し指でコンコンと鳴らす。
どういうことも何もないことは分かっているが、とにかく二人から洗いざらい話してもらう事にした。認めて謝罪してもらわんと気が済まん。
「どういうこととはなんだ」
なんと親父は言うに事欠いて誤魔化そうとしてきた。えぇ…なにシラ切ろうとしてんだ?
「なんで二人はセックスしてたんだよ!」
苛立った俺はテーブルを叩いて叫ぶ。あぁ言っちゃった、だって耐え切れなかったんだもん。
正直ブチ切れですよブチ切れ。そりゃそうでしょ彼女ですよ?高校に入って初の彼女。
愛してやまない恋人が父とヤってたなんて冷静でいられる?
…まぁ録音はしてんですけどね。
「仕方ないだろ、お前
「…は?」
仕方ないとか何言っちゃってんだ?キメてんのか?気でも触れたか?
衝撃のあまり二の句を継げない俺を
「聞けばお前は莉乃さんに暴力を振るっていたそうじゃないか、だから俺はその話を聞いてたんだ。あまりにもこの子が可哀想だったから守ってあげたくなった、それだけだ」
いやいや無理ありスギィ!なに俺ってつまりDV男…ってコト!?
そんなことはない。少なくとも手を上げたことはないし、声を荒げたことだってない。
それなのにDVとは?意味が分からない。
「っ…そうだよ!私もう耐えられないの!
はあぁ!?良くもまぁそんなスラスラと色々嘘っぱち言えますね!スッゲェ不自然だよ?
白々しいっつーのかな?まるで用意してあったセリフを話してるような、大根役者の演技と言えばわかるだろうか?少し棒読み混じってんだよね。
クソ親父が言い終わるや否や、莉乃がわざとらしく泣きそうな様子で言い出した。自分の言動に違和感を抱かないのだろうか?
だけど冷静じゃない俺は、莉乃の演技混じりの様子に気付かない。
「い…や何言っ…っに言ってんだよ、俺お前に手を出したことなんてないだろ!」
二人の言い分に納得がいかない俺は、苦し紛れに髪をくしゃりと握って、立ち上がり前のめりになってしまった。
「キャッ!」
莉乃は怯えたように身を捩らせる。どう見てもその仕草はわざとらしかった。
それを見た父は、テーブル越しに俺にパンチをかましてきた、顔面に。
その衝撃で体が後ろに倒れる。
「やめろ!莉乃さんに手を出すな!」
「怖い、怖いです粕斗さん…」
「大丈夫だ、俺が守ってやるからな…こんな奴は俺の子供じゃない!」
なんで抱き合ってんだよ…何してんだよ……演技臭ぇんだよやめろよ!そんな俺の心情などそっちのけで、俺を悪者にしたコイツらはすっかり二人の世界に入っていた。
見せつけるようにキスをしている二人を、俺は尻餅をついたまま呆然と眺めることしかできなかった。
「お前は部屋にいろ、その間に俺は莉乃さんを送ってくる。お前のことは後で決めるから勝手に家から出るなよ」
そのあと俺は父に引き
追加で三発、それとは別に四発蹴りを貰った。
思い切り食らったようで身を守っていた左腕が真っ青で口の中も傷だらけ…どうしてこうなった?
意気消沈した俺は何も出来ず部屋にこもっていた。
小一時間もして仕事から帰ってきた
「オラ!早く来い!」
「痛いって父さ…がぁッ」
頼むから放り投げる次いでに蹴り入れてくんのやめて?器用やねアンタ。
父は俺の髪を掴んで引き摺った俺を蹴り飛ばし、リビングにいる二人の眼前に突き付けた。
「ちょっと父さん!お兄ちゃん痛がってるよ、やめて!」
「あなたどうしたのよ晴政くんが何したの?」
流石にまともな状況では無いので
その様子を見るに、俺の評価は元々酷いものらしい。恐らくこいつらの言葉は表面上だけのものだろう。
父はそのままドカっと音を立てて椅子に座る。
「こいつは事もあろうに自分の彼女に日常的に暴力を振るっていたんだ、それをその娘から相談されてな、最低な野郎だ!」
「だからやってねぇよ!ざけんな!」
「うるさいっ!」
それでも二人はそれを疑うだろうと思っていた。
「え……何言ってんのお父さん、マジ?」
「うそ……晴政君、そんなことしてたの?」
ぇぇぇぇ何その反応、せめて義妹くらいは否定して欲しかったなー
まぁ義母は元々信用してねぇからあれだけどね、前から思ってたけど何か薄っぺらいんだよなこの人。
「何言ってんだよ、んなことしてないし、父さんなんてセックスしてただろうが!」
あるかどうか分からん話(というか存在しない)より事実だと、俺はそう叫んだ。
目に見えて驚く二人、そりゃそうだ。
「ちょっとどういう事よ粕斗さん!」
義母は今にも掴みかかりそうだった。
義妹はドン引きである。当たり前だよなぁ?
「しっ仕方ないだろ、あの娘は酷く傷付いてた。誰かが支えてあげなければいけなかったんだ…すまない」
そう言って父は頭を下げる。
そんな父の姿を見て、義母はあげた拳を下ろすように腰を下ろした──って…え!?下ろしちゃったの!?そんな簡単に落ち着いていいことじゃないよね!?
「そう…仕方ないのね」
いや仕方なくねーよ!何言っちゃってんのババー!
やっぱり胡散臭ぇよ!そんな事あっさり納得するならなんで結婚したの?好きだから結婚したんじゃないの!?
「いや良くないよお母さん!充分おかしいよ!」
そうだぞー
「母さんもね、おかしいとは思うけど…二人がよく考えてした事なら何も言えないわ。私と離婚するつもりはないんでしょ?」
「当たり前だ!大切な家族だからな、無責任な真似はしない!」
「ぁ…あーそうなんだ、ならいい?のかな?いや訳わかんないけど、母さんがいいならあたしは何も言わないよ」
訳が分からなかった、
というより義妹に関しては、この冗談みたいなできごとをあんまり納得できていないだけなのかもしれないが。
「それで、このクズについてはどうすんの?」
「……はぁ?」
そして義妹が向けてくる視線は
決して仲が悪かった訳ではない…と思っていたのだが、こうしてみると内心嫌われていたのがよく分かる。
義理とはいえ兄妹で遊ぶことも多く、下らない会話や世間話なんかをして笑い合うような日々を送っていて、困った時はお互い助け合ったりもした。
昔いじめられていた義妹を助けたりなんかもして、決して軽い存在ではなかったと……血を分けた兄妹となんら変わらない、そんな絆で結ばれてるだなんて信じていたんだ。
でも結局は勘違いで、家族の絆なんてオブラートのように薄く、ちょっとしたことで溶けたり破れたりする、そんなもの。空虚なものだ。
「こいつは最早俺たちの家族じゃない、せめて高校生の間だけは部屋くらいは貸してやるが、卒業したらすぐに出てってもらうからな!」
「ちょ…んだよそれ…」
「それがいいね、あたしだってこんな奴家族だなんて思いたくないもん、まぁ元々血も繋がってないからそこは助かったけどさ。そんな本性隠してたなんてもう信用出来ないし…絶対近付かないでね。変な事しようとしたらすぐ父さん呼ぶから、死んじゃえ!この犯罪者!」
嫌悪感どころか敵意をハッキリと突きつけてくる義妹。完全に犯罪者扱いで、冤罪もいいところだ。勘弁して欲しい。
最早家での俺の扱いは最悪だ、しかし悪夢がこれで終わるわけがないことを俺はすっかり失念していた。